地方の田んぼにポツンと建つ「日本一安いタワマン」の謎…意外にもメリット豊富だという、地方タワマン移住は流行るのか
地方の田んぼにポツンと建つ「日本一安いタワマン」の謎…意外にもメリット豊富だという、地方タワマン移住は流行るのか

タワマンと言えば、都会の駅近地域に建っているイメージがあるだろう。しかし山形県上山市には田んぼの中にそびえたつタワマンがある。

ネットでは「誰が住むのか」「廃墟なのでは」という失礼な声もある。いったいどんなタワマンなのか?

メディアにも引っ張りだこの不動産専門家・牧野知弘氏著『50歳からの不動産』より抜粋・再構成し、現地のレポートをお届けする。

70㎡、850万円~1000万円で買えるタワマン

山形県上山市は山形市の南にあって、蔵王連峰を東に見る温泉地として有名な街ですが、ここの田園地帯にタワマンがあることをご存じでしょうか。国道13号上山バイパスを山形市方面に北上すると、左手前方に巨大な建造物が忽然と姿を現します。

タワマンの名は「スカイタワー41(よんじゅういち)」。建物が竣工したのは26年前(2025年現在)の1999年6月ですから昨今のタワマンブームとは一線を画します。事業化した会社は中堅デベロッパー山万の子会社である山万アーバンフロント社。総戸数389戸。住戸面積70㎡から105㎡、間取りは2LDKから4LDK。最寄り駅JR奥羽本線「かみのやま温泉」駅から徒歩25分。当初の販売価格は2000万円台から4000万円台でした。

販売は当初から苦戦。販売価格どおりには売れず、半値程度にまで値下げして販売開始6年後の2005年になんとか完売にこぎつけたとされます。

山万アーバンフロント社がなぜこの地でタワマンを計画したのかについては謎です。同社は、第一勧業銀行系の会社で、役員の多くが銀行からの出向者で占められていましたが、上山市と特別なつながりがあったかどうかは定かでありません。同社はこのタワマン販売の失敗が尾を引いたのか、業績悪化で2014年1月には破産しています。

実際に現地に出かけてみました。都市部では通勤するために最寄り駅からの徒歩時間が重要ですが、駅から25分はかかりすぎです。しかも山形駅にアクセスできる電車は平日朝7時台の2本以外は1時間1本。とても通勤の用をなしてはいません。いっぽう車を使えばバイパス利用で山形市内まで20分程度でアクセスできます。マンション内駐車場は充実していて、すべてが平面駐車場で各住戸に1台以上のスペースが確保されています。実際、住民の多くは山形市内に車で通勤をする人と高齢者で占められているといいます。

中古価格を調べてみました。意外なことに売却希望住戸は少ないです。

70㎡住戸の中古成約価格は850万円から1000万円程度。坪単価で40万円から47万円。これは安い! おそらく日本で一番安いタワマンと言ってよいでしょう。

販売当初から人気がなく築26年も経過しているのですから、さぞや廃墟化しているかと思いきや、予想に反して意外と住戸は埋まっていて管理状況も良好にみえました。実際このタワマンの紹介サイトによれば、住民の満足度は高そうです。タワマンに住むある高齢者はインタビューに対し、タワマンを評価する理由に「雪かきをせずに済む」こと、「断熱性が高く、光熱費が安い」ことを真っ先に掲げ、タワマンならではの「眺望の良さ」も加えて、満足度の高さを語っていました。

過疎化地域にこそタワマンを作るべき

しかしタワマンが建つ上山市の現状は厳しいものがあります。1954年に市制が施行され70年がたちますが、1955年に4万1848人だった人口は、現在(2025年4月)で2万7270人と35%も減少しています。

市は手をこまねいていたわけではありません。上山市振興計画を掲げ、2024年には第8次計画を発表しています。

調和、豊か、幸せ、自然、快適、健やか、クアオルト(療養)、つながり、これまで多くの標語を並べて街の振興に旗を振ってきた市の努力と想いはむなしく、1960年代後半以降は計画を刷新しても人口減少に歯止めがかからない状況は続き、2020年の国勢調査においてはついに過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法に基づく過疎地域(全部過疎)に指定されました。残念ながら1999年に竣工したタワマンも市の人口減少をとどめることに貢献できたとはいえません。

でも見方を変えてみると、価格の安さは別として、このタワマンで暮らす住民たちの生活満足度は意外と高そうに見えます。

雪国では不可避のはずだった「雪かき」や「高い光熱費」を避けられ、自動車さえあれば基本的に生活には困りません。周辺からは絶対に妨害されずに蔵王連峰や山形盆地を一望できる景観。これから確実に必要となる大規模修繕に十分対応できるかの問題はあるにせよ、廃墟化のリスクは高くないようにみえます。

いっぽうで市の窮状は今後も深刻化するばかりであることも窺えます。ならばいっそのこといささか暴論ですが、過疎化地域に指定された上山市は、タワマンの街を目指してみてはどうかと思えます。スカイタワーには700人ほどが居住しているとされますが、たとえば10棟のタワマンがあれば、約7000人、市の人口の4分の1が集住できます。これから老朽化する上下水道、ガス、電気などの社会インフラの維持にかかるコストを考えれば、コンパクト化の効果は極めて高いはずです。

タワマンの低層部には商業施設のみならず、公共施設、役所機能を設ければタワマン街の中だけで日々の生活が完結します。特に気候の厳しい冬場などは快適そのものの生活を営めるのではないでしょうか。雪国の高齢者にとってタワマン住まいは、かなり快適度の高い住まいですから、福祉的な観点からもおすすめできます。高齢者の住まいのモデル都市として振興計画に盛り込んでみてはどうでしょう。

また、こうしたタワマンに大都市圏から移住者を迎えるのも得策です。

マンション住まいに慣れた都会人なら、雪国への移住に不安は少ないでしょう。地方タワマン移住、流行るかもしれません。

文/牧野知弘

『50歳からの不動産 不動産屋と銀行に煽られないために』(中公新書ラクレ)

牧野知弘
地方の田んぼにポツンと建つ「日本一安いタワマン」の謎…意外にもメリット豊富だという、地方タワマン移住は流行るのか
『50歳からの不動産 不動産屋と銀行に煽られないために』(中公新書ラクレ)
2026/2/91,100円(税込)256ページISBN: 978-4121508577

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