「声ひとつで支配した」朝ドラ『ばけばけ』の怪談一人語り、称賛集めた髙石あかりの“発声力”
「声ひとつで支配した」朝ドラ『ばけばけ』の怪談一人語り、称賛集めた髙石あかりの“発声力”

島根県松江の没落士族の娘・小泉セツと、外国人作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の夫婦をモデルに描く、朝ドラ『ばけばけ』。いよいよヒロイン・トキとヘブンの“夫婦編”が本格的にスタートした。

 

そんな中、注目されているのが、髙石あかり演じるトキが怪談を語る場面だ。これまでのコメディ色の強い役柄から一転、場の温度感が一気に下がるような語り口と緊張感のある演技に、SNSでは絶賛の声が相次いだ。そんな彼女の底知れぬ演技力について、朝ドラ評論家の半澤則吉氏に話を聞いた。

怪談「鳥取の布団」を一人語りする第58話

物語の空気を一変させたのが、第58話で描かれた“怪談を語るシーン”だった。

それまでの『ばけばけ』は、ヒロイン・トキの明るさや、周囲との賑やかな掛け合いが印象的なコメディ調で物語は展開。しかし、怪談に興味を持ち始めたヘブンに対し、トキが怪談「鳥取の布団」を語る場面で、画面の温度は一気に下がる。

この転換を、朝ドラ評論家の半澤氏は「明確なギアチェンジだった」と評価する。

「役者としての髙石あかりが、ここで一段ギアを上げた印象がありました。怪談自体は第1話でも語られていますが、それまでは“怪談好きな女の子”どまりでした。それが58話では、助走も説明もないまま、トキの怪談一人語りが始まり、圧倒的なオーラで場を支配した。トキの天才性と、髙石あかりの演技力を、視聴者に一気に提示するための脚本でした」(半澤氏、以下同)

特筆すべきは、その演出方法だ。通常の朝ドラで多用される「アバンタイトル」(主題歌前に入る本編シーン)をあえて使わず、オープニングの主題歌から始まって、いきなり怪談から幕を開ける。「この回が特別である」という強いサインを、演出は明確に打ち出していた。

「『ばけばけ』は、アバンタイトルの使い方が非常にうまい作品ですが、58話では、それを完全に封印した。“ここが物語のキーポイントだ”と視聴者に印象付けるための効果的な演出でした。脚本家のふじきみつ彦さんも、1月23日に出演された『あさイチ』で、まさにこのシーンについて触れていらっしゃいました」

また、この怪談の場面は史実とも重なる。小泉八雲がセツに「本を読むのではなく、あなたの言葉で語ってほしい」と求めたという逸話も踏まえ、トキは自分の言葉に落とし込んで怪談を語る。演じる側も、その意味を理解したうえで臨んだ重要なシーンだったはずだ。

「『ばけばけ』における怪談は、単なる怖い話ではなく、時代に翻弄された人々の切なさや哀愁と地続きなんです。トキが選ぶ怪談も、ヘブンが惹かれる怪談も、どれもこれもが物悲しい。だからこそ、その空気を一人語りで作れる俳優が必要だったのでしょう」

演劇関係者も太鼓判、髙石の演技力の最大の強みとは…

髙石あかりといえば、映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで見せた、“わちゃわちゃ”としたコメディエンヌの印象が強い。だが半澤氏は、今回の『ばけばけ』にその経験がしっかり生きていると指摘する。

「例えば、サワちゃん(トキの幼なじみ)や母親との会話シーン。セリフのキャッチボールではなく、あえて被せるように話す“わちゃわちゃ感”は『ベイビーわるきゅーれ』との共通点であり、そこで培われたものが滲み出ているポイントだと思います」

その一方で、髙石あかりの演技力の最大の強みはズバリ「発声」にあるという。

「声の出し方ひとつで、笑いも生み出せるし、怪談シーンのような恐怖も生み出せる。舞台でも通用する、『とんでもない才能だ』と、演劇関係者の間でも評判です」

近年では、『アポロの歌』や日曜劇場『御上先生』など、シリアスな役どころも次々と演じ分けてきた髙石。

「『ベイビーわるきゅーれ』の印象が強すぎて、視聴者からは『コメディの人』と勘違いされていた部分も多かったが、もともと何でもできる女優。それが『ばけばけ』で全ての出力を全開にできている印象です。『ばけばけ』はセリフがない場面の目配せや、ちょっとした芝居も見どころの作品。髙石さんの声の出し方や物語の伝え方に注目するともっと楽しめると感じています」

『ばけばけ』がぶっ刺さる視聴者層

ヘブンとトキの関係性についても、本作は丁寧な積み重ねを重視している。第65話で描かれた、二人が結ばれる場面を半澤氏は「完璧だった」と評しつつ、そこに至るまでのプロセスも高く評価する。

「女性が自分で結婚相手を選びにくい時代に、しかも相手は外国人。そんな環境下で、トキは自分の意思で相手を選んだ。それ自体、とても勇気のある行動だったと思います。しかも派手な告白ではなく、少しずつ気持ちが積み重なっていく。その過程を視聴者はずっと見てきたからこそ、心から感動できたと思います」

『ばけばけ』は、一見すると穏やかで静かな朝ドラだ。しかしその内側では、人と人の関係性、時代に翻弄される哀しさ、そして語り継がれる怪談の意味が、緻密に編み上げられている。

「戦争や男女平等など、大きなメッセージを声高に叫ぶ作品ではありません。

でも、だからこそ、視聴者それぞれが切なさを噛みしめられる。ヘブンへの気持ちを知らず知らずに積み上げていくトキと、トキが横にいないとダメだったことに気付くヘブン、その一話ずつに盛り込まれる台詞やリアクションがとても巧妙なんです。ドラマとして非常に“正統派”で、丁寧な積み重ねを楽しめる人にこそ響く作品だと思います」

今後、新キャストの登場や舞台の変化を経て、物語はさらに広がっていく。没落士族の娘と異国の夫の物語は、どこまで深い余韻を残してくれるのか。髙石あかりの演技とともに、『ばけばけ』は朝ドラ史に静かに名を刻もうとしている。

取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部 

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