実写版『リトル・マーメイド』炎上はなぜ起きた?「差別をやめよう」「マイノリティを保護しよう」といった配慮と改変の境界線はどこにあるのか
実写版『リトル・マーメイド』炎上はなぜ起きた?「差別をやめよう」「マイノリティを保護しよう」といった配慮と改変の境界線はどこにあるのか

中立的な表現や態度を目指すポリコレ(ポリティカル・コレクトネス)は、社会を前進させる一方、ときに過剰な配慮が新たな対立を生むこともある。日本の言い換え例や海外の炎上事例から、なぜ問題化するのかをわかりやすく解説する。

 

新刊『新装版 教科書から消えた世界史』より一部抜粋・再構成してお届けする。

ポリコレとは

「ポリコレ」という言葉を聞いたことはありますか? ポリコレとは「ポリティカル=コレクトネス(政治的正当性)」の略で、「性別・人種・宗教・見た目などで差別や偏見を含まない、中立的な表現をするべき」とする考え方のことです。さらに言葉の問題にとどまらず、「社会から偏見・差別をなくすこと」を意味する場合もあります。

「差別をやめよう」「みんな平等」「マイノリティを保護しよう」と言えば聞こえは良く、完全に正しいように思われます。しかし、よくよく考えてみると、これには問題となる側面が含まれているのです。

では、そのポリコレが含む問題とは何なのか。ここでは、ポリコレという概念とその問題について迫っていきましょう。

ポリコレの起源は諸説あるのですが、一説にはマルクス・レーニン主義の用語として使われ始めたと言われます。マルクス主義を継承したレーニンがソ連を建国すると、ポリコレはソ連の政策と原則の遵守を求める言葉として使用され始めたというのです。その後1960年代になると、アメリカなどで台頭した新左翼が、従来の左翼を皮肉ったり揶揄したりするときに用い始めました。

そして1990年代になると、現在のような意味合いとなっていきました。さらにそこからアメリカのリベラルな大学やニューヨーク・タイムズ紙などでも使われるようになり、世界へ広まっていったようです。昨今では日本にも浸透し始めました。



たしかに差別をなくすこと、偏見をなくすことは重要です。しかし、近年は配慮が過剰に求められており、結果として一部から反感が高まっているのです。「ポリコレにこだわりすぎて世の中がつまらなくなった」「マイノリティを過剰に擁護することでむしろ反発を覚える」という声が出ています。そしてその代表がトランプ大統領で、かつて「ポリコレこそ、アメリカが抱える大きな問題である」という旨を述べています。

過剰な配慮が賛否を生んでいる現状

ポリコレが問題となった、実例や具体例を見ていきましょう。アメリカのディズニー映画で『リトル・マーメイド』を実写化することになったのですが、アニメ版では白人だった主人公を黒人が演じることになりました。これに対してアニメ版の再現を望んでいた人たちなどから批判が殺到しました。

また、アカデミー賞の新基準として、主演または主要な役に人種・民族的マイノリティを起用すること、30%以上が女性や少数民族・性的少数者・障がい者であることなどが定められました。

ボストン美術館では、モネの「ラ=ジャポネーズ」という和服を着たモネの妻をモデルにした作品の前で、来館者が同じ模様の着物を着て写真を撮るイベントを催しました。しかしこれに対して「人種差別的である」との抗議がありました。これを受けて即刻イベントは中止、美術館の館長はクビになったといいます。

性的マイノリティの問題に関連して、ある学校で「元女性の生徒」に対して教師が〝he〟ではなく〝she〟と呼んだことで解雇されたというケースがあるといいます。

また、身体と心の性自認が異なると言い出した娘を親が「気の迷い」とたしなめたところ「差別である」と見做され、その親から娘が強制的に引き離されたということも起きています。

その後、親の目の届かぬところで、その娘にはホルモン療法が行われたというのです。

〝Papa〟や〝Mama〟のような表現は同性婚の上で養子を迎える場合があることに配慮して禁止とし、かわりに〝Grown-ups〟や〝Family〟を用いるべきという提案があるなど、言葉狩りのようなことも主張されています。

宗教についても同様で、〝Merry Christmas〟は非キリスト教徒に配慮が足りないため禁止、かわって〝Happy Holiday〟を用いるようになりました。

日本ではここまで過度なことは起きていないように思いますが、例えば言葉遣いに対する配慮が求められるようになっているのは同様です。「看護婦」が「看護師」に、「保母」が「保育士」に変更されています。

女性だけではなく男性もいるから、ということがその理由です。また「主人」は男性が「主」というのでおかしい、「嫁」という文字は「女」が「家」と書くのでおかしいという主張も出てきています。

また「お母さん食堂」という惣菜ブランドも「食事は女性がつくるもの」という性役割を固定化するものであるとして批判が殺到しました。

「美白」という言葉も、「白い肌だけでなく、黒い肌も美しい」「配慮に欠ける」ということで、ある企業の商品から消えてしまいました。

2023年には、国会で「LGBT理解増進法」が制定されました。これにより、LGBTに寛容な社会を実現することが目指されるようになりました。

このように推進されるポリコレに配慮した対応ですが、「過剰に配慮し過ぎているのではないか」という批判も高まっています。
しかし同時にポリコレの必要性を主張する声もあがっており、ポリコレは肯定する人と批判する人とで明確に分かれているのが現状です。

文/土井昭

『新装版 教科書から消えた世界史』(扶桑社)

土井昭
実写版『リトル・マーメイド』炎上はなぜ起きた?「差別をやめよう」「マイノリティを保護しよう」といった配慮と改変の境界線はどこにあるのか
『新装版 教科書から消えた世界史』(扶桑社)
2026年2月28日1,320円(税込)384ページISBN: 978-4594102227

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