高市早苗総理率いる自民党が大勝した衆議院総選挙。その一方で話題となったのは議席数を半分以下に減らした中道改革連合だ。
公明党幹部がブチぎれた、あるネット記事
ある一つの記事が、公明党の逆鱗に触れた。
怒りは静かなものではない。公明党の幹部たちが公式に、そして即座に反応し、法的措置さえ口にするほどの激しい拒絶反応を示している。それほどまでに、この記事が報じた内容は、現在の公明党、あるいは「中道改革連合」の内部にいる人々の肌感覚と乖離していたのだろう。
まずは、記事の問題となっている箇所を確認していただきたい(以下、引用)。
『「中道で一緒にやっていく意義はない」 “負け組”立憲民主と“勝ち組”公明、もはや分裂必至か』(AERA dot.、2月10日配信)
公明党の参院議員A氏はこう言ってほくそ笑む。
「正直、うちはうまくやった。小選挙区は擁立しないが、組織票がある比例で優遇してくれという交渉をうまくやった。それでなきゃ4議席も増えない。小が大を飲み込んで、利を得た」
新党設立があまりに急ごしらえだったため、参院では立憲民主と公明がそのまま存続している。この公明のA氏は早くも解党を示唆する。
「衆院で自民党に大敗したので、中道でやってもかなわない、一緒にやっていく意義もないことが証明されてしまった。参院ではまだ分かれたままなので、お互いが元に戻ればいいんじゃないか」
(引用終わり)
私が取材した「公明党の現場の空気」とはたしかに違った
公明党側の怒りは凄まじい。参議院会長らが所属議員全員に確認を取ったところ、このような取材に応じた人間は一人もいないというのだ。つまりA氏は存在しない、発言は捏造である、と抗議の声を上げているのだ。
たしかに、報道に対して匿名告発者を晒せというのは無理筋な話で、これまでも報道の自由の中で匿名告発者は守られてきた。匿名告発者がいたからこそ、社会や政治が動いたことはいくらでもある。
しかし私は、その公明党側の怒りについては支持したい。なぜなら、私が取材した現場の空気は、A氏が語るような「計算高い冷笑」とは程遠いものだったからだ。
周囲にいる創価学会の人に話を聞いてみても、返ってくる言葉は苦渋に満ちている。
「組織として必死でやった。数字にもそれは表れている」
「状況は複雑だ」という言葉が、多くの人の口から漏れた。確かに、公明系の候補者が比例で当選したことは喜ばしい。しかし、共に戦ったはずの立憲民主党出身の議員たちが小選挙区で次々と落選していく様を見て、手放しで喜べるはずがない。
「組織として必死でやった。
そう語る表情に、裏切りや策謀の色は見えない。あったのは、やるべきことをやったという自負と、それでも届かなかった現実への徒労感だけだ。
友人の経営者(非創価学会員)が語ってくれたエピソードも、現場の熱量を裏付けている。
選挙が始まったばかりの頃、友人は笑っていた。
「うちのオフィスの大家さんは創価学会の人で、いつもなら選挙のたびにお願いに来るのに、今回はまだ来ない。あんまりやる気がないんじゃないか」
しかし、選挙戦も中盤に差し掛かった頃、大家さんはやってきた。そして、これまで以上に熱心に、中道候補への支援を訴えて帰っていったという。友人は「むしろいつも以上に必死だった」と振り返る。
出足が遅れたのは、やる気がなかったからではないだろう。かつて敵対していた勢力と手を組むという「中道」の枠組みを、自分の中でどう消化し、どう他者に説明すればよいのか、言葉を探していた時間が長かったのではないか。
悩みながら、それでも組織の決定に従い、汗をかいて歩き回った。そんな実直な支援者たちの姿が、この記事には欠落しているように感じられる。
組織票は逃げていない。しっかりと固められていたのだ
数字を見ても、現場の努力は明らかだ。時事通信が配信した分析記事は、感情論ではなくデータで公明党の動きを証明している。
「前回衆院選では、選挙協力により公明の比例票に自民支持者の票が一定程度含まれていることを考慮すると、純粋な公明・学会票は、参院選の得票数が実態に近いと言える。
学会員の高齢化などにより、国政選挙での公明の集票力が減少傾向にあったことを踏まえれば、2.9ポイント減という数字からは、東京の創価学会が組織を挙げて、中道の比例票の掘り起こしに取り組んだことがうかがえる」(時事通信『創価学会は全力で戦った? 新党・中道、衆院選で大敗【解説委員室から】』2月10日配信)。
記事によれば、比例票の減少幅は想定の範囲内に留まっている。つまり、組織票は逃げていない。しっかりと固められていたのだ。
北海道や東京といった重点地区でも、学会員たちは中道票の確保に全力を挙げていたことが数字から読み取れる。
「中道」を掲げるならその定義を広げたらどうか
とりあえず今後も中道は存続するようだ。もし「中道」という概念を大切にしたいのであれば、その定義をもっと広げる必要があると思う。
例えば、ドイツには「キリスト教民主同盟(CDU)」という政党がある。彼らはキリスト教の価値観をベースにしながらも、保守的な層から中道、そして労働者層まで、幅広い人々を包摂する巨大な国民政党だ。
日本の「中道」も、こうしたものを目指すべきではないだろうか。
現在の枠組みは、旧立憲民主党と旧公明党の合併という形だが、それだけでは足りない。世の中に存在するさまざまな仏教勢力、あるいは宗教的なバックボーンを持つ人々、さらにはリベラルにアレルギーを持つ保守的な仏教勢力までも取り込んでいく。
「右でも左でもない」ではなく、「右も左も包み込む」ような、大きな器としての「中道」。
そこまで懐を深くして初めて、宗教アレルギーやリベラルアレルギーといった壁を乗り越えることができるのではないか。
公明党の歩みを振り返れば、現実に即した柔軟な対応をしてきた歴史がある。
現場の人々は、やるべきことをやった
昨年は減税を強く主張して実現させた。リベラルと言われながらも、安全保障法制や辺野古移転、原発再稼働といった問題では、現実的な判断を下し、政権与党の一翼として責任を果たしてきた。理想を掲げつつも、現実の泥にまみれることを厭わない。その姿勢こそが、公明党の強みだったはずだ。
今回の選挙戦で、学会員たちが流した汗は嘘ではないだろう。大家さんが見せた必死さは、政治への誠実さそのものだ。だからこそ、その努力が報われない今の状況には、私も「複雑な思い」を抱かずにはいられない。
現場の人々は、やるべきことをやった。だとしたら、次は指導者たちが応える番だ。
「高市ではないから」という消極的な理由ではなく、人々が積極的に選びたくなるような、新しい「中道」の姿を示せるかどうか。
敗北は終わりではない。それは、自分たちが何者であるかを問い直す、最も貴重な機会でもある。
静かに、しかし確実に変化し続ける時代の波の中で、公明党という組織が次にどの方向へ舵を切るのか。もう一度、足元を見つめ直す時が来ている。
日本の仏教勢力の結集。中道がその役割を果たせるかどうか
かつて仏陀が説いた「中道」は、単なる中間地点ではなかったはずだ。それは、対立を超えて高みへと至る、智慧の道であった。
今の日本の政治に必要なのは、まさにその意味での「真ん中」なのだろう。
日本の仏教勢力の結集。
今回の衆院選で露呈したのは、急造された「中道」という看板の脆さと、現場の熱量との温度差である。公明党の支持母体がどれほど献身的に動こうとも、理念なき野合と見なされれば、有権者の心は離れていく。
高市政権という強力な保守の対抗軸として機能するためには、単なる議席の融通を超えた、魂の通った旗印が必要だ。捏造疑惑に憤るエネルギーがあるならば、それを「真の中道」を構築する力へと転換すべきである。
混沌とする政局の中で、彼らが自己の存在証明をいかに果たすのか。その真価が問われるのは、まさにこれからだ。
文/小倉健一

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