2005年、ロト6で1等・3億2038万円が当選した久慈六郎さん。当時は月給27万円のサラリーマンで、突然手にした大金は、夜の街や投資の世界へと彼を引き寄せていった。
前編
飲み屋のオネーチャンにも、お金目当てでだいぶタカられました
2005年、平凡なサラリーマンだった久慈六郎さん(当時38歳)は、ロト6で1等・3億2038万円が当選! その頃の給料は月27万円で、楽しみといえば月に1度のキャバクラ通い程度の暮らしだった久慈さん。
最初のうちは、当選金のうち2000万円を自宅の床に敷き詰めて眺めては悦に浸ったりしていたが、その生活が派手になっていくのにそう時間はかからなかった。
「僕はもともと全然モテなかったんです。男子校出身だし、勤め先はおばちゃんばっか。それが、ちょっとお金の匂いがし始めると、みんなが寄ってくるようになって。
それまで自分なんかに見向きもしなかった保険のセールスレディが、急に色目を使ってくるものだから、そりゃ楽しくなっちゃいますよね。それで、うっかりマンションを買い与えてしまったり(苦笑)。飲み屋のオネーチャンにも、お金目当てでだいぶタカられました」
さらに株やFXへの投資で資金はどんどん減っていき、気づけば当選金はきれいさっぱりなくなっていた。(その詳細は#1、#2参照)
そんな久慈さんだが、当選直後に“人生リセット”することなく、会社員としてのキャリアを続ける道を選び、昨年、定年退職となった。
「とにかく会社だけはやめなくてよかったです。やめてたら本当に無一文になって、再就職もできなかったでしょうね。学歴もないですから。
定年退職を経て、久慈さんが最初に実感したのは、静かな解放感だった。
「辞めてみて分かりました。ああ、自分はかなり抱えてたんだなって。“会社に行かなくちゃ”というプレッシャーがなくなっただけで、気持ちはずいぶん楽になりました」
20年近く勤め上げた末にようやく得られたこの感覚は、本人も想像していなかったものだった。もっとも、自由になったからといって、すべてが満たされるわけではなかったという。
「正直に言うと、今の生活に少し飽きてきている部分もあります」
いわゆるFIRE後に語られがちな「毎日が暇」という感覚についても、久慈さんはうなずく。
「家に引きこもるよりは、何かしていた方が健康的だと思いますね。あれは、実際に体験しないと分からないと思います。ただ、再び組織に戻りたいとは思いません。やるとしたら、旅をしながら少し働くとか。リゾートバイトみたいなのは面白そうだなって考えています」
老後資金は「不安」ではなく「ゲーム」
将来のお金についても、久慈さんの考え方は淡々としている。
「月々使う金額を考えたら、年金を60歳から早期繰り上げ受給して、10万円程度あれば、貯金を取り崩さずに生活できる気がしてきました。もちろん、今のまま健康が維持できれば、ですけどね」
限られたお金で暮らすことを、久慈さんは悲観的には捉えていない。
「これは実践的なゲームみたいなものです。どうやって楽しみながら、自分のHP(貯金)を減らさずに生きるか、という感じですね」
ロト6当選後は、夜の繁華街やオネーチャン、さらには数多の投資話に騙されてきたという久慈さんだが、「若いうちに使ったお金は、人生を裏切らなかった」という。
「若いうちに、好きなことややりたいことを散々やれました。本当に、自分は幸せ者だと思います。お金は、若い時に使ってこそ価値がある。使わなければ、ただの数字にしか過ぎません。死んだら、あの世には持っていけないし。人はあっという間に年を取って、次の世代にバトンを渡す。旅も、挑戦も、楽しめるのは健康で若いうちだけです」
タイで暮らして見えた、日本の価値
現在、久慈さんはタイのバンコク郊外、アユタヤに家を購入し、日本との二重生活をしている。
「住む家を買ったので、それでほぼほぼお金はなくなりました。タイにいる時は、タイ人の彼女と一緒にそこで生活しています」
「物価が安い国」というイメージのあるタイだが、現実はそう単純ではない。
「タイも物価は上がっていますし、円安もあって、日本と同じような暮らしをしようと思ったら厳しいです。ガソリンも日本の方が安いし、スターバックスやマクドナルドも日本の方が安い。
「億万長者になって、幸せでしたか?」
実は久慈さんは今もロト6を買っているという。ただし、その意味合いは大きく変わった。
「“当ててやろう”って気持ちではないですね。自分の運気のバロメーターというか、“今、調子がいいのか悪いのか”を確認するための指針みたいなものです。占いに近い感覚かもしれません」
結果を見て、一喜一憂はしない。では、もし今、再び3億円が当たったら、何に使うのか。答えは意外にも、派手な消費ではなかった。
「今だったら、タイの田舎に大きな介護施設みたいなものを作りたいですね。3億円あれば、タイの田舎に施設を作って、日本人を相手に“タイに住みませんか”と呼びかけたり」
その構想には、自身の老後も含まれている。
「自分もあと10年くらいしたら介護のお世話になるかもしれない。そうなった時に自分の面倒を見てもらいつつ、他の人にもその恩恵を共有してもらえたらいいかなって。“社会貢献”だなんて、かっこよく言うつもりはないです。自分も得をして、他の人とも分かち合えることがしたいんです」
最後に、こんな問いを投げかけた。
「一時だけでも億万長者になって、幸せでしたか?」
「騙されてお金を失って、それでも幸せでしたか?」
久慈さんは、即答だった。
「もちろんです。誰も経験できないことを、たくさん経験してきました。最高に楽しくて、幸せな人生だったし、今もそう思っています。最近はちょっと、仙人になりかけてるかもしれませんね(笑)。あまり欲もなくなりました」
ロト6は、もう夢を見るためのものではない。静かに、自分の人生を確かめるための、ひとつの習慣になっている。
文/集英社オンライン編集部

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