地元の短大卒も都市部の四大卒も、地方で働くなら生涯賃金は同じ? 「地方女子」にとって大学進学という「投資」を回収できる見込みはどれくらいなのか
地元の短大卒も都市部の四大卒も、地方で働くなら生涯賃金は同じ? 「地方女子」にとって大学進学という「投資」を回収できる見込みはどれくらいなのか

地方で生まれ育った女子が都市部の大学へ進学すると、学費以外に下宿や生活費といった費用がかかる。もしも将来的には地元に戻って就労するなら、こうした費用分の回収が難しくなる可能性があるという。

つまり大学進学を「投資」と捉えた場合、損が発生するというのだ。

本記事では書籍『なぜ「地方女子」は呪縛になるのか』より一部を抜粋・再構成し、地方の女子が都会の大学に進学するにあたっての金銭面以外の社会的な壁も同時に考察する。

「親心」という善意

保護者の進学期待を得て、高校生自身が大学進学を目指したとしても、「地方」の女子には「壁」が残されている。それは、「居住地から通える範囲の大学かどうか」である。

「地方」では県内の大学収容力に限りがあるため、県外進学を検討しなければならないが、その場合「下宿」をすることになり、費用が上昇する。

再び、日下田岳史の『女性の大学進学拡大と機会格差』を参照しよう。

大学の授業料が増加するほど、また高卒後すぐに働ける見込み(機会費用)が高いほど、保護者は下宿コストを抑えようとするが、それは女子にのみ強くなる傾向にあり、背景には保護者が大学進学貸与型奨学金という「ローン」を娘には背負わせまいとする「親心」の存在があるという*1

居住地の労働条件

「地元に残りたいな」と考えていたとして、大卒であることが給与面に反映されないとしたら、それでも費用をかけて大学進学するだろうか?

高等教育に詳しい朴澤泰男の『高等教育機会の地域格差』では、出身県内で働く見通しが高いならば、短大卒と大卒との間の収入差が大きくならない地域も存在し、経済的には大学進学が「ベストな選択肢」とは限らないこともありうることが指摘されている。

この場合、内部収益率を考えると、短大へ進学した方が経済的利点は大きいことになる。また、出身県における将来の正規雇用の可能性が低い県ほど、女性の県外進学率と大学進学率が低い傾向にある。

大学数が少ない「地方」であれば県外へ進学する可能性が高まり、余計に教育費が必要となってしまう。日本では、大学進学における家庭の私費負担割合が非常に大きいため、家庭の所得や保護者の方針も、大学進学に影響を及ぼすことになるだろう。

大卒の経済的利点が少ない地域では、わざわざお金をかけてまで大学へ行く必要性も大きくない。県内外にかかわらず、女子は大学進学という「投資」を経済的に回収できる見込みが不明瞭なことが多い。



県外進学となれば教育費用だけでなく、生活費用も含めて支出は増大し、「投資」のリスクが高まるだろう。それにもかかわらず、大学卒業後に地元で安定した就職口がなく、あったとしても短大卒の待遇と大差ないのであれば、リスクを背負ってまで大学進学するメリットがどれほどあるのか、筆者は簡単に判断できない*2

こうした社会的条件が高校生の進路選択に制約を課すことになり、特に「地方」の女子は、その制約が大きくなる傾向にある。

「地方」の女子が(特に県外へ)大学進学するためには、「なんとなく」では周囲が納得しないだろうし、「大学で学ぶ意志」や「県外大学へ進学する明確な目的」といった「大義名分」が、男子や大都市圏の女子よりも求められやすいのかもしれない。

行動的な女子たち

そうした「空気」を察してなのか、進路選択について、より行動的なのは女子の方である。

東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所が共同で行った「子どもの生活と学びに関する親子調査」によると、進路選択に関する行動において、「自分の意思で進路を選択した」に「とてもあてはまる」と回答した男子は49.7%、女子は62.5%、「あてはまる」と回答した男子は45.4%、女子は32.9%であった*3

同様に、「自分の進路について真剣に考えた」に「とてもあてはまる」男子は43.5%、女子は58.0%、「あてはまる」男子は49.5%、女子は36.3%であり、「自分から進んで進路に関する情報を収集した」に「とてもあてはまる」男子は25.5%、女子は44.0%、「あてはまる」男子は46.7%、女子は41.8%であった。

いずれの項目も、「とてもあてはまる」と回答した高校生は、男子よりも女子で高い。

学業成績だけではない女子特有の進路

大学進学した読者の方々は、どのようにして進学先の大学を決めただろうか。私事ではあるが、筆者は大学進学するにあたり、「一人暮らし」をすること、教師になるために教育学部へ行くこと、の二点を最も重視していた。

ただ、「一人暮らし」をするには「親元」を離れるので、経済的負担は増加する。だからこそ、授業料が相対的に安価である国公立大学が進学先の条件となっていた。地域移動を伴うために、大学の設置主体もあわせて考慮に入れ、進学先を検討したわけである。

大学を選択する際、自身の学業成績も重要な基準になるが、経済的なこと、学びたいこと、保護者の要望など、複数の条件を考慮しながら進学先を決めていく。

実は、この選択の方法も個人の意志だけではなく、社会条件の影響を受けることになる。

「受け皿」だった女子大・短大

1990年代は大学進学率の男女差が大きく、20%以上の女子が短大へ進学していた。教育社会学者、吉原惠子の論文「異なる競争を生み出す入試システム」によると、1990年代は女子高校生が短大や女子大学へ進学する「ルート」が(今よりも強く)存在していたという。

男子高校生は9割近くが一般入試を利用し、男子校・共学校にかかわらず一つの偏差値ピラミッド内で競争しているのに対し、女子高校生は大学の附属校・系列校からの優先入学制度(多くは女子大)や推薦入試を利用する割合が3割程度存在していた。

この実態の背景に、男子は浪人してでも「学力偏差値」でより上位の大学を目指すことが規範化され、女子は浪人を避けることが規範化されていると吉原は指摘している。

1970年代から1995年頃まで、大学入学者における一浪割合は、男子が約30%、女子が約15%であり、大きく変化していない。大学進学の動機は男女に大きな違いがないにもかかわらず、浪人の実態は男女で大きく異なっていたのである。

そして、浪人を避けた女子高校生は、志望ランクを下げて女子大や短大へ進学していた一方、浪人を選択した女子たちは、男子と同じように「上の大学」を狙うことを優先していたのである。

学力だけで説明できない女子の進路

進路選択が男女で異なるのは、入試システムによるものだけではない。高校生自身のジェンダー観や学校の教育方針によって、女子高校生の進路や将来の展望が異なることも明らかにされてきた。

「進学校」と呼ばれる高校へ進学すると、おのずと大学へ進学するよう方向づけられる(トラッキング)。

ところが、女子の進路に詳しい教育社会学者の中西祐子は、『ジェンダー・トラック』において、学業成績によるトラッキングだけでは説明できない進路選択が女子には存在することを明らかにした。

学力偏差値で上位に位置づく私立女子高であっても、固定的な性別役割観をもたない生徒の多いX高校は、家庭科や特別活動の時間が少なく、校風や卒業生イメージが「キャリア女性の養成校」といった特徴をもつ。

それに対して、固定的な性別役割観をもつ生徒が多いY高校は、ノン・アカデミック科目(家庭科・体育科・芸術科・特別活動)の必修時間が多く、校風や卒業生イメージが「良き妻、良き母親、家庭夫人の養成校」といった特徴をもつ。

大学進学希望も両校で傾向は異なり、人文科学系志望者はX高が約20%、Y高が約35%、医学部志望者はX高が約30%、Y高が約7%であった。「就業を定年まで継続」の希望をもつ割合は、X高が約52%、Y高が約26%であった。

特定の性別役割観をもつ家庭層の生徒が、特定の高校へ偏って入学することも考えられる。しかし、中西によると、生徒の進路選択に対して高校の影響力が家庭の影響力を上まわっていたという。

生徒がもつジェンダー観、学校の教育方針や伝統、卒業生イメージのジェンダーによって、学業成績だけではない女子特有の進路選択、「ジェンダー・トラック」が生じていたのである。

吉原、中西の研究から、学力水準とは別の論理が、女子の進路選択を方向づけていたことがうかがえる。いずれも1990年代の研究であり、1990年代後半以降、女子の大学進学率は上昇し続け、男子との差は縮まっていることを考えると、現在の大学進学にこれらの議論が即座に該当するわけではない。

しかし、現在も学力水準だけで進路選択が行われていないことが、複数の研究からわかっている。端的に述べるならば、入試選抜度の高い「難関大学」への進学、浪人の選択、学部学科の選択、これらが男女で異なっている。

脚注
*1 日下田岳史(『女性の大学進学拡大と機会格差』東信堂、2020年)によると、女性は男性と比べ奨学金収入が少なく、家庭からの給付額は多い。
*2 「将来就きたい職業」など、経済的理由以外で大学進学を目指すことも考えられるが、「将来就きたい職業」もまた、大学以外の進路選択へつながっているのである。
*3 2018年3月に高校3年生975名を分析対象とした結果であり、対象者の7割強が大学進学、あるいは大学等の進学準備となっている。

短大や専門学校等に進学した者、就職した者も含まれている(野﨑友花「高校生活の振り返りと進路選択―『卒業時サーベイ』の主な結果から」、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所(編著)『子どもの学びと成長を追う―2万組の親子パネル調査から』勁草書房、2020年)。

なぜ「地方女子」は呪縛になるのか

寺町 晋哉
地元の短大卒も都市部の四大卒も、地方で働くなら生涯賃金は同じ? 「地方女子」にとって大学進学という「投資」を回収できる見込みはどれくらいなのか
なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
2026年1月17日発売1,045円(税込)新書判/208ページISBN: 978-4-08-721394-2


大学進学において、生まれ育った地域、性別、通っている高校、保護者の学歴など、特に多くの壁=社会的諸条件を乗り越えなければならないのが「地方女子」。
個人の努力や意志の問題に矮小化すると、「壁を乗り越えられないのは自己責任」という重荷を子どもたちに背負わせかねず、「地方女子」を呪縛にしてしまう。
選択の背景にある「当たり前」はどのようにつくられているのか──。
本書では「地方女子」の置かれた現状を教育、制度、経済、社会意識、ジェンダーなど多角的な視点から分析し問う。

【目次】
序章 「地方女子」は「呪縛」なのか?
第1章 「地方」からみた大学進学
第2章 どのように”女の子”になるのか
第3章 理系から遠ざけられる女子たち
第4章 女子はなぜ四年制大学へ進学しにくいのか?
終章 「地方女子」を呪縛にしないために
あとがき

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