「違う。逆。保育士の給与を上げるんだ」待機児童数全国ワーストの大津「幼稚園教員“賃下げ”で炎上」市の狙いは人材流動化も…現場は離職危機
「違う。逆。保育士の給与を上げるんだ」待機児童数全国ワーストの大津「幼稚園教員“賃下げ”で炎上」市の狙いは人材流動化も…現場は離職危機

2月19日、大津市議会で市立幼稚園教員の給与を保育士水準に合わせて見直す条例改正案が提案されたと毎日新聞が報じた。可決されれば2026年度から施行され、約400人の幼稚園教員は賃下げとなる可能性がある。

同日、元教員らの「就学前教育を守る会」は賃下げ回避と働き続けられる環境整備を求め、請願を提出したという。

2年連続で待機児童数が全国最多となっている大津市で幼稚園教員の「賃下げ」騒動はなぜ起きたのか。

「不当な賃下げ」か「必要な制度調整」か

「違う。逆だよ。保育士の給与を上げるんだよ」

大津市の幼稚園教員の給与見直しをめぐりSNS上でこうした批判の声が上がっている。

問題は、「幼稚園教員の賃下げ」という見出しに強い反感が出た一方で、行政の説明は「幼稚園・保育所等をまたぐ配置や採用の一体化に合わせ、給与体系(給料表)を統一する」という制度設計にあり、そのズレが炎上の核にある。

大津市議会の資料では、来年度の新規採用者から公立の保育士と幼稚園教員を統合した「教育保育職制度」を導入し、目的を「保育所等待機児童数が2年連続で全国最多となっている状況の改善」「幼稚園・保育園間の人材交流の促進」と明記している。

つまり、今回の条例改正案は幼稚園側に余力が出やすい局面で、保育の人手不足へ人材を振り向けるための議案となる。

一方で、同議会資料では「制度変更により幼稚園教員の処遇が低下することはモチベーションを損ない、生活基盤の不安定化を招くおそれ」とし、教職員組合アンケートで「約2割が離職、または離職を検討」といった懸念も示されている。目的は人材流動化のはずが、入口で損が見える設計だと、流動化の前提が崩れる。

大津市の保育士の初任給は大卒・短大卒で同水準(約22万円)で、幼稚園教諭とは最大2万円近い差があり、幼保一括採用で保育士側に合わせると「大卒者は1万円近い減額」になり得るという。

さらに「新卒者だけでなく現在働く教職員も対象になり得る」とされ、これが現場の不安と反発を増幅させている。

ただし、今回の条例改正案は主として公立(地方公務員)の職種・給与表の整理という側面が強い。

幼稚園教諭が教育公務員的な給与体系であるのに対して、保育士は一般職の給与表に近い運用が多い。異動可能な採用・配置に寄せるなら、給与表の統一は行政実務としては合理性がある。

「保育園落ちた日本死ね」からちょうど10年

大阪府内で認定こども園を経営する60代の理事長は大津市の条例改正案に理解を示しつつも、自治体レベルではない給与の賃上げなどが必要だという。

「実際、以前から幼稚園と保育園の一体運用や給与制度の統一を進めてきた自治体はあります。今回の大津市の問題は『統一すること』自体より、『統一のやり方』、既存の教職員が不利益となり得る変更や丁寧な説明が必要だと思います。

2016年2月に『保育園落ちた日本死ね』という投稿が話題になってちょうど10年経ちますが、待機児童の数は全国で8年連続減少し、昨年は過去最少を更新しました。ですが、大津市は全国で最も待機児童数が多く、それ故に注目が集まりやすい。

そんな状況で、ただでさえ社会全体でも『賃上げ』が叫ばれているのに、『賃下げ』なんて見出しが出ると反発を買うのは当然とも言えます」

大津市の場合、「待機児童」が全国最多であるという前提事情がある。こども家庭庁の全国集計(令和7年4月1日)では、全国の待機児童は2,254人まで減り、100人以上の自治体は1市だけとされる。

「令和7年4月1日の待機児童数は132人」と市が公表していることから、その“1市”が大津市であることがわかる。つまり日本全体では待機児童が縮小しているのに、大津市は突出して解消が難航していて、柔軟な人員配置がなければ、現場が回りにくい状況である。

大津市は市の公式ホームページで「市立幼稚園・認定こども園一覧」を公開している。

幼保一元化が“これから初めて起きる”というより、形態は混在しつつも、待機児童の深刻化に合わせて「採用と配置をより横断的に行なう」という方針が高まっていると言える。

大津市が直面するのは、全国でも例外的に多くの待機児童数(132人)がいるという現実であり、人材の確保・配置転換・多施設展開を同時に進めないと解けない構造問題でもある。だからこそ、今回提案のあった幼稚園教員と保育士の人材交流という制度そのものは理解され得る一方、現場の教職員の「賃下げ」という状況になると、現場離れや志望者減を招き、本来の目的を損なう危険性がある。

自治体側に求められるのは、

・今いる職員の給与や待遇が急に悪くならないよう、段階的に移行する、不利益を抑える仕組みにする。
・業務の重さや責任の違いをふまえて、必要に応じて手当などの処遇を調整できる制度にする。
・賃金の話だけでなく、配置人数や担当業務、仕事量の見直しも含めて「負担と処遇のつり合い」を説明する。
・待機児童をいつまでにどれだけ減らすのか、数値目標とスケジュールを示す。

といったことだろう。

大津市は待機児童の状況が全国的にも目立つため、制度変更は注目されやすい。だからこそ、職務統合に伴う制度再設計であることを丁寧に示すと同時に、現場が不利益を受けない制度設計にすることが重要だ。

それこそが待機児童の解消と保育・教育の質の維持への近道になる。

取材・文/集英社オンライン編集部

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