教育の背後にある社会構造やジェンダーの力学を研究している教育社会学者の寺町晋哉氏。氏によると、男子に比べて女子のほうが幼い頃から「身の丈」に応じることが求められる傾向にあるという。
本記事では書籍『なぜ「地方女子」は呪縛になるのか』より一部を抜粋・再構成し、なぜ幼い頃から女子のほうが現実的なのか? その理由を考察する。
将来の夢・職業とジェンダー
高校生の進路選択において、「将来なりたい職業」やそれに伴う資格が重要なことはわかったが、そもそも彼/彼女らはどんな職業に就きたいと思っているのだろうか。結論から述べるならば、「将来なりたい職業」もジェンダーの影響をかなり受けている。
「子どもの生活と学びに関する親子調査」を参照しよう。この調査では、「将来なりたい職業(やりたい仕事)はありますか」に「ある」か「ない」で回答し、「ある」場合は「あなたが一番なりたい職業(やりたい仕事)を、具体的に書いてください」という質問項目がある。
この回答結果を分析した藤原翔によれば、小学4年生や5年生の時期に男子の約60%、女子の約70%が「将来なりたい職業がある」と答えている。その割合は、小学6年生から減少し、最も低い割合になる中学3年生では、「将来なりたい職業がある」男子が約30%、女子が約50%になる。
高校生以降は再上昇し、男子の約50%、女子の約60%が「将来なりたい職業がある」と答えている。
表4は、「将来なりたい職業がある」と答えた小中高生が具体的に挙げた職業のうち、上位五つを学年別・男女別にしたものである。資格や免許が必要な職業に網掛けをしている。
小学生男子は、10人に1人以上が「職業スポーツ従事者」を希望している。
ただし、狭き門であることを徐々に認識していくからか、中学校以降は急減していき(それでも中3までは最も希望が多い)、高校3年生になると上位20圏内にも入らなくなる。
「医師」は学年によって上下するが、小学校から高校まで上位5に入り続けている。中学2年生までは「ゲーム制作・ゲーム関係」の希望も多いが、高校3年生になると上位20圏内に入らなくなる。
中学以降、「教員」「公務員」を希望する者が増加し、高校以降は「教員」を希望する割合が最も多くなる。「小学校教員」や「中学校教員」など、学校段階を明確にした教員は別途カウントしているため、それらを合わせると「教員」を希望する者はさらに増加する。
女子に目を向けると、小中高と一貫して、資格や免許が必要な職業を希望する者が多い。特に、「保育士」と「看護師」は、全学年で上位5に入り続けている。
小学校で最も希望の多い「パティシエ」は学年を追うごとに減少し、高校3年生では上位20にも入らなくなる。高校1年生までランクインしている「医師」は、高校2年生で7番目(1.5%)、高校3年生で6番目(1.5%)に位置している。
中学1年生から「薬剤師」が上位5に入り、高校3年生も7番目(1.2%)に位置している。「教員」は、中学3年生からランクインしている。男子と同様、「小学校教員」など特定の学校段階の教員も合わせると希望者は増加するが、女子特有の職業希望として、「幼稚園教員」が全学年の上位20に入り続けている。
高校3年生で4番目に位置した「栄養士」は、中学3年生から上位20に入り、学年が上がるにつれ希望者割合が増加している。
女子の希望職業は「現実的」
こうしてみると、小学生の頃から希望する職業はジェンダー化されていることがよくわかる。私たちは周囲の人々や環境からジェンダー・メッセージを浴び続け、成長していく。そのプロセスの中で、将来の夢や職業も性別に応じた方向づけがなされている可能性は高い。
あくまでも筆者の仮説だが、女子が男子のランキングに入っている職業を希望した場合(共通職業は除く)、否定はされないにしろ男子と同じように奨励されないだろうし、反対に男子が女子のランキング職業を希望した場合は否定されるかもしれない*1。
余談だが、筆者がこのランキングをみたとき、男子と比較して女子の希望職業が「現実的」であることが気にかかった。
男子の方が夢を大きくもつことを周囲から奨励されやすいのか、女子が「現実的」に考えることを周囲から奨励されやすいのかは定かではないが、幼い頃から自分の「身の丈」に応じることが求められる女子(「身の丈」を超えていくことが求められる男子)の結果をあらわしている、というのは考えすぎだろうか。
学力に関する調査で明らかにされているような女子の自己評価の低さ(男子の自己評価の高さ)は、こうした「身の丈」に関するコミュニケーションも影響しているのかもしれない。
短大・専門学校が「合理的」となってしまう
高校生の進路選択において男子より女子の方が資格取得を重視していたが、それは女子が資格や免許を必要とする職業を希望しているからだろう。
そして、小学校から上位にランクインする希望職業がおおよそ安定しているということは、小さい頃からその職業へ就くことを想定しながら進路をイメージしてきたと考えられる。
実際、高校生の進路選択において、「将来の職業」は重要な検討事項となっている。
ここに、女子が短大や専門学校へ誘われるポイントがある。なぜなら、女子の希望職業ランキングで不動の地位にある「看護師」「保育士」へ就くことは、短大や専門学校へ進学しても実現できるからである(「栄養士」や「幼稚園教員」も同様)。
2018年度の指定保育士養成施設の入学者数は、大学が1万8354名、短大が2万1567名、専門学校が6274名となっており、半数近くが短大へ進学している*2。
看護師養成は年数や設置主体が複数あるため参考数値になるが、日本看護協会によると、2023年度の看護師3年課程養成所の一学年定員は、大学が2万6245名、短期大学が970名、養成所全体(2万6811名)のうち、全日制高校2万6611名、専修学校2万6661名(重複あり)となっており、大学へ進学せずとも看護師になる道が複数開かれている。
先にみたように、高卒家庭の高校生は「将来なりたい職業」があってはじめて大学進学を検討し、その保護者も「資格取得」や「将来の仕事とのつながり」を重視する。
もし、高卒家庭の女子高校生が看護師や保育士を目指すのであれば、大学進学よりも早く「なりたい職業」へ就くことができる上、大学進学するよりも数年早く収入を得ることが明確である専門学校や短大への進学は、決して不自然ではない(私的内部収益率の観点からも「合理的」)。
高校の進路指導も同様である。
長年、その地域の保育士や看護師を養成し、地元へ多数輩出してきた「実績」があり、そうした信頼が地元に根付いていた短大や専門学校であれば*3、保育士や看護師を志望する高校生に対して、教師や保護者が短大や専門学校をすすめることは不合理ではない。
だから現状の進路形成で問題はない、と言いたいわけではない。女子高校生の進路を目にみえる形で制限する保護者や教師の不合理は、確かに存在する*4。
大学へ行くことを直接妨げられる経験は、男子よりも女子に多いだろう。ただ、こうしたエピソードに代表されるような、いわば「呪い」や「足枷」といった非常にわかりやすい事例ばかりではないところに、進路とジェンダーの難しさはあるように思われる。
脚注
*1 女子が「医師」を希望しているのに周囲から「看護師」を代替案としてすすめられるより、男子が「看護師」を希望しているのに周囲から「医師」を代替案としてすすめられる方が多いように思われる。
*2 厚生労働省「保育の現場・職業の魅力向上検討会」第5回の参考資料1「保育士の現状と主な取組」より。3年間の入学者数が報告されているが、短期大学は2016年度2万3883名、2017年度2万2397名、大学は1万7782名、1万7716名、専門学校は5720名、6083名であった。日下田岳史(『女性の大学進学拡大と機会格差』東信堂、2020年)は、短大全体の進学者数は減少しているが、教育系学科は短大離れを経験していないこと、経済的にゆとりがない層の受け皿になっていることを指摘している。
*3 特に「地方」は、大学そのものが少ないため、看護師や保育士の養成を担う主な機関が専門学校や短大であることも多いだろう。
*4 「『女子は浪人耐えられない』?進路指導、校長の言葉に口挟めず」朝日新聞、2024年4月24日。
なぜ「地方女子」は呪縛になるのか
寺町 晋哉
大学進学において、生まれ育った地域、性別、通っている高校、保護者の学歴など、特に多くの壁=社会的諸条件を乗り越えなければならないのが「地方女子」。
個人の努力や意志の問題に矮小化すると、「壁を乗り越えられないのは自己責任」という重荷を子どもたちに背負わせかねず、「地方女子」を呪縛にしてしまう。
選択の背景にある「当たり前」はどのようにつくられているのか──。
本書では「地方女子」の置かれた現状を教育、制度、経済、社会意識、ジェンダーなど多角的な視点から分析し問う。
【目次】
序章 「地方女子」は「呪縛」なのか?
第1章 「地方」からみた大学進学
第2章 どのように”女の子”になるのか
第3章 理系から遠ざけられる女子たち
第4章 女子はなぜ四年制大学へ進学しにくいのか?
終章 「地方女子」を呪縛にしないために
あとがき

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