〈春闘〉中小企業に「賃上げの壁」…3年連続5%台の賃上げ目指すも、賃上げ率はわずか1.5%との調査も…続く物価高で国民負担率軽減となる政策は?
〈春闘〉中小企業に「賃上げの壁」…3年連続5%台の賃上げ目指すも、賃上げ率はわずか1.5%との調査も…続く物価高で国民負担率軽減となる政策は?

「5%以上の賃上げを継続していく社会の実現を」。1月27日に開かれた日本経済団体連合会(経団連)の筒井義信会長との会談で、日本労働組合総連合会(連合)の芳野友子会長はこう訴えた。

3年連続5%以上の賃上げという高い要求だが、筒井氏は「課題認識や目指す方向性がほぼ一致している」と歩み寄る姿勢を見せた。

 

大企業こそ高い賃上げ率を維持しそうだが、最大のポイントは労働者の全雇用の7割を担う中小企業の動向だ。2026年の中小企業の賃金上昇率はわずか1.5%という衝撃の調査結果も出ている。

労働者には渋く、株主には大盤振る舞い?

東証プライム市場に上場する企業の2025年4~9月の純利益は前年同期間比で7%増加し、過去最高を更新した。通信や建設、金融などを中心に力強く伸びている。

しかし、大企業の労働分配率は40%にも達していない。「労働分配率」は企業の利益を人件費として従業員にどれだけ還元しているかを示す経営指標だが、中堅企業は60%、中小企業は80%程度だ。

一方で、大企業の株主への大盤振る舞いは止まらない。2025年は10月時点で自社株買い実施額が14.9兆円で過去最高となった。自社株買いは上場企業の株主還元策の一つで、市場に出回る株式を引き締める効果があるため、結果的に株価が上昇しやすくなる。

つまり、大企業には労働者への還元余力がまだまだ残されていると見ることができる。連合が強気な目標を掲げている背景に、インフレと円安で企業が利益を出しやすくなっていることに加え、労働分配率が少なく、自社株買いで手厚い株主還元をしていることがあるだろう。大企業の労働分配率を引き上げられるかどうかは、今後の労使交渉の焦点の一つだ。

実質賃金が上がらないのも問題だ。2025年11月は前年同月比で2.8%減。11か月連続のマイナスだった。物価上昇のペースが早すぎるのだ。この月のコメの価格上昇率は37.1%だった。

そして、一昨年から続く令和のコメ騒動もまだまだ続きそうだ。農林水産省によると、2026年1月12日から18日に販売されたコメ5㎏あたりの平均価格は前の週に比べて16円高い4283円だった。2025年1月は3800円前後で販売されていた。スーパーに並ぶコメは、見た目の価格が安くなるため、一袋5㎏から4㎏が主流になりつつある。

さらに深刻なのが、こうした物価高でも賃金が上がらない中小企業だ。

すでに労働分配率は80%に達しており、原材料高で利益が圧迫されている。経団連の調査では、2025年の従業員100人未満の事業者の賃上げ率は3.78%、100人以上300人未満は4.13%だった。

社会保険料の事業者負担も賃上げの阻害要因に

2026年1月26日、大同生命が中小企業経営者を対象にした「大同生命サーベイ」で驚きの結果が発表された。2026年の中小企業の平均賃上げ率がわずか1.5%に留まるという。

中小企業は価格交渉力が弱く、価格転嫁をするのが難しい。この調査では、価格転嫁に成功した会社の68%が賃上げをしている。しかし、価格転嫁できていない会社が賃上げをした割合は48%に留まっている。

中小企業の中でも賃上げは二極化が進んでいるのだ。

そして賃上げに踏み切れない他の要因として、事業者の社会保険料負担がある。全国商工会連合会の「賃上げ等に関するアンケート調査結果」によると、賃上げに必要な支援策として「税・社会保険料負担等の軽減」が25.9%で最も高い。2番目の「助成金の拡充・使い勝手の向上」を8ポイント以上も引き離している。

「もっと手取りを増やす」と、この問題にメスを入れたのが国民民主党だ。賃上げを行なう中小企業、零細企業の事業主の社会保険料を半減すると公約に掲げた。玉木雄一郎代表は1月22日の公約発表で、「中小企業の賃上げがカギになってくる」と語っている。

地方と都市部の賃金格差が広がっているが、地方の雇用を担っているのは主に中小企業だ。

アンケート調査の結果を見ても、事業者負担軽減の影響は大きそうである。

実質賃金が上がらない現状で代替案となる政策を

国民民主党は「社会保険料還付制度」を創設し、現役世代の社会保険料負担軽減も訴えている。中低所得者に対する社会保険料の負担を軽くするものだ。還付制度をとっているのは、社会保険料を納めた記録を残すためだという。形式上は納めたことになるため将来的な不安を残さず、還付として手元に残るという構想を描いている。

日本維新の会も医療費を年間4兆円以上削減し、現役世代1人あたりの社会保険料を年間6万円引き下げることを公約に掲げた。

各党が社会保険料負担軽減を訴えるのは、国民負担率が高いためだ。財務省によると、2025年度の国民負担率は46.2%。前年度から0.4ポイント上昇した。国民負担率は所得に占める税金と社会保障の合計額の割合だ。そして18%は社会保障負担である。国民負担率は2000年度が35.6%だった。

現在は半分近くを占める計算だ。

熱を帯びる衆院選は、庶民の賃金の行方を占うものでもある。

取材・文/不破聡

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