「富士山なめるな」封鎖を“強行突破”した中国籍の男性がまた遭難…冬季閉鎖中の登山道に入ってもお咎めなしの理由
「富士山なめるな」封鎖を“強行突破”した中国籍の男性がまた遭難…冬季閉鎖中の登山道に入ってもお咎めなしの理由

1月18日午後1時ごろ、富士山の富士宮口付近で中国籍の男性(20)が下山中に転倒し、救助を求める119番通報があった。静岡県警は2チーム11人で構成された山岳救助隊を派遣し、丸1日かけて男性を救出した。

閉山中の救助要請に「ルール違反だ」「富士山なめるな」など批判の声が上がる。

閉山中の富士山で弾丸登山…法的処罰はあるのか

「転倒し、右足首を負傷して歩けない」

1月18日午後1時半ごろ、閉山中の富士山へ弾丸登山を行なった中国籍の男性(20)から、下山中に身動きが取れなくなったと119番通報があった。男性は同日午前0時ごろに富士山への登山を開始した。

「男性は富士山の登山道が閉鎖されていることを知りながら入山。入山の際に緊急時に必要な登山計画書も提出していませんでした。静岡県警・山岳救助隊の2チーム11人が派遣され、先行部隊が18日午後7時30分に遭難者と接触し、日付が変わらないうちに後発隊も合流。

当時は天候が悪かったことから、近くの安全な場所で待機し、翌19日の午前8時ごろに下山を開始。19日午後1時頃、救急隊に引き継ぎ救助を終えました」(静岡県警地域課)

静岡県警地域課によると、現在、富士山の登山道は冬季閉鎖中で、閉鎖された登山道を使用した場合、6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金に処される可能性があるというが、今回の男性のように冬季閉鎖中の山岳に入山しても罪に問われることはないのだろうか。

「遭難者が閉鎖中の登山道を通ったかどうかは、積雪や氷で道が判別できないため、法律違反などに問われることはないでしょう。登山道は『閉鎖』されていますが、法的に『入山禁止』ではないんです。

登山道という『線』は閉鎖できても、山全体という『面』への立ち入りを禁止する法律や条例はないんですよ。だから、勝手に入った人間を強制的に排除したり、入った瞬間に罰則を適用したりするような法的根拠は、現状ゼロなんです」(同前)

「この時期の富士山は、人が浮いてしまうほどの風が吹いている」

民間の捜索・救助チーム「山岳遭難捜索ネットワーク」も同様に、「入山禁止」の法的効力の弱さを感じていた。

「いわゆる富士山に関しては、一応『登山禁止』とは書かれてはいますが、法的に入山を禁止する権限はないのが現状です。林道は通行止めであっても、そこに強制的に入った瞬間に逮捕されるような法律や条例は存在しませんから」

実際、同ネットワークの担当者が過去に警察関係者と話をした際も、「林道そのものではなく、積もっている雪の上を歩くなら法的にどうなのか」という議論になるほど、線引きはあいまいだという。

今回の現場となった富士宮口8合目付近は、冬季は極めて過酷な環境だという。

「富士宮側の登山道は傾斜がかなり急峻(きゅうしゅん)で、風をまともに受ける場所です。基本的にこの時期の富士山は、人が浮いてしまうほどの突風が吹いており、天候次第ではどんなに登山経験が豊富であっても滑落してしまうケースが多いです」(同前)

また、男性が登山道へ入った経緯について、担当者は「“誤って入ってしまった”と考えるのは難しい」と指摘する。

「主要な登山口はベニヤ板などで頑丈に封鎖されており、そこを突破するのはかなり大変です。簡単には入山できないようになっているはずなので、無視して突破しようという意思がないと入山できないでしょう」(同前)

背景には外国人観光客による富士山への関心の高さもあるという。

「近年、海外の方々から見ても、日本の象徴として『登ってみたい』という外国人は非常に多いです。歩いて登り下りする人もいれば、下山時は滑り降りたいという人もいて、楽しみ方はさまざまです。エベレストのような記録に残るほどの標高や難しさはないものの、登山未経験者にとっては十分に難しい山と言えます。さらに富士登山で厄介なのは、途中までは意外に簡単に登れてしまう点です。

5合目までは比較的容易に行けてしまうが、そこから先で環境が急変する。登りは体力でカバーできても、下りになると地面が凍結しているので、とても危険なんです」(同前)

救助費用は2日間で100万円かかることも…

公的機関である警察の救助活動は基本的に無償だが、民間団体が捜索・救助を行なう場合、多額の費用が発生する。

「我々のような民間の場合、1日1人につき5万円超の費用がかかります。

生存の可能性がある場合、5人以上の体制や本部運営費を含めると、2日間で50万円から100万円ほどの救助費用がかかる計算になります」(同前)

相次ぐ遭難を受け、罰則付きの入山規制を求める声も上がっているが、担当者は「何でも禁止にすれば良いわけではない」と言う。

「禁止や罰則だけで縛るのは成熟した社会とは言えません。今後は、冬山登山を許可制にするなどの仕組み作りや、正確な情報発信が必要になってくるのではないでしょうか」(同前)

前出の静岡県警は、国籍を問わず事故防止に向けた啓発活動を強化している。県警公式SNSやホームページでの情報発信に加え、インバウンド需要の回復を受けて外国人向けの対策も拡充した。

具体的には、登山道が閉鎖中であることを伝え、入山自粛を求めるチラシを数カ国語で作成し、インターネット上で公開している。また、今回の遭難者が中国籍であったことに関連し、静岡県では独自の施策も展開。中国に駐在する県職員を通じ、現地での呼びかけを行なうなど、夏山シーズン終了後から継続して水際での周知に努めている。

冬の富士山を訪れる外国人登山者の実数については、この時期は登山者カウンター等での計測を行なっていないため、正確なデータは存在しない。そのため、現状では遭難や救助に至った件数ベースでしか実態を把握できないのが実情だ。

一部で外国人特有の問題として捉える向きもあるが、昨年末には日本人の遭難事故も発生している。静岡県警の関係者は「データがないため断定はできないが、リスク管理が必要なのは日本人でも外国人でも変わらない」として、国籍を問わず冬山の危険性を正しく認識するよう求めている。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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