東京・青梅の名店「Ramen FeeL」が、2月28日でその歴史に幕を下ろす。「食べログ」では3.96点と東京のラーメン店で堂々の第5位(2026年2月1日時点)、『TRYラーメン大賞』の名店部門でも常連の名店だ。
「ラーメンは、もっと自由でいい」
コース仕立てのラーメンの誕生
「いやいや、驚きましたって言われますけど……実は、1年半くらい前から決めてはいたんです」
穏やかな口調でそう切り出した渡邊さん。34歳、開業から丸5年。数々の賞賛を受け、全国からお客さんが訪れる人気店へと成長した。それでも彼の中では、次のステージへの構想が静かに熟していた。
「そもそも、独立する前から思っていたんですよ。いつかは料理をもっとちゃんと勉強したい、いろんな調理技術を身につけたいって。ラーメンに限らず、です」(渡邊さん、以下同)
渡邊さんは神奈川・湯河原の名店「飯田商店」で修業を積んだ。ラーメン界の頂点ともいえる環境で身につけた基準は、彼にとっての“スタンダード”になったという。
「僕にとっての基準は『飯田商店』なんです。その状態で業界を見ると、やっぱり思うことがある」
独立後、青梅のイタリアンでアルバイトをした経験が大きかった。そこで目にしたのは、皿やカトラリーを温める所作、肉を最高の状態で提供するための火入れ、複数の料理を同時進行で仕上げる高度なオペレーション。
「ラーメンは効率のいいオペレーションで作る料理です。でもレストランは違う。言い訳のない状態で出すための仕事量がとんでもない。ああ、まだ自分は知らないことだらけだなって思ったんです」
ラーメン一杯に全てを詰め込もうとすると、食材のポテンシャルを十分に発揮できない場面もある。生産者が最も喜ぶ形で提供するには、構造そのものを変える必要があるのではないか――。
その問いから、コース仕立てのラーメンという試みが生まれた。焼き鳥職人と組み、鶏出汁のかけそばに最高の状態で焼き上げたもも肉を添える。お店限定で提供した時のその体験を「最高に幸せだった」と振り返る。
「コースにした瞬間にそのラーメンは“一杯いくら”の話じゃなくなるんですよ。全体で食体験を設計できる。ラーメンって、もっと自由でいいはずなんです」
彼の視線は、いわゆる“ファインダイニング”の領域に向いている。ミシュラン級のレストランが持つ洗練度を、ラーメンというフィルターを通して表現できないか。
「ラーメンはまだまだ次のレベルに行けると思うんです。今までアメーバみたいにうごめいてきた歴史の中にプツっと穴を開けて、真っ白な領域に行きたい」
「回転寿司と高級寿司は違う」
大衆とは違う新次元のラーメンを
そのためには、自身がもっと料理人として成長しなければならない。チームを率い、若い料理人が「ここで働きたい」と思える土壌を作るには、学びの幅が必要だ。
「意識の高い子たちは、専門学校を出てもラーメン屋を選ばない。それは学べる枠が限られていると思われているからです。そこを変えたい」
海外展開も視野に入れるが、それは「目的ではなく手段」と強調する。ドイツやポーランドでの仕事を予定しつつ、ニューヨークのレストランで働いて経験を積みながらポップアップやラーメンのコンサルも行なうという。
「海外でカルチャーを作ってから、日本に逆輸入する形もある。日本は古くからの文化が強いので、まだ柔軟な海外で先に根付かせた方が良いかもしれないからです。でも最終的にやりたいのは、ラーメンで新しい価値観を作ることです」
ニューヨークで見た光景も印象的だった。巨大な丼を前に、会話を楽しむ客たち。次第に麺が伸びていく様子を見て、ラーメンのポーションを小さくするなど複数の選択肢を作り、ドリンクと組み合わせる体験設計を思いついた。
「ラーメンも他の料理のように、もっと長い時間で楽しめる料理にできるんじゃないかって思うんです」
ラーメンの二極化についても、独自の視点を語る。
「大衆のラーメンを否定したいわけじゃない。でも、僕らがもう一歩先に行かないと、どんなラーメンもずっと同じカテゴリーの中で比べられ続ける。そうではなくて、カテゴリーを分けるところからじゃないかなと思います。もう誰も回転寿司と高級寿司は比べないじゃないですか」
彼は「ラーメンに与えたい」と言う。
「ラーメンって、超ギバー(与える人)なんですよ。ずっと人を支えてきた。だから僕はラーメンに『ラーメンもこんな風にもなれるんだ』って思ってもらえる存在になりたい」
その言葉に、驕りはない。むしろ、敬意と覚悟がにじむ。
「このまま続けたら、見たい景色は見られない。今動かないと遅いと思ったんです」
師である飯田将太さん(飯田商店)にも真っ先に相談した。「ここに収まる球じゃねえだろ」と背中を押されたという。
「師匠には失礼かもしれない。
ラーメンが世界食になる可能性を信じて
「FeeL」の技術は他の職人に継承しないのか、との問いには「物理的には消えます」ときっぱり答えた。
「でも、言語化はできています。今までも30カ国くらいの研修生に伝えてきた。その人たちの中に少しでもそのエッセンスが残っていればいいなと思います」
ラーメンが世界食になる可能性も、本気で信じている。ピザやハンバーガーのように、土地ごとの表現があっていい。日本の醤油ラーメンは日本で、テキサスにはテキサスのラーメンがあっていい。
壮大なビジョンの裏にあるのは、地道な努力への覚悟だ。
「スキップはない。とにかくやりまくるだけです。今までも5年で8年分ぐらいは働いたと思います(笑)」
渡邊さんの第3章はこれから始まる。青梅で磨き上げた一杯は終わるが、ラーメンとの対話は続くのだ。
2月28日、「Ramen FeeL」の灯が消えるその日も、渡邊大介はきっと未来を見据えている。
取材・文・撮影/井手隊長

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