〈イラン攻撃〉米国が「巨大債務国家」でありながら「世界一豊か」である本当の理由…35兆ドル債務を支える“ドル覇権”の正体
〈イラン攻撃〉米国が「巨大債務国家」でありながら「世界一豊か」である本当の理由…35兆ドル債務を支える“ドル覇権”の正体

変わらず世界経済の中心であるアメリカ。「世界一の借金国」でありながら「世界で最も豊かな国」であるというその巨大な矛盾こそが、現代のアメリカ、そして世界経済のカラクリを解き明かす最大の鍵となる。

YouTubeチャンネル「大人の学び直しTV」の登録者数が100万人を超える「すあし社長」が、アメリカという国の核心に迫る。(本稿は、すあし社長『あの国の「なぜ?」が見えてくる世界経済地図』(かんき出版)の一部を再編集したものです。また、2025年9月時点の世界経済、情勢に基づいて制作しています)

なぜ、世界一豊かな国が、巨大債務国家なのか

世界の経済地図を広げたとき、アメリカ合衆国が放つ経済の輝きは圧倒的です。誰もが認める「世界で最も豊かな国」。それがアメリカの姿です。

光り輝くコインには、全く別の顔を持つ裏面が存在するように、実はアメリカにはもう一つの不名誉な「世界一」の称号を持っているのです。それは、「世界一の借金国」という現実です。

この巨大な謎こそが、現代のアメリカ、そして世界経済のカラクリを解き明かす最大の鍵となります。豊かなのに、なぜ借金まみれなのか。そして、なぜ破綻しないのか。この素朴な疑問から、アメリカという国の核心に迫っていきましょう。

巨額の借金を可能にする、「ドル」という法外な特権

経済規模を示すGDP(国内総生産)は、2025年のアメリカ名目GDP、約30兆ドル(日本円にして4000兆円以上)を見込んでおり世界一の座に長年にわたって君臨しています。アップル、グーグル、アマゾンといった巨大IT企業が世界を席巻し、今もなお最先端のイノベーションが次々と生まれる国です。

そんな世界一のお金持ちが、世界一の借金を抱えている――。



政府が抱える債務の総額は35兆ドル超にまで膨れ上がっており、GDPをはるかに上回ります。個人や企業であれば、収入を上回る借金を続ければいずれは破産という結末を迎えるのが当然ですが、私たちの日常感覚からするとにわかには信じがたい矛盾に満ちています。

なぜ、アメリカは、破綻するどころか世界経済の中心に君臨し続けているのか。その最大の秘密は、その手に握られた最強のカード、「ドル」という通貨にあります。

ドルは単なる一国の通貨ではなく、「基軸通貨」としての特別な地位を持っています。基軸通貨とは、国際的な経済活動の「基軸」、つまり中心的な物差しとして機能する通貨のことです。

例えば、日本が中東から石油を輸入するとき、その代金は「円」でも、現地の通貨でもなく、ドルで支払われます。また、ブラジルの企業が韓国から半導体を買うときも決済にはドルが使われます。

このように、世界中の貿易や金融取引の大部分がドルで行われるため、各国の政府や企業は、ビジネスを円滑に進めるため、あるいは万が一の経済危機に備えるための準備金として、常に大量のドルを保有しておく必要があるのです。

では、各国の政府や企業はどのようにしてドルを保有するのか。

まず、アメリカ政府がお金に困って借金をするとき、「国債」という証書を発行します。購入した投資家は、定期的に利子を受け取り、満期になると元本(貸したお金)が返ってきます。
この国債は全て「ドル建て」です。

国債はドルで買えて、利子も元本もドルで支払われる。そのため、極めて信頼性が高く、リスクの低い安全資産と見なされ、各国の政府や企業が米国債を求めます。

結果、アメリカが借金をしようとすれば、世界中にいる買い手(政府や企業)が「喜んで国債を買う」と列をなすのです。

返済に困れば、ドルを刷って返すことさえ理論上はできてしまいます。ただし、そんなことをすればドルの信用は失墜し、世界経済が大混乱に陥るため、現実的ではありません。
ですが、この「自国通貨建てで借金ができる」という特権は、アメリカの絶大なアドバンテージなのです。

この「ドル」という打ち出の小槌がある限り、アメリカは借金を重ねながら豊かな経済を維持するという、驚くべき離れ業を演じ続けることができます。

二大政党がなぜ、借金の原因なのか

借金が膨れ上がった直接的な原因は、政治システムに深く関係しています。

アメリカは伝統的に共和党と民主党という二大政党によって動かされてきました。皮肉なことに、どちらの党が政権を握っても結果的に借金を増やしてしまうという構造的なジレンマを抱えているのです。どういうことか、二大政党を見ていきましょう。

共和党の理念は、「政府の介入を減らし、民間の自由な経済活動こそが国を豊かにする」という「小さな政府」そのものです。

この考えを象徴する政策が「減税」です。

レーガン政権(1981―89年)では86年税制改革により法人税の最高税率が46%から34%(のちに35%)へと引き下げられました。ブッシュ(子)政権(01―09年)でも減税路線が採られ、第一次トランプ政権(17―21年)でも大規模な法人税減税(税率を35%から21%へ引き下げ)を実施されました。

このように共和党政権は決まって企業や富裕層への減税を断行してきました。しかし、税収が減っても、同じだけ支出を減らすことは極めて困難です。「まずは減税ありき」で進められる政策は、必然的に国家の財政赤字を拡大させます。

一方の民主党は、「政府が積極的に社会に関与し、国民の生活を支えるべきだ」という「大きな政府」で考えます。

オバマ前々政権(09―17年)が導入した国民皆保険制度に近い「オバマケア」や、記憶に新しいバイデン前政権(21―25年)が推し進めた巨額の「インフラ投資・雇用法」、クリーンエネルギー政策を盛り込んだ「インフレ削減法」などがその典型です。

これらの政策は、国民生活の安定に寄与する一方で莫大な政府支出を伴います。

そして25年、再び政権の座に返り咲いたドナルド・トランプ大統領のもと、「アメリカ・ファースト」の旗が再び掲げられています。トランプ氏は、第一期政権のときと同様に、さらなる減税や大胆な規制緩和を経済政策の柱に据えることを公約しており、再び歳入が減少する可能性があります。

「共和党が歳入を減らし、民主党が歳出を増やす」というサイクルが繰り返され、まるでリレーのように借金のバトンが受け渡されてきたのです。


また、「有権者に痛みを強いる増税や歳出削減を訴えるより、減税や給付を約束するほうが選挙に勝てる」――この民主主義国家が抱える抗いがたい誘惑が、アメリカの借金を際限なく膨らませる最大のエンジンになっています。

では、歳出を減らせないのか。その内訳を見ていきましょう。

予算を縛る「軍事費」と「社会保障費」

アメリカの国家予算、すなわち歳出の内訳を詳しく見てみると、まるで聖域のように扱われ、削減することが極めて難しい二つの巨大な支出項目が存在することに気づきます。
それが「軍事費」と「社会保障費」です。この二つが歳出全体の半分以上を占め、国家財政をガチガチに固めてしまっているのです。

まず「軍事費」について。アメリカは自他ともに認める「世界の警察」として、世界各地の紛争に介入し、同盟国を防衛する役割を担ってきました。そのためのコストは凄まじく、アメリカ一国の軍事費だけで、世界全体の軍事費総額の約37%を占めると言われます。

これは、軍事費ランキング2位から10位までの国々を全て合計した額を上回る規模です〈図1―9〉。冷戦終結後に一時、軍縮ムードが高まりましたが、その後の対テロ戦争、そして近年の中国との覇権争いやロシアによるウクライナ侵攻といった「地政学的リスク」の高まりを受け、軍事費は高止まりを続けています。

また、どの政権にとっても軍事費の削減は政治的なタブーに近いのが現実です。「世界の警察」を自任するアメリカでは、軍事力の維持は国家の威信そのものです。



軍事費を削減すると国内外の敵対勢力につけこまれると考える有権者が多いため、「国防をおろそかにする弱い大統領」という批判は致命傷になりかねないのです。

さらにやっかいなのが「社会保障費」です。

これには、高齢者向けの公的医療保険「メディケア」、低所得者向けの「メディケイド」、そして日本の国民年金や厚生年金にあたる「公的年金制度」などが含まれます。これらの費用は、法律によって支出が定められている「義務的経費」に分類されます。

つまり、政府が毎年「今年はこれくらいに抑えよう」と裁量で決められるものではなく、有資格者が増えれば自動的に支出が増えていく仕組みなのです。

特に、戦後のベビーブーマー世代が次々と退職し、高齢者人口が急増しているアメリカでは、医療費や年金の支払いが毎年、雪だるま式に膨れ上がっています。

「地政学的な理由で減らせない軍事費」と「人口動態によって自動的に増え続ける社会保障費」。この二大経費が国家予算を圧迫し続けています。

その結果、財政の自由度は著しく奪われ、新たな政策課題に取り組むための財源を、結局はさらなる借金(国債発行)に頼らざるを得ません。この悪循環からアメリカは抜け出せずにいるのです。

さらにそれだけではなく世界経済全体が絡む、ある問題もあります。

世界が「アメリカの赤字」をつくっている!?

アメリカの巨大な借金は国内の政治や予算だけの問題ではありません。実は、世界経済全体のダイナミックな仕組みそのものが、借金を支える構造になっているのです。

これを理解するキーワードが「経常収支の赤字」、特にその大半を占める「貿易赤字」です。

そもそもアメリカは、世界最大の消費大国です。 国内では作りきれないほどの自動車、電化製品、衣料品、食品などを、世界中から大量に輸入しています。その結果、輸出額よりも輸入額のほうがはるかに大きい「貿易赤字」の状態が何十年も続いています。

これは見方を変えれば、アメリカが大量にモノを消費してくれるおかげで、日本やドイツ、そして中国といった「世界の工場」と呼ばれる国々が生産活動を行い、経済を成長させ、雇用を維持できているということを意味します。

ここで、あの「ドル」が再び登場します。

アメリカへ製品を輸出した国々の手元には、その代金として受け取ったドルが大量に蓄積していきます。企業や政府は、そのドルをただ金庫に眠らせておくわけにはいきません。少しでも有利に運用して利益を生み出したいと考えます。そこで、その莫大なドル資金の最も安全で確実なところに投資します。それが皮肉なことに、「米国債」なのです。

この流れを整理すると――

①アメリカが世界中から商品を輸入し、貿易赤字を垂れ流す。
②商品を売った日本や中国などの輸出国にドルが溜まる。
③輸出国は余ったドルを運用するため、安全な米国債を購入する。
④その資金がアメリカに還流し、再びアメリカの赤字を穴埋めする。

このような、巨大な国際的資金循環システムが完成します。

依然としてこの基本構造は揺らいでいません。アメリカの旺盛な消費と赤字が世界の経済を回し、その見返りとして世界がアメリカの借金を支える。このような、壮大な持ちつ持たれつの関係性が、世界経済の根底には深く横たわっているのです。

文/すあし社長 写真/shutterstock

あの国の「なぜ?」が見えてくる世界経済地図

すあし社長
〈イラン攻撃〉米国が「巨大債務国家」でありながら「世界一豊か」である本当の理由…35兆ドル債務を支える“ドル覇権”の正体
あの国の「なぜ?」が見えてくる世界経済地図
2025/10/81,980円(税込)320ページISBN: 978-4761278304

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アメリカ・中国・ロシア・ヨーロッパ、そして日本……
テレビ・新聞のニュースではわからない世界の真実
世界を変える〝強国の戦略〟を日本人は知らない。

「なぜ、日本が世界から『金持ちの国』といわれるのか」
「なぜ、日本は物価高が続くのか」
「なぜ、中国も、ロシアも、アメリカも衰退していると言われているのか」
「なぜ、世界的に右派・ポピュリズム政党が台頭しているのか」

……さまざまな疑問に、「表面的な答え」ではなく、ものごとの繋がりから理解できる一冊です。

ニュースを見ていると、ある国の行動が理不尽で理解不能に思えることがあるかもしれません。しかし、その国の歴史、内政、国民感情といった「火種」を知れば、その行動が彼らにとっての「ロジック」に基づいていることが見えてきます。世界経済を善悪二元論ではない、複眼的で、バイアスのない冷静な視点で読み解いてみてください。

【目次】
1章 〈アメリカ〉 ドルという魔法は、いつまで続くのか
2章 〈中国〉 成長か、安定か、究極の選択に迫られる
3章 〈ロシア〉 「過去の栄光」のために、犠牲にする未来
4章 〈ヨーロッパ〉 「ひとつの家族」の理想と現実
5章 〈日本〉 世界が注目する「豊かなまま縮小」の行く道

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