オランウータンのぬいぐるみを連れて歩く生後6か月の子ザルのパンチくん。その姿がSNSで投稿されると瞬く間に話題となり、今や日本のみならず海外のメディアでもその日常が報じられているほどだ。
大人気のパンチくん「先週末は約8000人の方が園を訪れてくれました」
記者が市川市動植物園に取材に行ったのは午後2時過ぎ。この日は平日だったにもかかわらず園内は多くの人で賑わっていた。
特にパンチくんのいるサル山は周囲に人垣ができるほどの盛況ぶりだ。これほど話題になった現状について、市川市動植物園の安永崇課長はこう語る。
「先週末は約8000人の方が園を訪れてくれました。市川市動植物園は今年40周年を迎えますが、その歴史の中でもここまで話題になったというのは初めてのことかと思います。
古くてローカルな動物園ですがスタッフはみな優しく親切ですし、市川市が誇る自慢の動物園なんですよね。これを機会に知っていただけたら嬉しいです」
パンチくんは昨年の7月26日に生まれた。名前は『ルパン三世』でお馴染みの漫画家、モンキー・パンチにちなんで名づけられたという。安永課長が解説する。
「パンチの母親は夏の酷暑の中の初産で体力が低下していたということもあり、育児に興味を示さず育児放棄になってしまったんです。
ただ、これはサルの社会で一定の割合で起こることで特別珍しいことではありません。そのためパンチは飼育員による人工哺育で育っています。
それこそ飼育員が毎朝早く出勤しミルクを与え、昼間は通常業務をこなし夜は残業してまたミルクを与えます。パンチのことを心配して愛情を注ぎ、1月19日にサル山に『群れ入れ』させています。
今パンチはじょじょに他のサルたちと打ち解けようとしていますが、威嚇されたり何かあるとオランママ(オランウータンのぬいぐるみ)に駆け寄って抱きしめていますね」
「パンチはオランママと一緒に寝ています」
パンチくんがサル山で一緒に過ごしているオランウータンのぬいぐるみは「オランママ」や「オラン母」の愛称で呼ばれている。ニホンザル担当の飼育員の宮腰峻平さんが語る。
「生まれたばかりのニホンザルは本来母ザルにしがみつくことで安心感を得たり、筋力をつけたりするので、そのために筒状のタオルやぬいぐるみを渡しました。
まだ小さかったですし、オランウータンのぬいぐるみの形を認識してすごく気に入ったというわけではなく、渡したものの中で毛が長くつかみやすかったのだと思います」
園内に飾られていたオランママをパンチくんに与えたのは生後3日ほど経ったころだったという。当初は形を認識できていなかったとのことだが、今はどうなのだろうか。宮腰さんが続ける。
「サルの中でも『この子は近づいても大丈夫』『この子は自分に対して怒ってくる』というのを見分けていますし、今は形も見分けて認識していると思います。ぬいぐるみはパンチにとって心のよりどころのようになっていると思います。
だからこそ、不安なことがあると必ずぬいぐるみのところに行って気持ちを落ち着かせてまた群れに向かっていきます。
パンチくんの実の母親はその後どうしているのだろうか。
「パンチの母親も今は群れに戻り同じサル山にいます。本来は子どもを抱っこしたり授乳したりすることによって母親の意識を持つのだと思いますが、人工哺育によって離れていた期間が長かったため、自分の子どもという認識はなくなってしまったようです。そのため同じ群れにはいるのですがあまり関わろうとはしないんです」
「パンチが必要としなくなればオランママは取ろうと思っています」
パンチくんは群れの中で怒られたり厳しくされたりしながら色々学んでいる最中だという。パンチくんの性格について尋ねると宮腰さんはこう語った。
「天真爛漫でメンタルが強いサルかなと思います。怒られてもケロッとしてまた向かっていきますし、そういう意味では切り替えも早いですね」
まるで我が子の様子を語る父親のようだ。やっぱり可愛いですか?と記者が尋ねると、宮腰さんは「正直可愛いです」と笑みをこぼした。
パンチくんが小さな体でオランママを連れて歩く姿がSNSをはじめ世界中で話題になっているが、パンチくんが成長することでオランママから卒業する日は来るのだろうか。
「パンチが必要としなくなればオランママは取ろうと思っています。パンチがオランママを必要とせず1人になれた時、それは本当に成長した証なので、飼育員からすれば早くそうなってほしいって思います。
同様の質問は来園する人たちからも多く寄せられるという。前出の安永課長が続ける。
「最初はサル山のみんながパンチのことを『変なものを持っているのがいる』と警戒していました。ですが今はパンチに毛づくろいしてくれるサルが現れたりして、じょじょに群れになじみはじめている段階です。
いずれ完全に群れの一員となった時には、おそらくオランママが必要なくなるのかもしれません。飼育員に対しても親のように思っているでしょうが、それもいずれは親離れというか飼育員離れをしなくてはなりません。
そのタイミングは誰にもわかりません。ただ、それまでの間は群れの最年少で一番小さいかわいいパンチとして、みんなにちょっとの癒しと幸せな気持ちを分けてくれたら、そんな風に思っています」
多くの人に見守られる中、パンチくんは今日もオランママとともに群れの一員になろうと奮闘している。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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