阪神ファンはなぜ勝てば知らない人とハイタッチし、負ければ痛みを分け合うのか。とある日の球場でサヨナラ負けした際に「ビール30杯」を周りのファンにおごったおじさんがいた——その衝撃エピソードから見えるのは、タイガースを“人生”として背負う独特の一体感だ。
YouTuberさばかんと、大の阪神ファンで新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』を刊行した牛窪恵さんが、
熱狂の効能と正体について対談した。
有名人や阪神OBも注目する「さばかんチャンネル」
――(牛窪恵 以下同)最近は、大の阪神ファンで知られる、ちっひーさん(NMB45の元メンバー・川上千尋さん)とも、YouTube上で共演されましたよね。
さばかん(以下同) ちっひーさんとの共演は、「DIGVOICE(ディグボイス/参加型スポーツ実況配信アプリ)」さん経由でした。牛窪さんこそ、掛布雅之さんや矢野燿大さん、能見篤史さんなど、タイガースのレジェンドOBと、テレビでご一緒されてるじゃないですか!
――確かに、そこは役得ですよね。あと、さばかんさんのXは、著名人のフォロワーさんも多くないですか?
ありがたいことに、阪神ファンの千秋さんやロッチの中岡創一さんは、僕のポストを引用してリポストしてくれたりします。また、著名人とは少し違うかもですが、阪神園芸の甲子園施設部長・金沢健児さんも、僕のポストを見て下さってるみたいです。
――えー?あの「甲子園球場の神整備」で知られる、金沢さんに? 羨ましすぎます!
あと、タイガースOBの今岡誠さんとも、YouTube上で対談されましたよね。
はい。吉本興業のニッポンの社長・辻皓平さん経由でつないでもらったのですが、もともと今岡さんが僕のYouTubeを視聴してくれて、直々に指名してくださったらしくて。本当にうれしかったですね。めちゃめちゃ緊張したんですが、当日、開口一番「顔かわいいな」と言われて、緊張がほどけました。
――さばかんさんの実況配信では、選手の応援歌やBGMを切り替えたり、タイトル演出を変えたりと、いろいろ工夫されている印象です。
野球って一試合が長いので、途中で思考を凝らさないと飽きられてしまうんです。
――投手の球種や打者との相性など、データも充実していますよね。
ありがとうございます。最近は、テレビ局にもスポーツデータを提供する「データスタジアム」さんに、ご協力いただいています。データを見ながらの観戦って、たぶんプロ野球OBの方々による「スイングがいい」「腕の振りがいい」といった解説を聞きながらより、敷居が低いんですよ。
――つまり、野球に詳しくない方々にも、分かりやすいと?
ええ。打球の速度とか投球の回転率などのデータって、予備知識がなくても、フラットに「数字」として可視化されるじゃないですか。以前からデータ重視の傾向が強かったメジャーリーグの傾向が、日本にも浸透したのは、2023年だったかなと思います。この年のWBC(ワールドベースボールクラシック)によって、一気に広がったかなと。
「成功体験の相乗り」が阪神ファンの強み?
――なるほど。2023年は、さばかんさんのチャンネル登録者も増えました?
はい。1年で約5万人も増えました。当時まだ大学生だったので、143試合中95試合ぐらい配信できていたんです。
――YouTube配信は、小学生のときに始めたと伺いましたが、その後、タイガースの試合の実況配信を始めた時期は?
2019年からです。きっかけは、高校生になって阪神タイガース専用のX(Twitter)アカウントを始めたとき。大きかったのが、タイガースの近本光司選手のサクセスストーリーを、いまでいうショート動画みたいなものにまとめてXにアップしたのですが、なんと!近本光司選手自身が反応してくれたんです。
――え? 近本選手本人が?!
はい、たまたま近本選手のハッシュタグを付けて呟いたら、見て下さったみたいです。同じ頃、ファンの方々からその動画を「アーカイブに残してほしい」という声があがったりしたので、阪神タイガース専用のYouTubeを開設して、試合実況も本格的に始動しました 。
――さばかんさんの実況って、ほど良い「ファン目線」が魅力なんですよね。
ありがとうございます。そこは意識しています。商業色が強くなると、ファンコンテンツとして、皆さんに受け入れられにくくなると感じるので。
――拙著のテーマは「阪神ファンと幸福感」です。さばかんさんが、配信していて「阪神ファンでよかった」や「幸せだな」と感じる瞬間は?
「成功体験の相乗り」ができること、でしょうか。
サヨナラ負けで「ビール30杯」をおごったおじさん
――分かります。逆に、タイガースの選手がデッドボールを当てられると、阪神ファンはまるで我が子が傷を負ったかのように、怒りを露わにする。敗戦の辛さも、皆で共有しようとしますよね。
そういえば以前、球場で、ヤクルトの村上宗隆選手にサヨナラヒットを打たれて負けた試合を観たのですが、阪神ファンのおじさんが売り子さんから「もう今日はええわ」と、ビールを30杯分ぐらい買って、周りの皆さんに「いいから、持ってってや」と呼びかけていたのが忘れられません(笑)。
――阪神ファンらしいですね。監督の采配についても、皆であれこれ想像して「こうでもない」「ああでもない」と議論したりする。
皆さんが、監督目線なんですよね。また、タイガースを「(わが)人生」と捉えたり、ふだん出場機会に恵まれない選手が活躍すると、わがことのように喜んだりする傾向も強い。
――ちなみに、采配の推理は「インファレンス効果(Inference Effect)」、選手の活躍を我が事のように喜ぶのは「チームID効果(Team Identification Effect)」と呼ぶべきもので、これらも幸福実感や「ウェルビーイング(心身共に満たされた状態)」と関係が深いんです。
え? どういうことですか?
――話すと長くなるので、詳しくは拙著をお読み下さいね(笑)。
ええ。例えば読売ジャイアンツは“常勝軍団”なので、応援する方々にもちょっと余裕がある印象です。でも阪神ファンは、長い暗黒時代など「うまくいく(優勝する)とは限らない歴史」を知っている人が多い。だからこそ、「常に、真剣に応援しなければ」とのめり込みやすいのではないでしょうか。(#3へつづく)
「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)
牛窪 恵
構成/牛窪恵

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