推し活は心身を動かす。プロ野球の阪神ファンは試合観戦でストレスホルモンの値が下がったという報告がある。
新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』より一部抜粋・再構成してお届けする。
阪神ファンは試合を観れば「ストレス」が減る?
熱き阪神ファンは、試合観戦によって「ストレス」を軽減させている可能性もある。そんな研究結果を発表したのが、福島県立医科大学の大平哲也教授です。
2012年発表の大平教授らの論文では、阪神ファン28人が「(現地ではなく)テレビで」タイガースの試合を観戦する際、彼らの唾液中のコルチゾールを、観戦の前後で測定したそうです。コルチゾールは、ストレスを受けると分泌が増えることから「ストレスホルモン」とも呼ばれています。
すると、阪神ファンのコルチゾール値は、試合観戦前に比べ、観戦後に有意に低下したとのこと。つまり彼らは、テレビでタイガースの試合を観ただけで、なんらかのストレスが減ったことになります(※大平ほか、(2012)、「野球観覧が血圧、心拍数および唾液中コルチゾール値に及ぼす影響」、「精神医学」54巻10号、pp.1011-1021)。
また2021年、同じく大平教授が「東洋経済オンライン」(1月26日掲載)で明らかにした実験は、「阪神タイガースの野球観戦で、阪神ファンの血圧はどれくらい上がるか」という内容。このときの調査対象は、低血圧のシニア女性(65歳)で、彼女の最高血圧は(試合開始時には)110㎜Hgだったとのこと。
ところが、プレーボールと共に150㎜Hg近くまで上がり、タイガースの選手がホームランを打つと184㎜Hgにまで上昇、そのあと200㎜Hgを超えたといいます。一般に「血圧の正常値」とされるのは、125/75㎜Hg未満(家庭血圧の場合/診察室血圧では130/80㎜Hg未満)。
じつは大平教授、大阪府立健康科学センター在籍時代にも、「阪神ファンと他球団のファンの腕に自動血圧計を巻き、テレビでひいきのチームを応援してもらう」実験(2003年)を行なっています。このときは試合開始後、阪神ファン17人中8人で「やや興奮状態」の値が計測された一方で、他球団ファンでは同レベルが7人中ゼロと、みな冷静だったそうです(※「SHIKOKU NEWS」四国新聞社/2003年8月20日掲載)。
推しのライブなどを観に行くと「気分がアガる」ことも多いですよね。阪神ファンは他球団のファンに比べ、まさに「アガる」状態を体験しやすいことが、血圧の計測からもわかります。度が過ぎると健康を害する恐れもありますが、適度な興奮は、健康的な身体の実現や、精神的な幸福感にも繋がりやすいことでしょう。
阪神優勝で認知症の症状が改善!?
そして2025年3月には、驚きの新聞記事が掲載されました。
タイトルは、「『推し活』がつくる幸福感 阪神優勝で認知症患者の症状改善、プラス感情でストレス耐性か」。
つまり、阪神の優勝で、認知症の患者さんの症状が改善されたというのです。
研究結果を公表したのは、大阪府枚方市にある脳神経内科「はつたクリニック」の院長・初田裕幸氏です。彼は、自身のクリニックの「物忘れ外来」に通院する男女855人を対象に、プロスポーツの勝敗と認知症症状の関係性を調査しました。
調査期間は2023年、阪神タイガースがリーグ優勝を決めた翌日(同9月15日)から年末にかけてです。この間、いわゆる公式戦は15試合しかありませんでしたが、日本シリーズでの勝利のほか、とくに関西地方では、「優勝記念パレード」(同11月23日。
すると、なんと! このタイガース優勝後の期間は、同年のセ・リーグ開幕前と比べ、阪神を応援する軽度認知症患者さんたちのあいだで、「攻撃的暴言」や「昼夜逆転」などの症状を示すスコアが改善したとのこと。一方、そもそもスポーツ観戦しない人や、ひいきのチームがない人では、数値に変化がないか悪化傾向だったそうです。
こうした傾向について、初田氏は「ひいきのチームの勝利によってプラスの感情が積み重なり、ほかのストレスに強くなったのではないか」と推察。各種統計などから、阪神の優勝が、国内で約1万6000人の軽度認知症患者に「良い影響」を与えたと推定することもできる、としています。
また、攻撃的暴言の減少については、本人だけでなく同居家族など周囲の人たちへの影響も大きいと指摘(産経新聞/3月29日掲載)。確かに近年、暴言は「DV(Domestic Violence)」の一種とも言われ、家族を含めた周囲にとってダメージが大きいとされています。
そんな中、タイガースの勝利によって本人がプラス感情に満たされ、さらに周りの方々への攻撃など悪影響まで減ったとなれば、その社会的影響は予想以上に大きいものだと言えるでしょう。
文/牛窪恵
『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)
牛窪恵
【野球でなく「幸せ」に関する本です!】
★「おひとりさま」「草食系」など数々の流行語を世に広め、「ホンマでっか!?TV」ほかテレビのコメンテーターでもおなじみのマーケッター・牛窪恵さん。大学教授でMBAホルダーでもある著者が、推し活と行動経済学などの研究を経て導き出した「Well-being(幸福感)」に繋がるキーワード、それが「阪神ファンと熱狂」でした。
★みずからも熱狂的な阪神ファンで、毎年40試合前後を球場で観戦する著者だからこそ気づいた、彼らの体感的リアリティと行動心理の意外な関係。
★本書ではそうした実践的ヒントを、著名なマーケティング理論や女性ファン(TORACO)約3000人への調査・取材を通して独自分析し、わかりやすく展開します。
【効果と法則はこんなこと!】
■報酬の予測誤差=「ダメな子ほど可愛い」が喜びをもたらす
■プラシーボ効果=前向きな「思い込み」こそが幸運を呼ぶ
■ファンベース効果=「熱狂」こそが幸福度を高める
■サンクコスト効果=「今後も私(僕)がいなきゃ」が愛着を生む
■幸せの損益分岐点=「小さな幸せ」の積み重ねが、幸福度を高める
■PERMAモデル=「没頭」こそが、幸福持続の源泉に

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