生成AIが登場して久しい。編集者の鈴木俊之氏はAI時代にないと困る4つのスキルを挙げる。
AI時代に必須なスキルは4つ
私が取材や仕事を通じて痛感しているAI時代の必須スキルは4つあります。
第一に「言語化力」。AIに具体的な指示を出せなければ、凡庸で曖昧な文章しか返ってきません。木暮太一氏が著書『すごい言語化』(ダイヤモンド社)で指摘しているように、固有名詞や数値を織り交ぜた具体的な指示がなければAIの精度は劇的に落ちます。
例えば、「良い記事を書いて」という曖昧な指示では、AIは一般的なつまらない記事しか生成できません。
しかし、「退職代行サービスがなぜ普及したかを分析し、20代のフリーターが共感するような、やや自虐的なトーンで、結論を2つに絞って解説して」と具体的に指示することで、AIは人間が求めている「意図」を正確に汲み取り、質の高いアウトプットを生成します。
これは取材現場で質問を投げかけるのと同じで、あやふやな指示には抽象的な答えしか返ってこないのです。
第二に「データ力」。これはどんなデータを仕入れるかの力です。AIの価値はAI技術そのものではなく独自データに宿ります。
これは人間個人に置き換えれば、日々の会話や商談、街での観察、そして自身のユニークな経験から、他人が知らない独自の情報、つまり「一次情報」を仕入れられるかどうかにかかっているでしょう。
第三に「独自の視点」。ネットにしか落ちていないデータを寄せ集めても差はつきません。生成AIを単に検索サイトの代わりに使うのは無意味です。
「AIに〇〇と聞けばこんな答えが返ってくるだろう」という予測の範囲内では、読者の心は動きません。自分ならどう面白くできるか、どんな新しさを加えられるか。その視点がなければ、どのアウトプットも既視感だらけになります。独自データとAIを掛け合わせることこそが今の時代の正しいAIの使い方なのです。
第四に「解析力」。せっかく仕入れたデータも、どこに焦点を当てるかで価値が変わります。取材した中のどの要素を強調し、何をタイトルに盛り込み、どんなストーリーを描くのか。
「言葉に魂を吹き込む」スキル
これは記事づくりと全く同じで、AIが吐き出した大量の情報の中から「見せ場」を選び抜く力が問われています。
第3章に書きましたが、雑誌『プレジデント』で「交通事故の賠償額」というテーマを、「学歴」という切り口で解析し、読者の潜在的な不安を刺激するタイトルに昇華させたように、どこに光を当てるかという「解析力」こそが、コンテンツの命運を分けるのです。
それらの必須スキルを踏まえた上で、これから紹介する技術は、単なる表面的なテクニックではなく、読者の心の奥底に眠る欲求や感情を読み解き、そこに響く言葉を選び抜くための思考法です。
AIが効率的に文章を生成できるようになった今だからこそ、人間が担うべき、この「言葉に魂を吹き込む」スキルを身につけることが、コンテンツクリエイターとして食いっぱぐれないための絶対条件なのです。
まず、このスキルがなぜAI時代において、あなたの強力な武器となるのかを再確認しておきましょう。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、著書『2011年新聞・テレビ消滅』(文藝春秋)の中で、メディアを構成する3つの要素を「3つのC」として提唱しています。
この概念は、現代のコンテンツ業界を理解する上で非常に重要です。それぞれを具体的に見ていきましょう。
最も影響を受ける”コンベア”
①コンテンツ(Contents)……情報そのもの、つまり「何を伝えるか」という中身のこ
とです。
②コンテナ(Container)……コンテンツを収める「器」のことです。つまり、コンテン
ツがどのようにパッケージされているかを指します。例えば、芸能人の不倫スキャンダルというコンテンツならば、それは雑誌『週刊文春』の誌面の記事かもしれません。
③コンベア(Conveyor)……コンテンツをユーザーに届ける「手段」のことです。これは、コンテンツの流通経路を指します。
この「3つのC」の中で、最も時代の波に大きく飲み込まれ、影響を受けているのはコンテナとコンベアです。
この10年で、私たちはその変化を目の当たりにしてきました。かつてコンビニの棚を賑わせていた雑誌コーナーは縮小し、多くの雑誌が物理的に姿を消しました。これは、情報伝達のコンテナが「紙」から「デジタル」へと劇的に変化したことを示しています。
それに伴い、情報を届けるコンベアも、書店という物理的な場所から、インターネット上のプラットフォームへと移行しました。
「興味深い情報そのもの」を求めていることに変わりはない
経済誌『週刊ダイヤモンド』などの雑誌が、今やウェブやデジタル版を主戦場としています。紙媒体を制作してきた私の同期の編集者たちは今も編集部に在籍し、出世していますが、彼らが手掛ける記事の多くは、もはや紙媒体ではなく、ウェブサイトやSNSといったデジタルなコンベアを通じて読者に届けられています。
しかし、その一方で、コンテンツは相変わらず好調であり、世の中から依然として強く求められています。
各ユーチューブチャンネルの登録者数は伸び続け、Xでは暴露系アカウントを含め、芸能人のスキャンダルから甲子園に出場する高校野球部の不祥事、政治家の不祥事、有名芸能人同士のサプライズ結婚まで、ニュースになると途端に多くのPVを集めます。
これは、どのコンベアやコンテナであっても、人々が「興味深い情報そのもの」を求めていることに変わりはない、という事実を示しています。
どんなにAIが進化しようが、食いっぱぐれることはない
つまり、この中で優れたコンテンツを見つけられる人、そしてコンテンツの切り口を考えられる人、つまりプロの編集者的な視点を持つ人は、たとえコンテナやコンベアが変わったとしても生き残り続けられるどころか、そのニーズが高まり続けるのです。
AIがコンテンツの量産を可能にした今だからこそ、その大量の情報の中から「本物の価値」を見抜き、読者の心に刺さる切り口を見つけ出す「企画力」や「編集力」は、ますます希少価値の高いスキルとなっています。
AIは、膨大なデータを学習し、効率的にコンテンツを生成することができます。しかし、AIは「何が面白いか」「何が人の心を動かすか」といった本質的な「コンテンツ」の価値を自律的に見つけ出すことはできません。
AIはあくまで、与えられた情報に基づいて、最適なコンテナとコンベアの選択肢を提案するツールです。
ヒットを生み出し、人の可処分時間を奪うことができる編集者的視点さえ持っていれば、いくら出版不況と言われようが、どんなにAIが進化しようが、食いっぱぐれることはないと私は考えています。
売れる文章の核心:読者に「読んだ後の利益」を提供すること
このスキルを身につけることは、単なるライティング能力の向上に留まりません。それは、コンテンツの価値を最大限に引き出し、読者の心に深く刺さるようなメッセージを生み出す、プロの編集者としての思考法を身につけることを意味します。
この思考法さえあれば、あなたはどんな時代でも、どんなプラットフォームでも、あなたの言葉を必要とする人々に価値を提供し続けることができるでしょう。
では、読者の心を動かす「売れる文章」とは、一体どのようなものなのでしょうか? それは、あなたが伝えたいことを一方的に書くのではなく、読者がその文章を読んだ後で、明確な「利益」が得られることを提供できる文章です。
この「利益」は、お金や時間といった直接的なものだけではありません。感情の揺さぶりや新しい視点の獲得も、立派な利益です。
あなたがコンテンツを読者に提示するという行為は、読者にとって貴重な時間を「消費」させることを意味します。その消費に対して、彼らが「満足」できるだけの対価を、言葉で支払わなければなりません。
コンテンツが提供する「利益」とは、突き詰めれば「読者の人生を少しでも良くする」ためのものです。それは、明日から使える具体的なノウハウかもしれませんし、日々の生活で抱えていたモヤモヤを解消する気づきかもしれません。
あるいは、単に面白い物語を読んで心が満たされることかもしれません。
文/鈴木俊之 写真/shutterstock
タイトルから考えよう
鈴木 俊之
「いい記事を書いたのに、誰も読んでくれない」「うちのプレスリリースはなぜ無視されるのか」。その原因は、あなたの文章力ではなく、入口の設計ミスにある。AIが書く「無難で正確な文章」が溢れる今、読者は「読むのが面倒だ」と感じている。あなたのコンテンツが生き残るには、読者の心拍数を一瞬で変える「衝動」を仕掛けるしかない。元『週刊SPA!』の名物編集者であり、ヤフーニュースで数百万PVを叩き出した著者が、AI時代に必須の哲学を初公開。「納品主義」を捨て、読者の「感情のジェットコースター」を設計する具体的な思考法を「エアポート投稿おじさん」生みの親が伝授する。

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