世帯年収が高いほど炎上に関わりやすい? 4万件のアンケートが示す、炎上参加者の年収と属性
世帯年収が高いほど炎上に関わりやすい? 4万件のアンケートが示す、炎上参加者の年収と属性

いまや、芸能人や著名人などが避けたいことの筆頭に「SNSでの炎上」というものがあるだろう。一度燃えてしまうともう取り返しがつかない。

よかれと思ったことですら、うがった捉え方をされることもある。だが、そもそもこの瞬く間に広がるSNSでの炎上は、いったい誰の手によって引き起こされているのか。

 

社会情報学の専門家でもある山口真一氏の書籍『炎上で世論はつくられる――民主主義を揺るがすメカニズム』より一部を抜粋・再構成し、SNSでの炎上に参加する人の属性を解説する。

世帯年収が高いほど炎上に関わる

炎上に参加する人と聞くと、どのような人物像を思い浮かべるだろうか。

「社会の片隅で一日中パソコンに張り付き、独身で時間を持て余している」―そんなステレオタイプは根強いのではないか。しかし、実際のデータが示すのはまったく異なる姿である。

私が2016年に実施した約4万件の大規模アンケートから、炎上参加の有無と個人属性・行動特性を結びつけて分析した結果、浮かび上がったのは「意外に身近な人たち」だった。

まず性別では、炎上参加者の7割が男性である。そして興味深いのは、世帯年収が高い人ほど炎上に関わる傾向があることだ。

平均年収を比べると、炎上非参加者が約604万円であるのに対し、参加者は約710万円と100万円以上の差がある。経済的に余裕のある層もまた、炎上の書き込み手に含まれているのである。

役職・肩書に注目しても、この傾向は裏付けられる。主任・係長クラス以上の人の割合は、炎上非参加者で19%なのに対し、参加者では31%と顕著に高い。

一方で、無職・主婦(主夫)・アルバイト・学生といった肩書は、炎上参加者では割合が減っている。

つまり、炎上参加は「暇だからする」ものではない。仕事を持ち、役職に就き、日々忙しくしていても、休憩時間や帰宅後の短い時間で、SNSにアクセスし書き込むことは十分可能なのだ。極端な話、2時間の自由時間さえあれば数百件の書き込みもできてしまう。この気軽さが、社会的に地位のある人にも炎上参加の門戸を開いている。

炎上の加害者はすぐそばにいる

さらに注目すべきは、メディア利用の傾向である。炎上参加者は、新聞購読者、テレビ視聴時間が長い人、そしてもちろんインターネット利用時間が長い人に多い。

ネット利用は想像通りだとしても、新聞やテレビといった従来型メディアの利用も関連しているのは意外に感じられるかもしれない。

背景には、炎上の火種となりやすい社会的テーマへの強い関心がある。

ジェンダー問題、差別、政治など、日常的にこれらの情報に触れ、自分なりの意見を形成しているからこそ、議論に加わろうとする動機が生まれる。逆に、情報にほとんど触れず、こうしたテーマへの関心がなければ、炎上に参加する動機はそもそも生じにくい。

もっとも、こうした特徴があるといっても、実際に炎上に書き込む人の割合はごくわずかだ。

過去1年間で炎上に参加した人は全体の0.5~0.7%にとどまり、1件あたりで見れば前述したように約40万人に1人という希少さである。

たとえ「参加しやすい層」に属していても、大多数は傍観者に過ぎないということは忘れてはいけない。

だが、このわずかな人々が集中して書き込むことで、炎上は瞬く間に大きく燃え広がる。そして、その発信者は必ずしも遠く離れた匿名の誰かではない。職場の同僚、友人、あるいは自分自身―炎上の加害者と被害者の境界線は、意外なほど私たちのすぐそばにあるのである。

誰が炎上を呼び寄せるのか?

炎上に参加する人は、見た目のプロフィールだけではわからない内面の特徴を持っている。調査の結果、特に目立ったのは「協調性が低い」と「開放性が高い」という二つのパーソナリティ特性だ。

「協調性が低い」とは、周囲との調和を保つよりも自分の考えや利益を優先し、他人に不満を持ちやすく、時にはもめごとを起こすこともいとわない傾向を指す。

例えば、自分が「人に気をつかう、やさしい人間だと思う」という問いに否定的な回答をする人が、炎上参加者に多い。他人の行動が自分の価値観や規範から外れていると感じたとき、強い違和感や怒りを覚え、それをネット上でぶつける。この姿勢は、炎上という現象を支える燃料の一つになっている。

一方で、「開放性が高い」というのは、新しいことや変わった考えへの関心が強く、知的好奇心や想像力が豊かなタイプを指す。

こうした人は日々ネット上の新しい情報に触れ、そこに積極的に関与しようとする。自分と異なる意見や価値観に出会う機会も多く、それが時に対立の火種になる。

新しい話題を追いかける性質と、異論を看過しない姿勢が組み合わさることで、炎上への参加確率は高まる。

さらに、社会や他人に対する考え方にも特徴がある。

「世の中は根本的に間違っていると思う」「自分はもっと評価されてしかるべきだ」「相手の意見が間違っているなら、どこまでも主張して相手を言い負かしたい」といった項目に当てはまる人の割合が、炎上参加者では明らかに高かった。

つまり、社会への不満と自己評価の高さ、そして論争に勝ちたいという強い意志が、炎上参加の背景にある。他人を論破すること自体が目的化し、意見の違いが許容できなくなる。この心理は、匿名性と拡散性を備えたネット空間で特に顕著に表れる。

こうした特徴は、悪質クレーマーの性質と驚くほど似ている。関西大学の池内裕美教授の研究では、悪質クレーマーには高学歴・(元)高所得で社会階層が高く、定年退職後の人が多いらしい。また、自尊感情が高く完全主義的な傾向が強いこと、社会的不満が高いといった特徴もあるようだ。企業や組織に対し、自らの経験や地位を背景に過剰な要求を突きつけ、相手を言い負かそうとする。

その場が店頭からネット空間に移っただけで、根底にある心理や行動パターンは近い。違いがあるとすれば、炎上参加者の方が年齢層は若く、インターネットに日常的に触れている点だろう。



結局のところ、炎上参加者は決して遠い存在ではない。職場の同僚、SNSの友人、自分自身の中にも、協調性の低さや開放性の高さ、社会への不満や攻撃性といった要素が潜んでいる可能性がある。実際、職場のパワハラ・セクハラ問題などは後を絶たない。それらが特定の状況で組み合わさったとき、誰もが「炎上の火種を投じる側」になり得るのだ。

炎上で世論はつくられる――民主主義を揺るがすメカニズム

山口真一
世帯年収が高いほど炎上に関わりやすい? 4万件のアンケートが示す、炎上参加者の年収と属性
炎上で世論はつくられる――民主主義を揺るがすメカニズム
2026/1/8990円(税込)208ページISBN: 978-4480077233

炎上・フェイク・陰謀論──
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【目次より】
はじめに──SNSが選挙を動かす時代

第1章 SNSが選挙を変えた年──2024年の衝撃

第2章 炎上のメカニズム──「言葉の刃」としてのSNS

第3章 フェイク──民主主義を揺るがす誤情報

第4章 規制で解決できるのか?──情報流通の社会的枠組みを問い直す

第5章 人類総メディア時代をどう生きるか?──未来への提言

あとがきにかえて──情報社会の未来を生きる私たちへ

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