なぜ阪神ファンの9割が推しタオルを持つのか?  推しタオルが生む「シンクロニシティ」の正体
なぜ阪神ファンの9割が推しタオルを持つのか? 推しタオルが生む「シンクロニシティ」の正体

甲子園球場の一塁側やライトスタンドで、やたら目につく「推しタオル」。阪神ファンの女性(TORACO)約3000人への調査では、約9割が「所持している」と回答した。

なぜプロ野球の選手タオルは人を引き寄せ、見知らぬファン同士の会話まで生むのか。行動経済学で読み解く。

新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』より一部抜粋・再構成してお届けする。

推し選手のタオルが呼び込む「シンクロニシティ」

ホームである甲子園球場での試合の際、一塁側やライトスタンドの客席がテレビ画面に映し出されたとき。「タオルを掲げているファンが、ずいぶん多いな」と感じたことはありませんか?

新刊『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』で行なった、阪神ファンの女性(TORACO)約3000人へのアンケート調査でも、およそ9割が「(推し)タオルを持っている」と答えました。本アンケートは、無償で有志の方々がご協力くださったので、もともと熱心なファンが多いとは思いますが……。それにしても、9割は相当高い割合ですよね!

またタイガースの場合、推しタオルのバリエーションが多いことでも知られています。選手の名前や写真入りの王道モノのほか、各選手の決め台詞、たとえば2025年に「50試合連続無失点」の日本新記録を作った石井大智投手の「勝ちマッスル」(筋トレが趣味)や、2026年から横浜DeNAベイスターズでプレーするデュプランティエ投手の「ぼちぼちいこか」(彼が覚えた関西弁)など、その種類は枚挙にいとまがありません。

球場でタオルを掲げたり、推し選手のユニフォームを着たりしていると、何が起こるか。黙っていても、周りの見ず知らずの人々に「自分の推しは◯◯だ」と伝わりますよね。それこそが、自己開示効果です。

また、自分の嗜好や属性、経験などを相手に伝えると、それを知った人の多くが「自分も何かを伝えよう」と考えやすくなります。これが返報性の原理と呼ばれる概念で、人は相手から何かを受け取ると、自分もお返しをしなければという気持ちになりやすい。

だからこそ、自己開示した人とされた人との間で、心の絆が深まる、とされています(※『影響力の武器』ロバート・チャルディーニ/誠信書房)。

たとえば、私のように取材を仕事とするような人々や、私の母のように、人の悩みに寄り添うカウンセラーなどは、相手との対話をスムーズに展開しようと、よく「自分の弱みや恥ずかしい体験」を話します。

そうすることで、相手に「この人になら、自分を開示しても大丈夫」だと胸襟を開かせ、信頼関係も築きやすくなるからです。

甲子園球場で同じ推しのファン同士がLINE交換

さらに自己開示効果は、返報性の原理以外にも、ほかとの「合わせ技」が効く手法でもある。たとえば、もし相手が開示した嗜好や属性と、自身のそれが同じなら、「偶然(同じ)ですね!」と明かすことで、まるで「意味ある偶然の一致=シンクロニシティ」、すなわち「運命」かのように感じさせることもできるわけです。

実際に私も、甲子園で目撃しました。タイガースの中野拓夢選手のタオルを掲げて一人で応援しに来ていた女性(おそらく大学生)が途中、何かの目的で席を離れた。その数分後、中野選手は痛烈な二塁打を放ちました。

女性が戻ってくると、まず周りにいた阪神ファンのミドル男女が、「(いい瞬間が見られず)かわいそうに~」と同情し、スマホで野球中継の振り返り動画などを見せていました。

すると、斜め後ろに座っていた若い男性が、その盛り上がりに気づき、「偶然ですね!」と自身も中野選手のタオルを掲げ、同じように決定的シーンを見逃した(売店に行っていた)ことを明かしました。すぐに女性は笑顔になり、LINEのアカウントを交換したようでした。

その後、二人がどうなったかは知りません。ですが、彼女が中野選手のタオルを掲げていなければ、こうした交流は発生しなかったでしょう。

そうした自己開示によって人脈を形成しやすくなることは、企業研修や異業種交流会などでも知られ、各々が胸に付けるネームタグに「出身地」や「趣味」、「好きな食べ物」などを併記するだけで、初対面の会話が充実し距離感が縮まる、ともいわれています。

また、もしあなたが誰かの上司なら、「私(僕)も昔は、こんなことをやっちゃって~」など自身の過去の失敗や経験を「開示」することで、部下も積極的に意見を言いやすい環境がつくられていく。そのことが、いわゆる「心理的安全性」の確保にも繋がる、とされているのです。皆さんも人脈形成や組織づくりの場などで、ぜひ活用してみてくださいね。

文/牛窪恵

『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファンを知りましょう マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)

牛窪恵
なぜ阪神ファンの9割が推しタオルを持つのか?  推しタオルが生む「シンクロニシティ」の正体
『「幸福感」に満たされたいなら阪神ファン マーケッターが気づいた「効果と法則」』(集英社)
2026年3月5日1,760円(税込)224ページISBN: 978-4-08-790234-1

【野球でなく「幸せ」に関する本です!】
★「おひとりさま」「草食系」など数々の流行語を世に広め、「ホンマでっか!?TV」ほかテレビのコメンテーターでもおなじみのマーケッター・牛窪恵さん。大学教授でMBAホルダーでもある著者が、推し活と行動経済学などの研究を経て導き出した「Well-being(幸福感)」に繋がるキーワード、それが「阪神ファンと熱狂」でした。
★みずからも熱狂的な阪神ファンで、毎年40試合前後を球場で観戦する著者だからこそ気づいた、彼らの体感的リアリティと行動心理の意外な関係。本書を読むことで、阪神ファン自身も気づいていない「幸福感」に繋がるヒントが、数多く得られるはずです。
★本書ではそうした実践的ヒントを、著名なマーケティング理論や女性ファン(TORACO)約3000人への調査・取材を通して独自分析し、わかりやすく展開します。

【効果と法則はこんなこと!】
■報酬の予測誤差=「ダメな子ほど可愛い」が喜びをもたらす
■プラシーボ効果=前向きな「思い込み」こそが幸運を呼ぶ
■ファンベース効果=「熱狂」こそが幸福度を高める
■サンクコスト効果=「今後も私(僕)がいなきゃ」が愛着を生む
■幸せの損益分岐点=「小さな幸せ」の積み重ねが、幸福度を高める
■PERMAモデル=「没頭」こそが、幸福持続の源泉に

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