31歳・年収370万円の失恋が歴代最高再生回数に…『ザ・ノンフィクション』なぜ“何も起きない婚活”が114万人の心を動かしたのか
31歳・年収370万円の失恋が歴代最高再生回数に…『ザ・ノンフィクション』なぜ“何も起きない婚活”が114万人の心を動かしたのか

テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。

今回はフジテレビ系ドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で異例の記録を打ち立てた“婚活エピソード”について語る。

年収370万円・31歳介護福祉士のリアルな婚活記録

31歳・男性の失恋に114万人以上がくぎ付けとなった。2月8日に『ザ・ノンフィクション』で放送された「結婚したい彼と彼女の場合~令和の婚活漂流記2026~」後編が、見逃し配信で、報道・ドキュメンタリー部門過去最高となる114万回再生を記録したのだ。

番組の中心にいたのは、年収370万円で介護福祉士として働く久保さん(仮名)という男性だ。恋愛経験はほとんどなく、友達もいないという。だが、真面目で謙虚な人柄で、お見合い相手のことを常に丁重に扱う。結婚相談所のアドバイスにも素直に従い、自分を変えようと必死に努力する。

特に視聴者の心を動かしたのは、久保さんが年収2000万円の40歳女性と仮交際に進んだ場面だった。

デートを重ね、本気で彼女に惚れ込んでいく久保さん。土日勤務に難色を示されると、土日休みの職場へ転職。さらに年収も400万円へと上げ、彼女が望む条件に近づこうと全力で走った。

だが間もなく、仮交際終了の連絡が届く。女性は別の男性とも仮交際を進めており、その相手とはデート1回で真剣交際に進んだという。

その瞬間、いつも温和だった久保さんが初めて感情をあらわにする。「ふざけんなよ!」。そう声を荒らげ、涙を流した。

SNSの一部では女性を責める声もあった。だがルール上、彼女に非は一切ない。仮交際中に複数の相手と会うのは相談所では当然のことだ。久保さんはルールの中で戦い、ルールの中で敗れてしまった、それだけの話である。努力が必ず実るなら、恋に悩む人などいないだろう。

しかし、久保さんの物語はあまりにもリアルで、普通の恋愛・婚活だった。波乱万丈ではない。裏切りもない。悪役もいない。

事件もない。あるのは、日常の中のただのワンシーン。

ではなぜ、この普通の婚活回は歴史的な再生数を叩き出したのか。今、人々が観たいのは「派手な失敗話」でも「成功物語」でもない。「日常をもがく物語」なのかもしれない。

年収200万・48歳漫画家の婚活記録

たとえば、2月26日に発売される『独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記』(著:中川学)は、年収200万円・48歳独身というリアルな条件のもと、本気で婚活に挑む実録コミックエッセイだ。

ハイスペックでも、勝ち組でもない。むしろ“条件的には不利”とされる人間が、自分の孤独と向き合い、婚活という市場に飛び込んでいく。その姿に、多くの読者が引き寄せられてきた。

SNSを開けば、婚活アカウントはあふれている。地獄のデート体験談、ハイスペック自慢、年収マウント、男女の対立。強い言葉、極端な例ほど拡散される。

特異な体験談をさらし合い、インプレッションを競う世界だ。

だが久保さんの物語は、そのどれでもない。高くはない年収の男性が、一般的な価値観を持ち、普通に努力をし、普通にデートをし、そしてフラれる。ただそれだけだ。

もしこれをSNSの投稿として流したなら、おそらくタイムラインの中に埋もれていただろう。本来ならば、誰も拾うことのない体験談。それでも、多くの人が見て、心を動かされた。

なぜなら、これが“テレビ”だったからだ。

『ザ・ノンフィクション』は、一人の人間を追い、時間をかけて物語を積み重ねる。タイパの時代に、“何も起こらない物語”をあえてじっくりと見る体験を提供し続けている。

もちろん、ただ映すだけではない。情報を取捨選択し、編集し、見やすい形にパッケージングする。

テレビにとっては当たり前の工程だが、一般人の密着をこれほど丁寧にできるのは、テレビならではのことだ

SNSで反響を見ると、「TVerで5回は見ました。先程も配信終了直前に見直した」「私は(前後編)それぞれ3回観ました。久保さんに合う方に巡り会えますように願ってます」と何度も繰り返して視聴している人までいるという。

時間をかけて一人の人生を追う構成が、結果として何度も観返される“作品”にまで昇華したことは特筆すべきだ。

文/ライター神山

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