〈ファミレス「1000円の壁」崩壊〉庶民の味方からハレの日の食事へ…大手3社それぞれの戦略、ロイホ高単価・ガスト転換・サイゼ高回転
〈ファミレス「1000円の壁」崩壊〉庶民の味方からハレの日の食事へ…大手3社それぞれの戦略、ロイホ高単価・ガスト転換・サイゼ高回転

家族連れを主なターゲットに和洋中さまざまなメニューを比較的安価に提供することで一般大衆から愛されてきた「ファミリーレストラン」が、高級路線へと傾いている。日常的に使う店から、“特別な日”や“ハレの日”に家族で足を運ぶ場所へと変化しているのだ。

それは、昭和に登場したファミリーレストランの初期の姿そのものだ。

ロイヤルホストは家族4人の食事で1万円近い出費に

ファミレス最大手の「ガスト」はグループ傘下となった「資さんうどん」への転換を進めて顧客の分散を図り、「ロイヤルホスト」はさらなる単価アップで高級路線を推し進めるなど、各社の戦略の違いが鮮明になってきた。

まず最初に、もともと高価格帯に強みを持っていたロイヤルホストは、2025年に価格改定とグランドメニューの改訂を行い、さらに高価格帯にシフトした。2025年の客数は前年比で0.8%減少した一方、客単価は6.2%も増加。売上は5.4%増だ。

国内外食事業は食材費の高騰が続くものの、価格改定効果が奏功して増益。業績は好調に推移している。客数を犠牲にして高単価で稼ぐ作戦だ。

ロイヤルホストの看板メニューである黒毛和牛と黒豚を使った「黒×黒ハンバーグ」は、250グラムで価格は2068円(税込)。190グラムでも1628円だ。もはやロイヤルホストの1人あたりの単価は2000円を超えることが少なくない。食べ盛りの子供を連れた家族4人の食事で単価は1万円に限りなく近づく。

ロイヤルホストは1971年に福岡県北九州市に1号店をオープンした。

創業者の江頭匡一氏が、本格的なフレンチレストランを大衆向けに広めたいと開業したもの。創業時の理念がそのまま引き継がれ、“特別な日”のごちそうを食べるファミリーレストランとして成長した。

しかし、デフレ下の2008年、2009年、2011年は赤字に陥るなど、高級路線が成長の仇となった。「天丼てんや」のテンコーポレーションを買収し、低価格のブランドと店舗ネットワークを手中に収めたのが2010年だ。

インフレになった今、ロイヤルホストは再びハレの日需要の受け皿となって成長軌道を描いている。

ロイヤルホストとは真逆でデフレ時代に急成長し、現在も値上げをしない「サイゼリヤ」はもはやファミレスというよりは、ファーストフード店といった様相を呈している。

2025年9月から2026年1月までの客数は前年同期間比で17.6%も増加した。その前の年の同じ期間で15.9%も増えていたにも関わらず、さらに伸長している。レストランを高稼働させて稼ぐ姿は、既存のファミリーレストランのビジネスモデルからは大きく外れている。

ガストは『1000円の壁』を超え、資さんうどんへ転換で分散

「ガスト」などを運営する「すかいらーく」グループの1号店は1970年にオープンした。ハンバーグやエビフライ、カキフライを主体としたメニュー構成は、昭和のデパートの食堂のテイストに近い。

昭和40年代の当時、一般大衆向けのレストランは不衛生で味が悪い店が多く、家族で集まって食事をする店は百貨店やホテルのレストランが主体だった。それを郊外のロードサイドにオープンしてヒットさせたのだ。

すかいらーくのメニューに並ぶ料理は、当時の一般家庭では作れないものばかり。それが特別感を生み、ごちそうを食べる場所として定着するようになった。

すかいらーくはバブル崩壊後の1990年代にガストへと大転換し、ファミリーレストラン業界を象徴するブランドとしてトップを走り続けた。しかし、足元でガストは店舗数を減らしている。2026年1月末の店舗数は1230。前年同月は1247だ。17店舗の純減である。2024年も1年で29店舗減らしていた。

ガストの人気メニューである「チーズINハンバーグ」は、店舗によって料金はバラつきがあるものの、上限で824円(税込)である。単品のライスが274円(税込)で、合計額は1098円。外食には1000円の壁が存在すると言われているが、ガストの食事は今やその壁を軽々と乗り越えてしまうのだ。

主要なターゲットはファミリー層だが、最近では博多もつ鍋やまやが監修した「博多明太もつ鍋」をメニューに加えるなど、会社員などの“飲み需要”を狙っている節がある。

高単価化するに合わせ、ターゲットもずらしているのだ。

ガストからの転換や新規出店を重ねて、存在感を高めているのが「資さんうどん」だ。この店のメニューは幅が広く、低単価需要に応えるポテンシャルを持っている。すかいらーくホールディングスの転換施策は奏功しており、2025年12月期は14.1%の増収、36.0%の増益だった。4期連続の2桁増収で勢いがある。

すかいらーくは2極化する外食需要を巧みにとらえているのだ。

家族が夜の食事でファミリーレストランを選ぶ時代に

日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査をもとに、2025年の洋風ファミリーレストランの客単価を調査すると、2019年比でおよそ2割上昇している。2019年の平均単価が850円だったとすると、2025年は1010円を超えるのだ。

ファミレス業界全体で1000円の壁を超えている可能性が高い。

市場調査を行なうマーケティング・リサーチ・サービスの「家族での夜の外食についてのアンケート」によると、小学生以下の子供がいる家族が夜に外食をする頻度は月に1回がボリュームゾーンであり、利用している飲食店はファミリーレストランが70%(複数回答)と高い。回転ずしの68%を上回っている。

かつて、ハレの日の夜の外食は回転ずしや焼肉店が一般的だった。

今やファミリーレストランが選ばれる時代になっているのだ。昭和を彷彿とさせる現象である。

小説家の村上春樹は小説「アフターダーク」において、物語の重要な舞台にファミリーレストランを選んだ。そこでのファミレスは、過度な効率化と平準化を進めたディストピア的な世界として描かれている。主人公の若い女性が一人で深夜に訪れることが象徴するように、様々な人が訪れる場所でもあった。この小説が刊行されたのは2004年。デフレの真っ只中である。

しかし今、ファミレスの姿は大きく異なる。平成のデフレ下で形成されたディストピア的な世界から昭和へと回帰し、家族の笑顔が溢れるハレの日を過ごす舞台となった。

取材・文/不破聡 写真/shutterstock

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