ホストの世界で担当の「エース」になれるかを決めるのは、指名本数ではなく、いくら使ったか。メンズエステで働く「ユミ」は、風俗の売上だけでは担当ホストのエースになれない現実に直面し、「どうやって効率よく稼ぐか」を考え抜いた末に“出稼ぎ”へ向かった。
その出稼ぎと更なる裏ルートの実態を詳報した『「推し」という病』(文春新書)より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち1回目〉
風俗の売上だけでは「エース」になれない
「ホストクラブって、メン地下みたいに全通しなくてもいいんです。極論を言えば、1カ月に1回しか店に行かなくても、そこで1000万円使えばその人がエースになれるわけです」
“ホス狂い”と聞くと、ホストクラブに通い詰めている女性をイメージするかもしれない。もちろん、通い続けて指名本数を稼げば「指名エース」と呼ばれるが、そのステータスは相対的に「エース」よりは低い。「ホス狂い」を突き詰めれば、「通わずに稼ぐ」ことへと行きつく。
「メン地下に通っていた頃よりも時間ができたから、その時間を使ってどうやって効率よく稼ぐかをめっちゃ考えてた。私の担当はめっちゃ売れてる人で、オーラがあって、仕事に対してすっごく意識が高かったんです。それを見ていると、私も稼ぐためにがんばりたいと思ったし、この人をお手本にしたら好きになってくれるんじゃないか、と。ホストクラブに通い始めたことで、どうやったらより稼げるかを考えるようになったんです」
世間的には「女は風俗で稼げる」と思われがちだ。ひと口に風俗と言っても、ソープランドやデリバリーヘルスなど業種は様々だが、もっとも店舗数の多いデリバリーヘルスを参照すると、客が支払う料金が60分2万円として、女性が受け取る料金は50%から70%とされる。この割合をバック率といい、たいていは50%であるという。
諸経費が自腹である場合なども考慮する必要はあるが、ひとりの客を相手にして女性が得る金額をおおよそ1万円とすると、1日に客が3人いて手取りは3万円。週5日間出勤すれば15万円となり、月の稼ぎは60~75万円となる。
その金額だけで比較するならば、一般的な社会人よりも「稼げる」仕事といえるだろう。ただ、1日に必ず3人の客がつくという保証はない。
なお、ソープランドの大衆店は、客が支払う総額はデリバリーヘルスより1割から2割ほど高い。吉原などの高級店ならば金額は跳ね上がるものの、そのような店に勤務できる女性はひと握りで、容姿や技術が優れているなど、特別な付加価値が求められる。
【ユミ】はかつてソープランドで働いていたが、病気で受診した婦人科で「性交渉のある仕事は控えるように」と言われ、メンズエステへと業種を変えている。
メンズエステは表向きは風俗店ではなく、性風俗店に比べて料金は安い。相場としては90分コースで1万円、バック率は60%。大金を稼ごうと思っても、風俗店で働くライバルに勝つには「どうやったらより稼げるかを工夫する必要がある」と【ユミ】は話す。
それに対し、ホストのエースになるには、どれくらいの金額が必要となるのか。こちらも店によってバラつきは大きいが、担当が新人ホストなら月に100~150万円、中堅~ベテランホストなら月100~300万円使う程度が相場とされる。メジャーなホストグループの経営店での上位ランカーなら、その金額では足りないだろう。
つまり、普通に風俗で働くだけでは、担当ホストのエースにはなれないのである。
「『出稼ぎ』に行ってました」
このため、一部の“ホス狂い”女性は、路上で客を引き、個人間で売春を持ちかける。個人間取引であれば、店側に取り分を差し引かれることなく、同じ労働量で稼ぎを増やせる。ただし、不特定の人を対象とした売春行為および客引き行為は犯罪である。新宿区立大久保公園の周辺での“立ちんぼ”が問題視されているのは、ニュースなどで目にしたことがあるだろう。
「一番がんばっていた時期は、メンエスに週5で出勤してアベ(アベレージ=1日平均)6~8万。月でだいたい100万超えるくらいですね。『女は風俗で稼げる』って言われるかもしれないけど、ちゃんとした額を稼ぐには、1日15時間(店に)待機とかしてるから、そんなに楽ではないと思う」
だが、その金額では足りない。「どうやったらより稼げるかを考えるようになった」という彼女は、どのような方法にたどり着いたのか。
「『出稼ぎ』に行ってました」
彼女が言う「出稼ぎ」とは、所属する風俗店とは別の地域へと、泊まり込みで働きに出かけることを意味する。移動手段や宿泊先は業者が用意し、雑費や寮費を数千円ほど取られるが、仕事に専念できるため「出稼ぎ」を利用する“ホス狂い”は多いという。
TikTokで「#出稼ぎ」と検索すると、その日の稼ぎの報告や、愚痴を漏らす投稿があふれかえっている。
【ユミ】は、静岡や神戸などの地方都市へと出稼ぎに行ったという。
「東京は店も女の子も多くて、需要と供給が合わないんですよ。それに東京でお金を持ってる人って、六本木とかにいるすごい綺麗な高級デリの人を好むんです。でも地方ではあんまり綺麗すぎる子だと、お客さんが『東京の子だー』って気後れしちゃうのか、あんまりウケないんですよね。地方でウケる子はあんまり化粧が派手じゃなくて、若干素朴っぽい子。最初の頃の『AKB48』のコンセプトみたいな。そういう子は地方のほうが稼げる。私もそっちですね」
彼女の金を稼ぐ手段は、出稼ぎだけにとどまらない。
「あとは『Fantia』(動画、写真、イラストなどを投稿できる創作物投稿プラットフォーム。有料会員向けに過激な動画や写真なども投稿される)を使ったり、個撮(カメラマンとモデルが1対1で行う個人撮影会)もやりました。同人AVのアカウントを持っている子は、パパ活の延長で個撮をやってて、普通にハメ撮りしてる子も多いみたいですね。
風俗業界で“裏引き”とは、店で知り合った客と、店を介さずに直接やり取りすることを指す。“直引き”ともいい、店舗型風俗店ではご法度とされる行為だ。
他人から金品を受け取る行為を“引く”(「金を引っ張る」からの転用か)ということもあるが、店に内緒で、裏で取引するから“裏引き”というわけである。しかし、【ユミ】が口にした“裏引き”とは、それとはまた異なるようだ。
「風俗店の在籍は失いたくないから、メンエスのお客さんからはお金を“引き”ませんでした。マッチングアプリで知り合った一般男性から、お金をもらっていたんです」
一般男性からお金をもらう──。随分と、不穏な話だ。
文/加山竜司 写真/Shutterstock
#2に続く
「推し」という病
加山 竜司
なぜ彼らは苦しくても「推し」続けるのか
AKB、ホスト、VTuber、アニメキャラ、ゲーム、地下アイドル、AV女優、ビジュアル系バンド…
当事者への取材を重ねた「推し活」の現在地
「推し」という言葉は、「好きなものを応援する」ポジティブな言葉として使われることが多い。
だが、アニメグッズを購入したり、アイドルのコンサートに参加したりすることだけでなく、たとえば地下アイドルライブでのチェキの大量購入、ホストクラブやメンズ・コンセプトカフェでの過激な売り掛けなどを表す際にもこの言葉は使われている。
少なくとも、言葉のうえでは、学生のささやかな「推し」と、身を滅ぼすほどの出費をともなう「推し」は地続きだ。
「高田馬場ライバー刺殺事件」をはじめ、「推し」を端緒とした刑事事件も発生している。その精神性の根が同じであるならば、私たちは「推し」とは何かを慎重に見極める必要がある。
実際に「推し」によって人生を大きく変える選択をした人々の言葉に耳を傾けることで、「推し」の何が人々を病的なまでにエスカレートさせていくのかを探る。
第一章 「結婚するなら、もちろんアイドル」
“「推し」のためにマンションを売った”トップオタ
第二章 「ホストはコスパがいい“推し活”」
“ホス狂い”風俗嬢のコスト意識
第三章 「二次元は“恋愛対象”になるか」
アニメ、VTuber、2.5次元、声優…オタクたち「推し活」
第四章 「結婚できなかったのはアノ子のせいじゃない」
女性アイドルを14年間推し続ける中年女性の憂鬱
第五章 「AV女優に求める純潔」
秩序を守るAV女優アイドル・トップオタの女子校教師
第六章 「“運営”は搾取をしているのか」
元ジャニーズJr. 地下アイドル運営の見果てぬ夢
第七章 「推しがいないこの世界に、生きる意味はない」
「推し」の後追いで「自殺未遂」した納棺師
第八章 「オタクとアイドルは運命を捻じ曲げて共に生きる」
オタクでアイドルだった彼女は、今日もSNSで未練を語る

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