太陽光パネルと蓄電池を組み合わせることで電気代をゼロにできるというサービスが話題となっている。物価上昇が日々の生活を圧迫する中、本当であれば夢のようなサービスだが、果たしてそんな甘い話はあるのだろうか。
2人以上世帯平均、事故発生前から電気代は年3万円近く上昇
「蓄電池と太陽光発電を活用して電気代の負担を減らすことを目指す」
1月、有名なインフルエンサーが手掛けた、とある企業の宣伝がX(旧Twitter)など各種SNSで話題を呼んだ。ホームページ上では「電気代に困らない暮らしを、全ての家庭へ」と打ち出し、「電気代の0円化を目標とした取り組みです」と明記している。
このサービスが話題を呼んだのは、電気料金の高騰が社会問題となっているからであろう。総務省の家計調査によると、2024年における二人以上の世帯の1か月あたりの電気代は平均1万2008円で、年14万4092円。
政府が光熱費を補助しているにもかかわらず、原発事故の発生前から年間で3万円近く上がっている計算となる。
ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰やインフレなどマクロ的な要因はあるにせよ、より分かりやすく直接的な痛みとして市民を直撃しているのは、再エネを促進するために2012年に導入された「再生可能エネルギー発電促進賦課金」の存在だ。
当時、東日本大震災への対応のまずさで窮地に立たされていた菅直人首相(当時)が政治的判断で導入したものだが、この旗振り役となったのが、ソフトバンクの孫正義社長(当時)だ。
孫氏は「コーヒー1杯分の負担が増えるだけだ」と訴えた。しかし、あれから10年以上がたち、足元の賦課金は標準家庭で月額1194円と、導入当初から18倍に上昇している。
コーヒー1杯どころか、いまや電気料金の上昇分のうち、半分以上となる年間1万4000円は再エネによるものだ。当時、朝日新聞をはじめとしたリベラル系の大手メディアは原子力発電所こそが諸悪の元凶であり、「原発を止めて再エネに切り替えれば電気代は安くなる」と盛んに宣伝していたが、実際に起こったのは真逆のことだった。
再エネは日本国民の懐を痛めつける要因でしかない
もはや日本国民の懐を痛めつける要因となっている再エネ。
なぜ、目論見通りに電気代が下がらず、こんなことが起きたのか。最大の要因は、高すぎた買取価格だ。
2012年の時点で、太陽光発電の買取価格はkWhあたり42円。当時のレートで、先行する欧州の2~4倍程度の価格だった。原発に代わるエネルギーとして再エネの導入を加速させる必要があったという事情があったとはいえ、相場を無視したものだった。
「国民に長期にわたる痛みを押し付けることになる」という霞が関や経済界の反対を押し切り、政治主導で強引に決められたものだ。
これを20年間にわたって買い取るというのだから、「高利回り案件」として投資家が殺到するのも無理はない。当時、大手金融機関の静岡県の支店で働いていたA氏は「毎週のように太陽光投資の融資を求める問い合わせがあった」とこう振り返る。ちなみに静岡県は日照時間が長いため、太陽光投資に適しているとされていた。
山裾にメガソーラーが林立するようになったワケ
先祖代々の土地を持っている地元の人や企業が相談に来るというパターンだけでなく、東京からやってきたブローカーがあちこちで土地を押さえ、大企業からファンド、有象無象の個人投資家が入り交じった乱戦状態で次々と太陽光発電所が建設されるように。
気がつけば、ゴルフ場跡地や耕作放棄地などの遊休地を活用するという当初の理念すらなかったこととなり、日本中で目先の利益を目的として山林が切り開かれ、山裾にメガソーラーが林立するようになった。
エネルギー自給率を高めるという観点で、再エネの導入自体は悪いことではない。しかし、日本の再エネは政治の判断ミスと暗躍する企業、原発憎しで偏った報道を繰り返すメディアが足並みを揃えたことで間違った方向に盛り上がりをみせ、バブル状態を招くこととなった。
行政の意向や法令すら無視して開発を強行する釧路湿原や鴨川に見られるように、10年以上経った今もなお日本各地で乱開発は止まらず、禍根を残している。
冒頭の、住宅に太陽光パネルを使って電気代を無料にするという取り組みは、「太陽光は儲かる」というイメージをふまえたものだろう。確かに、自らが消費する電気を自らの屋根を使って発電し、余剰分を販売することで利益を得るというスキームは分かりやすい。
「太陽光は儲かる」そう簡単なものでもない
しかし、実際はそう簡単なものではない。平地に太陽光パネルを大量に並べることができるメガソーラーに比べ、家庭用の太陽光は足場を組んで屋根に登って作業する必要があるため、設置にかかる費用が高い。
太陽光パネルそのものは中国での過剰生産により安価になっているが、工事部分はむしろ昨今の人手不足も相まってコスト高となっており、初期費用を抑えることが構造的に難しいのだ。
家庭用の太陽光事業の難しさは、楽天が2012年にサービスを開始した「楽天ソーラー」の挫折が物語る。
同社の三木谷社長が実家の太陽光パネルが300万円かかったと知ったことに着想を得て事業を開始。ネット通販で培ったノウハウを活用し、中間事業者を通さないことで「初期投資を100万円以下にする」という目標を掲げてスタートした。
しかし、いくら太陽光パネルを安く調達したところで、設置工事の工程は効率化できず、鳴り物入りでスタートした事業はわずか3年で終了となった。
東京都では2025年から新築住宅に太陽光パネルの設置義務化が始まったが、東京都の潤沢な財政による補助金をもってしても、もらえるのは40万~50万円程度。規模にもよるが、少なくとも数十万円の自己負担が必要だ。これに蓄電池をつけるとなれば、200万~300万円以上の出費を覚悟する必要がある。
かつてのような大盤振る舞いは鳴りを潜め…
買取価格もかつてのような大盤振る舞いは鳴りを潜め、渋めに設定されている。かつては1kWhあたり42円で10年間買い取られていたが、再エネ賦課金が問題になるにつれ、どんどんと規模は縮小してきた。
現在の買取価格は1kWhあたり24円だが、これは4年限定。5年目以降は8.3円と約3分の1になり、収益性はガクッと落ちる。かつてのように「電気を作れば儲かる」という時代ではなくなっており、これから小規模な家庭用のソーラーパネルで収益を上げるというのは非現実的だ。
こうした現実を踏まえ、多くの事業者は現在、家庭用の太陽光パネルを設置させるメリットとして売電での収益ではなく、日中の電力消費を系統から自家消費に切り替えることで電気代を抑えるという方向にシフトしている。
東京電力エナジーパートナーは初期費用0円のサブスク形式で太陽光パネルやエコキュートを組み合わせたプランを提案しているが、ここでも「光熱費を27%削減できる」としている程度で、電気代0円というのはそれほどまでにハードルが高いことがわかる。
日本国民は高い「ツケ」を払い続ける
冒頭の企業は20年間にわたって政府の定めた固定買取価格よりも高く買取るとアピールするが、それでも買取価格は20年でならすと10円台で、太陽光パネルや蓄電池のための初期投資を考慮すると、これだけではとても採算が合わない。太陽光バブルは既に終わっており、絵に描いた餅に終わる可能性が高い。
一連の騒動が改めて突きつけたのは、制度設計を誤ったことによる歪みが長期間にわたって続く弊害だ。震災後、仮にメガソーラーではなく、住宅用の太陽光パネル設置を手厚く補助する仕組みを導入していれば、現在のように多くの国民が再エネ賦課金の急激な上昇に苦しむことはなかったし、戸建て住宅の「電気代ゼロ」を実現することができたかもしれない。
もっとも、一度始まった賦課金制度の廃止は現実的ではなく、これからも日本国民は高い「ツケ」を払い続けることとなる。
取材・文/築地コンフィデンシャル 写真/shutterstock

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