本記事は高額療養費制度を利用しているノンフィクション作家の西村章氏が、高額医療費制度改悪の問題点と、それをゴリ押しする官僚・政治家のおかしさ、そして同じ国民の窮状に対して想像力が働かない日本人について考える企画だ。2025年末に明らかになった2026年度見直し案について、専門家による研究成果にもとづき、「効果」と「弊害」を検証する。
負担増になる人の割合は・・・高額療養費制度見直し案
1月23日に高市早苗首相が衆議院を解散。予算委員会は先送りとなり、2月8日の投開票に向けた選挙戦が始まった。その結果、我々選挙民は、厚労省が昨年末に提示した高額療養費制度見直し案に様々な立場を取る候補者と政党を選んで票を投じることになった。
そこで、この週末に迫った衆議院選挙で各政党が見直し案に対してどのような立場をとっているのかということを、各党の公約やマニフェストなどから読み解いてみたい。
とはいえ、政党や候補者の見直し案に対するスタンスを判断するためにも、まずは有権者である我々自身がこの案の効果と弊害をある程度理解しておく必要があるだろう。
というのも、今回の見直し案は従来制度や前回の凍結案以上に複雑で、長所と短所が入り組んでいるように見えるからだ。
たとえば、新たに導入される年間上限額という支払いキャップシステムは、それまでなら制度の網目からこぼれ落ちていた人々を救済する効果を期待できそうだ。
だが、そもそも1ヶ月当たりの自己負担上限額は全体的に引き上げられる予定になっており、収入区分によっては現行制度よりも最大で約37.8パーセント増になる。
このように、長所と短所が複雑に絡まっているように見える見直し案によって、どのような人々の負担が軽減され、あるいはどのような人々はさらに負担が重くなるのか。その効果と弊害の度合いは、専門家による最新の研究成果でかなり明らかになってきたので、まずはそれを紹介するところからはじめよう。
たとえば、東京大学大学院五十嵐中(あたる)特任准教授が健保組合のデータ(7万8497人)をもとに行った推計[図1]では、影響を受ける人々の割合が明瞭に示されている。
それによると、高所得層や中所得層では80~90パーセントの人々が負担増になり、住民税非課税の人々は40パーセント近くが負担軽減になる(それでも、この層でも負担増になる人が50パーセント以上と多数を占める)。
全体で見ると、制度利用者の圧倒的多数が今回の見直しにより負担増になる、と言って差し支えない。
この推計は大企業従業員などが多い健保組合のデータをもとにしているため、母集団の収入が多少高めに出ているであろうことを考慮すると、中小企業従業員が多い協会けんぽやフリーランス・自営業者が加入する国保のデータだと、上記グラフの区分ウやエに該当する人がおそらくもっと増えると思われる。
それらの区分では健保組合データでも80パーセント以上の人々が負担増になる、という推計が出ている以上、協会けんぽでも国保でも数値にさほど大きな変化はなさそうに思える。つまり、今回の見直し案によって、高額療養費の利用者は収入区分や健康保険の種類にかかわらず、ほぼ一様に負担が増える、という結論に変わりはないだろう。
その中からあえて制度変更案の長所を探すとすれば、区分オの住民税非課税層のうち40パーセント近くの人が従来よりも負担が軽くなる可能性がある、というところだろうか。
年間上限額制度の効果とは?
とはいえ、この所得層でも過半数の人々が負担増になるのは前述のとおりだ。この低所得層の人々は、今回の見直し案の(数少ない)長所である年間上限額制度の導入でも救済されにくいことを、五十嵐特任准教授はさらに明らかにした。それが下の[図2]だ。
年間上限額とは、高額療養費を使用する人、あるいはその自己負担上限額に到達せず高い窓口負担を支払う人などが、1年の総支払額が青天井の過大な金額にならないよう、一定の上限キャップを設けようという方法だ。
収入区分によって年間上限の設定金額は異なっているが、各区分の多数回該当(1年間で3回以上制度を使用すると4回目以降はさらに負担上限が引き下げられるシステム)×12とほぼ同じ金額になるよう設定されている。
つまり、1年間で毎月多数回該当の金額を支払う人の総額よりも過大にならないように設計されている、ということだ。
上図では、緑の折れ線が年間上限額を表している。
この緑の階段状折れ線とある部分で交差している赤い線は、各所得層での破滅的医療支出の金額をあらわしている。破滅的医療支出とは、過去の記事で何度も説明してきたとおり、収入から住居費や光熱費など生活に必須の金額を差し引いた、いわば自由に使える所得のうち、医療支出が40パーセントに達すると貧困状態に陥る可能性が非常に高い、とWHOが定義している「生活の喫水線」だ。
現行制度の区分ア・イ・ウの収入区分では、この破滅的医療支出を示す赤い線は階段状の年間上限額(緑の線)よりも上に位置している。つまり、見直し案の年間上限額は、ア・イ・ウの収入区分の人々に対しては、破滅的医療支出に達しない水準で収まるように抑制的な金額として設定されている、ということだ。
一方で、区分エやそれよりも低い区分オの場合、年間上限額(緑)は破滅的医療支出(赤)よりも上に位置している。見直し案の年間上限額に到達したとしても、その金額はすでに当該所得区分の破滅的医療支出を超えてしまっている、ということだ。つまり、この所得区分層では年間上限額が貧困を防ぐための抑制策としてなんら機能していない、ということがわかる。
同様の問題は、大阪医科薬科大・伊藤ゆり教授の調査でも明らかになっている。
見直し案の年間上限額設定(≒現行制度の多数回該当12ヶ月分:ライトブルー)と2026年8月引き上げ予定上限額(オレンジ)、第二段階の2027年8月引き上げる予定額(グレー)は、それぞれの収入区分で自由に使える所得に占める割合を示している([図3])。
年間上限額の導入で、ほとんどの収入区分では喫水線の破滅的医療支出(40パーセント)を下回っていることがわかる。ただし、年収250万円以下の低所得層では、五十嵐准教授の推計と同様に、年間上限額設定がまったく救いになっていないことがはっきりと見て取れる。
伊藤教授が示す40パーセントという数字はあくまでもWHOが定義する「破滅的医療支出」の指標であり、医療支出が40パーセントなら貧困に陥るけれども35パーセントなら経済的に安定して暮らしてゆける、というようなオン/オフがくっきり分かれる閾値でないことはいうまでもないだろう。
さらにもうひとつ注意しておきたいのは、高額療養費制度を利用するような大病や大怪我などをしたときは、それまでと同様の仕事を続けられなくなっている場合が多い、ということだ。高額療養費制度の収入区分は前年度のもので計算されるため、病気や怪我をして収入が大きく減る場合も想定に加味した推計が下の[図4]だ。
この[図4]が示しているのは、年収800万円や1000万円を超えるような高所得層でも、病気や怪我で収入が下がった状態で高額療養費制度を利用すると、貧困(≒破滅的医療支出)に陥る可能性が一気に高くなる、ということだ。それはそうだろう。
見直し案によると高所得者の場合、1ヶ月あたりの自己負担上限額は27万円や34万円、年間上限は168万円である。「それ以上は支払わなくてもいいですからね」と配慮しているにしては、あまりに高額すぎる金額だ。こんな金額を医療費に充てなければならない状態が数ヶ月続けば、蓄えはあっという間に底をついてしまうだろう。
昨年12月末に厚労省が提示した2026年度実施の見直し案とは、つまりこのような内容である。
文/西村章

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