地方に生まれ育った女性は、その出身地域や通っている高校の特性、保護者の学歴といった社的諸条件を乗り越えなければ大学進学が難しいと、教育社会学を研究する寺町晋哉氏は指摘する。
本記事では書籍『なぜ「地方女子」は呪縛になるのか』より一部を抜粋・再構成し、大学進学の経済的利点の男女差を明らかにする。
無視できない進学費用
将来就きたい職業がある、学びたい学問があるなど、大学へ進学する目的は人によってさまざまだろうし、そこに優劣はない。ただ、どんな目的であれ、無視できないものが「お金」である。
日本の高等教育は無償ではないため、高校以降の教育機関への進学は教育費がかかる。どれだけ志の高い目的だったとしても、経済的利点に見合わなければ、進学を躊躇してしまったり、諦めざるを得なかったりする可能性は高くなる。学歴が高いほど賃金が高くなる傾向にあるため、高等教育へ進学することには経済的利点がある。
しかし、大学進学による経済的利点は、男女で異なっている。
大学進学にかかわる教育費は、授業料などの直接費用だけではない。大学へ通った場合、高卒後すぐに就職したならば得られていた4年分の収入を放棄することになる(機会費用)。
極めて単純化して説明するならば、仮に高卒後すぐに就労し、手取り年収が200万円とすると、4年間で800万円の収入を得ることになるが、大学へ通うことでその800万円を放棄することになる。
そして大学へ通うことで、国公立大学ではおおよそ入学料約28万円と、年間授業料約53万円を4年間支払うことになり、約240万円の直接費用を要する。つまり、大卒後すぐに就労したとしても、高卒後すぐに就労する場合と比較して、1040万円の差が生まれている。
したがって、直接費用と機会費用を合わせた1040万円を「大卒後に就労した場合の収入-高卒後に就労した場合の収入」で回収できなければ、大学進学の経済的利点がなくなる。
男女で異なる大学進学の経済的利点
高等教育費に詳しい日下田岳史は、『現場で使える教育社会学』において、就職後のキャリアを中断することなく60歳まで働き続けた場合、大学進学にかかわる教育費の「投資」が、どの程度の利回り(私的内部収益率)になるのかを計算している。
日下田によると、男女ともに高等専門学校卒と大学卒の私的内部収益率が高い*1。
つまり、女性は高卒後に専門学校や短大、大学へ進学することが経済的には「合理的」な選択となる。
しかし、女性のライフコースは結婚や出産の影響を受けやすいため、「就職後のキャリアを中断することなく60歳まで働き続けた場合」という条件を満たせるかどうかが不透明になりやすい。
日下田は著書『女性の大学進学拡大と機会格差』の中で、収益率がプラスになるために、短大で30歳前半頃、大学で30歳半ば頃まで働く見込みが必要と指摘している。それより早期に就労を中止した場合、短大や大学への進学は経済的合理性がなくなってしまうのである。
この値は2009年データから算出されたものであるが、現在でも30代半ばで職業キャリアを中止すれば、経済的合理性という点では不利益を被ると考えられる。反対に、男性は結婚や出産の影響を受けにくいため、就労を継続しやすく、大学進学が経済的利点を伴いやすい。
高卒後の進路選択が限られている
大学進学しない女性の私的内部収益率が高いからといって、男性の賃金より高くなるわけではないことに注意が必要である。
図1・2は厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」の結果の概況より抜粋したものである。図1・2からわかるように、男女ともに学歴が上がるにつれ、賃金が上昇している。20代では学歴間に大きな賃金差はないが、年齢が上がるにつれ、その差はどんどん大きくなっていくことがわかる。
しかし、同じ学歴であっても男女によって賃金差が大きく、大卒女性と高卒男性の賃金に大きな差はみられない*2。
女性は高卒で働いたとしても、賃金はほとんど上昇せず、最も高い年収で約250万円(税込給与)であり、可処分所得は月に20万未満である。
また、高卒女性は高卒男性や大卒女性と比較して、非正規雇用になるリスクを抱えている*3。非正規労働に従事したとしても、低賃金で労働条件も良くないため、転職を繰り返すことで生活が不安定になりやすくなる*4。
女性は高卒後すぐの就労を検討しにくく、高等教育進学が選択肢にのぼりやすくなる。一方、男性は高卒後すぐに就労するか、大学へ進学するか、という選択肢を検討しやすくなる*5。
経済的利点と高卒後の就職・進学との関係について、簡単にみてきた。経済的利点だけで大学進学を目指すわけではないが、それを無視するわけにもいかないだろう。
また、学歴に応じた収入が男女によって異なる実態も無視できない。女性は高卒後すぐに就労しても、安定した収入が見込めないために、進学せざるを得ないのである。
大学へ進学する「壁」が注目されがちだが、大学進学で得られる経済的利点が男女で異なっている社会──女性がキャリアを中断せざるを得ない立場に追いやられやすい、同じ学歴でも男性より女性の賃金が低いなど──を変えていく必要もある。
脚注
*1 高専は大卒よりも2年早く働き始めるため、教育費が少なくすみ、かつ若年時の税引後賃金が大卒に比肩する水準である(日下田岳史「進路が実質的に意味する生徒の未来」、中村高康・松岡亮二(編著)『現場で使える教育社会学―教職のための「教育格差」入門』ミネルヴァ書房、2021年)。
*2 2017年の「就業構造基本調査」から中卒、専門学校の年数に応じた学歴別賃金でも、同様の結果であった(日下田岳史「進路が実質的に意味する生徒の未来」、中村高康・松岡亮二(編著)『現場で使える教育社会学―教職のための「教育格差」入門』ミネルヴァ書房、2021年)。
*3 2009年入職時点での非正規雇用率は、高卒女性が約45%、高卒男性と大卒女性が約20%、大卒男性は約15%となっている。
*4 杉田真衣「大都市の周縁で生きていく」、中西新太郎・高山智樹(編著)『ノンエリート青年の社会空間―働くこと、生きること、「大人になる」ということ』(大月書店、2009年)。
*5 専門学校や短期大学も選択肢となりうるが、経済的利点の観点から言えば、男性は「高卒か、大卒か」となりやすい
なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
寺町 晋哉
大学進学において、生まれ育った地域、性別、通っている高校、保護者の学歴など、特に多くの壁=社会的諸条件を乗り越えなければならないのが「地方女子」。
個人の努力や意志の問題に矮小化すると、「壁を乗り越えられないのは自己責任」という重荷を子どもたちに背負わせかねず、「地方女子」を呪縛にしてしまう。
選択の背景にある「当たり前」はどのようにつくられているのか──。
本書では「地方女子」の置かれた現状を教育、制度、経済、社会意識、ジェンダーなど多角的な視点から分析し問う。
【目次】
序章 「地方女子」は「呪縛」なのか?
第1章 「地方」からみた大学進学
第2章 どのように”女の子”になるのか
第3章 理系から遠ざけられる女子たち
第4章 女子はなぜ四年制大学へ進学しにくいのか?
終章 「地方女子」を呪縛にしないために
あとがき

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