「出血多量で産まれた子は幼稚園や小学校の受験で不利になることがあるらしい」。1月14日にXに投稿された内容が物議を醸している。
一部の私立幼稚園では母子手帳の写しを求められるケースも
「母子手帳提出なんて絶対ない どんな都市伝説よ」
「お受験の時に母子手帳まで確認されちゃうんですか」
「受験ってそんな個人情報も欲しがるの?」
「何が有利不利に働くか分からないね」
14日にXに投稿された“お受験”にまつわる噂をめぐるコメントの数々――この「出血多量と母子手帳に書かれるとお受験に影響する」という憶測により、保護者の間に不安が広がっている。真相を確かめるべく、東京・練馬区にあるフォレスト幼児教室の武田室長に話を聞いた。
「一部の私立幼稚園では母子手帳の写しの提出を求められるケースがあります。また私立小学校の調査票で母子手帳からの情報の記載を求められることもあります」
武田室長によれば、コロナ禍以降、ウェブ出願を導入する園や学校が増加。その中には、母子手帳の写しを提出させる私立幼稚園も一部にあり、その際に「出産の状態」「最近受けた集団検診」や直近の「保護者の記録」「健康診査」のページを指定するところもあるという。また一部の小学校では、出願時に提出する調査票に、出生週数や体重、3歳児健診受診の有無、予防接種歴や既往歴などを母子手帳から記載させるところもあるそうだ。
そもそも、母子手帳に記載される出産時の状態は、子どもの将来にどの程度関係するのか。
ブロガー・ライターとしても活動する産婦人科医やっきー氏は、「出血多量」や(受験に影響すると噂される)「アプガースコア低値」が「そのまま赤ちゃんの将来の発達を決める要因にはなりません」と前置きして次のように説明した。
「『出血多量』については、多くの場合、出産後に出血が増える『産後過多出血』によるものですが、赤ちゃんの状態と直接的には関係しません。
確かに『常位胎盤早期剥離』など、出産後の出血量が増えやすく、かつ赤ちゃんの状態も悪くなる可能性のある病気は存在しますが、産後過多出血の原因のうち約70%は、そういった背景のない単純な『子宮の収縮(戻り)が良くないこと』によるものです。
この場合、出産時の状況と赤ちゃんの状態とは全く関係がありません。よって、『出産時の出血が多量だったかどうか』を赤ちゃんの発達と絡めて論じるのはきわめて非合理的なことであると言えます」
「アプガースコア」が低くても発達には影響しない
さらに、一部で「点数が低いと受験に影響するのではないか」という噂のある「アプガースコア」については次のように話した。
「『アプガースコア低値』は、昔は『新生児仮死』と呼ばれていましたが、適切な訳語ではなかったため最近は使われる頻度が減ってきました。
胎内の赤ちゃんの状態が悪い可能性がある場合は『胎児機能不全』という病名がつきます。そして、生まれた赤ちゃんに対しては、呼吸状態や心拍数などの全身状態から『アプガースコア』と呼ばれる点数を付けます。アプガースコアは10点満点で、高い点数ほど全身状態が良いことを示しています。
このアプガースコアが低値であると、赤ちゃんの将来の発達に影響があるのかも…といった憶測については、米国産科婦人科学会が明確に否定しています。『アプガースコアは個々の児の転帰を予測するものではない』『アプガースコアが低い児のほとんどは脳性麻痺を発症しない』と記述しています。
もちろん、赤ちゃんが胎内で極端な低酸素環境にさらされているなどの場合、将来のリスクに影響がないとは言えません。でもそれは分娩経過や背景などを加味しなければ判断できませんし、ましてやアプガースコアだけで赤ちゃんの学力を測ることなど到底不可能です。アプガースコアはあくまでも『出生直後の状態記録』にすぎません。
以上のことから、出血多量であれアプガースコア低値であれ、母子手帳の記載を受験の合否判断に影響させることは非常にナンセンスですし、母子手帳は妊娠~出産時~産後の経過がある程度把握できる、医学的に重要な記録ですから、書くべきことは事実ならばしっかり記載することが大事です。仮に出血多量やアプガースコア低値と記載されていたとしても、過度に心配する必要はありません」
過去には「逆子だったかどうか」を書かせる学校も…
前出の武田室長によれば、母子手帳の写しを提出させるほか、子どものアレルギーや病気を確認されるケースもあるという。
「どの小学校でも子どもの健康状態は書かせますが、その中にアレルギーに関する項目があります。中には保護者から『うちの子は自分で判断できるから書かないでもいいでしょうか』と聞かれることがあります。
実際、お子さんの推薦入学の面接で、乳幼児期にアレルギー反応が出て病院に救急搬送されたことをお話しされたお母さんがいらっしゃいました。すると和やかだった面接の雰囲気がガラっと変わってしまって、結局その子は落ちてしまいました。
学校側はそれが直接の理由とは言いませんが、『もしお預かりして、万が一の命に関わるようなことがあっては怖い』と説明していました。
ほかにも、てんかんをお持ちのお子さんが、そのことを隠して入学して、学校で発作を起こしてケガをされてしまったこともあります。このように保護者がお子さんの健康状態について隠すことは実際にあります」
確かに合否は大切だが、その過程で子どもの健康に関わる情報が隠され、子どもの命に関わる事態につながりかねないのであれば、憂慮すべき問題だろう。
長く幼児教育に携わってきた武田氏によれば、過去にはさらにこんな事例もあったという。
「ずいぶん昔のことですが、『出産時に逆子だったかどうか』を書かせる学校もありました。何のために聞いているのか、私も分かりませんでしたね。ほかにも、父親と母親の初婚の年月日だとか、自宅の間取り、お手伝いさんが何人いるかといったことを書かせる学校もありました。
保護者の皆様は、受かりたい一心で、藁にもすがるような気持ちで受験にのぞまれています。
保護者の皆様も『どこで判断されてしまうかわからない』という怖さがあると思いますが、噂話には振り回されないことが大切です」
武田室長によると、都内のある私立幼稚園からは次のような回答が寄せられたという。
「生まれた際の体重は入園した際に聞くが、それはあくまでどうやって育ててきたかを知るためで、それで合否を決めているわけではない。発達が遅いケースもあるが、それを重視しているのではなく、当日の面接を見ている。あくまで参考資料。説明会でも母子手帳のコピーを求めているので、それをご理解した上での出願をお願いしている」
また別の私立幼稚園・保育所からは、
「乳児を預かるケースであることが前提です。発熱やケガなど、いざとなった時に正しい対処が必要なので、健康の状態、予防接種の状態などを伺って、安全にお預かりするという目的で聞いています。考査で振り分けるために聞いているのではありません」
という回答とともに、考査の判定基準については「一切お答えできない」とコメントがあったと話した。
母子手帳の情報によって合否を決めているかどうか、幼稚園・小学校側は選考基準を開示していないため本当のところはブラックボックスになっている。しかし、「出血多量で産まれた子は不合格」などと非合理な基準で合否を決めている園や学校が仮に存在するとしたら、そういったところへは通わせない方が子どものためになりそうである。
健康状態を学校側に把握してもらうことは大切な子どもを預けるにあたって重要だ。母子手帳には正確な情報を記載することを心がけたい。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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