世界のエネルギー大革命の潮流から取り残された日本…蝕む「病」と、迷走を始めた直接的な原因とは?
世界のエネルギー大革命の潮流から取り残された日本…蝕む「病」と、迷走を始めた直接的な原因とは?

日本では、「電気が足りない」と言って、原発再稼働や新設を促す動きがあるが、世界では再エネによるエネルギー大転換が進行中。自然エネルギー政策の第一人者・飯田哲也氏の新刊『Ei革命 エネルギー知性学への進化と日本の針路』は、「シン・オール電化社会」を実装するための政策とビジネスの実践書。


本書より一部抜粋してお届けする(全2回の2回目)。

冷静かつ徹底的な臨床記録

なぜ、この国は動けないのか。本稿は、日本のエネルギー政策が抱える深刻な機能不全を単なる政策の失敗事例としてではなく、一つの生命体が重篤な疾患に冒されていると見立て、その「病理」を解き明かすことを目的とする。

個々の症状を対症療法的に批判するだけでは、病の根源には届かない。私たちが向き合うべきは、制度設計の欠陥、政策のカオス、そして旧態依然とした支配構造という複数の症状が複雑に絡み合った、構造的な「システム疾患」である。

この診断書は、まず世界的なエネルギー革命の現実を直視し、日本がなぜその潮流から取り残されたのかという問いから筆を起こす。次に、具体的な三つの重篤な症状─「欠陥FIT制度」「政策カオス」「ネオ電力独占体制」─を詳細に分析し、その病状がいかに深刻であるかを明らかにする。

そして最後に、これらの症状を生み出している真の病巣、すなわち日本のエネルギーシステムの中枢に巣食う巨大な腫瘍の正体を突き止め、提示する。これは、単なる絶望の記録ではない。日本のエネルギー社会を再生させるための、冷静かつ徹底的な臨床記録である。

世界エネルギー大革命の潮流から取り残された国

世界はいま、農業革命、産業革命、IT革命に続く「第4の革命」と呼ぶべき、歴史的なエネルギー大転換「Ei革命」の渦中にある。自然エネルギーを基軸とした分散型エネルギーシステムへの移行は、単なる電源構成の変化にとどまらず、産業構造、地域経済、そして民主主義のあり方そのものを変革する文明史的な奔流だ。

ドイツやデンマークをはじめとする欧州諸国がこの潮流に乗り、新たな成長と豊かさを摑みつつある一方で、かつて技術立国として世界をリードしたはずの日本は、悲しいかな、その流れから完全に取り残され、孤立した島国として漂流している。

それは近年の太陽光発電のデータにはっきりと表れている。

純国産エネルギーとしてエネルギー安全保障に貢献し、気候危機への切り札となる太陽光発電が、今や最も安いエネルギー源となり、しかも短期間に建設できることから、世界各国の設置量は激増している(図9‒1)。その中で、エネルギー自給率の低い日本だけが太陽光発電の市場を縮小させているのである。

病巣の解剖─ システム危機を物語る三つの重篤な症状

本章は、日本のエネルギーシステムを蝕む「病」の臨床的解剖を試みるものである。この国の停滞は、単一の政策の失敗や官僚の無能さに帰するものではない。

それは、旧態依然とした20世紀型のエネルギーパラダイムを死守しようとする強固な既得権益、すなわち「ネオ電力独占体制」が、制度設計、市場ルール、そして物理的な送配電網のすべてを支配し、イノベーションと民主主義を組織的に窒息させているという、根深く構造的な病理に起因している。ここでは、最も象徴的かつ破壊的な三つの症状を診断する。

症状1:誤処方された特効薬 ─致命的欠陥を抱えた固定価格買取制度(FIT)

日本の再生可能エネルギー政策が迷走を始めた直接的な原因は、2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)の、世界でも類を見ない致命的な制度設計ミスにある。FIT制度そのものは「世界史で最も成功した環境エネルギー政策」と評価され、約90カ国が導入した実績を持つ。

FIT導入で最後発国であった日本には、先行諸国の成功と失敗から学ぶという唯一無二の利点があったはずだ。しかし、日本はその好機を活かすどころか、先行諸国のどこも採用しなかった「世界で唯一・最悪の失敗」を犯してしまった。

専門家を含む多くの人々が「初期の買取価格が高すぎた」と誤解しているが、これはFIT制度の本質を外している。初期の高価格はFIT制度の本質であり、真の問題は価格水準ではなく「価格決定のタイミング」を誤った点にある。

それは、買取価格を「発電開始時点」ではなく、「最初の認定時点」で固定してしまったことである。

この制度的欠陥が、その後の悲劇の連鎖を引き起こした。

投機的「ゴールドラッシュ」と「ゾンビ案件」の増殖

FIT制度の核心は、市場拡大と技術の学習効果のフィードバックによるコスト低減を促すことにある。太陽光パネルの価格が劇的に下落することは、当時から明白な事実であった。

にもかかわらず、日本版FITは、たとえば2012年度末までに書類を提出すれば、1kWhあたり40円(税別)という高額な買取価格を20年間保証した。

これにより、事業者は高い買取価格の権利だけを確保し、パネル価格が下がるのを待ってから建設に着手すれば、構造的に過大な「棚ぼた利益」を得られるという極めて歪んだインセンティブが生まれた。

結果、発電事業よりも権利の転売を目的とした投機的な事業者が市場に殺到し、認定だけ受けて実際には稼働しない「未稼働案件」が長年にわたりシステムを詰まらせる事態を招いた(図9‒2)。

環境破壊と国民負担の増大という二重の悲劇

この投機マネーは、適切なゾーニングや土地利用計画を欠いたまま、全国で「地上げラッシュ」を引き起こした。その結果、森林の乱伐、景観破壊、土砂災害リスクの増大といった深刻な環境問題が各地で頻発した。

これは太陽光発電そのものの問題ではなく、欠陥制度が引き起こした「乱開発」なのである。そして、この乱開発は、再生可能エネルギーに対する地域住民の不信感と強い反発を招く格好の材料となった。

同時に、投機事業者が手にした過大な利益の原資は、国民の電気料金に上乗せされる「再エネ賦課金」である。制度開始から10年以上が経過した今なお、最初の3年間に認定された高価格の太陽光案件が、賦課金総額の5割以上を占めるという異常事態が続いている(図9‒3)。

もし仮に、買取価格を「発電開始時点」と定めていれば、国民負担は半減し、多くの自然破壊も回避できた可能性が高い。この制度設計ミスは、再生可能エネルギーに対する社会的な信頼を毀損し、その後の政策を歪める「原罪」となったのである。

この一連の流れは、単なる政策の失敗ではない。

欠陥制度が環境破壊とコスト高騰を招き、それが国民の不信感を生む。そしてその不信感を、旧来の電力会社を中心とする既得権益層が「やはり再エネは問題だ」と政治的に利用し、自らの延命と再エネへのさらなる規制強化の口実とする。

これは、病巣(独占体制)が、本来あるべき治療薬(再エネ政策)を意図的に毒に変え、その毒性を理由に自らの必要性を訴えるという、極めて悪質な自己増殖的な悪循環なのである。

※Eiとは、「知性化された電力」を意味し、「電気(Electricity)×知性(intelligence〈人間+AI〉)」の重なりである。「エネルギー知性学」は、「エネルギー地政学」に対置される新しい考え方の枠組み。

文/飯田哲也 写真/shutterstock

Ei革命 エネルギー知性学への進化と日本の針路

飯田 哲也
世界のエネルギー大革命の潮流から取り残された日本…蝕む「病」と、迷走を始めた直接的な原因とは?
Ei革命 エネルギー知性学への進化と日本の針路
2026/1/261,980円(税込)256ページISBN: 978-4797674736

すでに始まっている文明史的エネルギー大転換の全体像。これは環境問題ではなく、世界の経済構造を根底から変えるパラダイムシフトである。

世界では、再生可能エネルギーと蓄電池のコスト革命ならびに指数関数的な成長が進み、課題は「電力不足」ではなく、“ありあまる電気”の活用へと移った。日本がとるべきは、中央集権インフラの延命ではない。鍵は 「Ei=Electricity (電気)× intelligence(知性〈人間+AI〉)」。化石燃料依存から、電気を賢くつくり・ためて・使う設計へ。本書は、世界中で出現しつつある「シン・オール電化社会」という新しいOSの姿を描き出し、企業・自治体・生活者が取るべき実装ステップを提示する、政策とビジネスの実践書である。


※本書でいう「エネルギー知性学」は、「エネルギー地政学」に対置される新しい考え方の枠組み。

【目次より抜粋】
はじめに 電気が足りない?――神話の解体と新しい現実
第1章 UAEコンセンサス――世界が合意した未来の設計図
第2章 バッテリー・ディケイド――エネルギーの新しいOS
第3章 カーマゲドン――自動車産業の創造的破壊
第4章 シン・オール電化の時代へ――新しいエネルギー文明の原理
第5章 21世紀の電力システム――硬直から柔軟へ
第6章 RE100への道筋――世界のトップランナーに学ぶ
第7章 「第7次エネルギー基本計画」の読み方――「真田丸」からGXまで
第8章 原子力に固執する「病」と「沼」――病理的政策への診断と処方箋
第9章 落後する日本――停滞の病理学
第10章 「ソーラーはお嫌いですか」――太陽光への批判的言説の検証
第11章 日本のエネルギー再生への処方箋
第12章 コミュニティパワーという希望――地域からの再創造
おわりに ありあまる電気――豊かさの再定義

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