日本で安打を重ねても、メジャーで評価が上がるとは限らない。スカウトが最初に問うのはシンプルに「飛ばせるか」。
カンザスシティ・ロイヤルズの国際スカウト駐日担当を務める大屋博行さんが解説する。新刊『メジャーで通用する選手の条件 スカウトは予言者であれ』より一部抜粋・再構成してお届けする。
メジャーが最初に見るのは「打率」じゃない
バッターを評価するときに、パワーがあるかどうか、さまざまな球種に対応できているか、弱点はどこにあるのか、そして勝負所で結果を残せるかなど、見るべきポイントはいくつもあります。メジャーのスカウトとして、私がどのような視点でバッターを見ているのかをお伝えしていきます。
私はメジャー球団の国際スカウトという立場上、「メジャーで使ってもらえるかどうか」を常に指標として前提に置いて日本の選手を見ています。日本国内で安打を量産しているだけでは、アメリカでの評価はなかなか上がりません。細かいヒットを積み重ねるタイプよりも、メジャーでは長打を打てるかどうかが問われます。
数字としてはホームランがどれだけあるのか、三振がどれくらいあるのか。でも、ホームラン数が飛び抜けて多ければ、三振数がちょっとくらい多くてもメジャーはさほど気にしません。もちろん、三振数が少ないに越したことはないのですが、長打を比較的打てているのであれば大きな問題にはなりません。アメリカでは「飛ばせる能力」を持っているかどうかがまず問われるのです。
打率も高いに越したことはありませんが、単なるアベレージヒッターではメジャーでは生き残ることができません。打率の裏側にある「どれだけホームランを打てているか」「長打を生み出すスイングができているか」という部分が必ず見られます。アメリカでは、ホームランは偶然に打てるものではありません。
手を伸ばしてバットに当てただけで打球が外野席まで届くことはまずありませんし、フルスイングでボールを捉えなければ遠くに運ぶことはできません。つまり、スイングスピードとインパクトの強さ、すなわち“パンチ力”が備わっていることが絶対条件となります。
そうした視点で見ると、阪神タイガースの佐藤輝明選手やシカゴ・ホワイトソックスへの移籍が決まった村上宗隆選手は、アメリカでも通用するパワーヒッター像に近いと感じます。佐藤選手は2024年まではインコースに弱く、空振りが多い傾向にありました。対戦するピッチャーは「インコースに投げておけば大丈夫だ」と思っていたはずです。
大切なのは「体格」ではなく「飛ばせる能力」
しかし、2025年シーズンはその弱点を克服し、インコースでもしっかりバットに当てられるようになりました。彼はもともとパワーがあるので、当たりさえすれば遠くまで飛びます。その“当たる確率”が上がったことで、評価も一段階上がったわけです。
一方の村上選手も、ボールがバットに当たった瞬間の飛び方がパワーヒッターそのものです。スイングの強さや押し込む力、打球の質などのすべてがメジャーの求めるものに近く、やはり「飛ばせる能力」が際立っています。
メジャー球団が最初に注目するのは、こうした“圧倒的な長打力”です。どれだけ対応力があろうと、まず目に留まらなければ話になりません。長打力こそが、メジャーへの最初の扉を開く鍵になるのです。
身体の大きさに関していえば、確かに大きいに越したことはありませんが、メジャーは体格よりも「飛ばせるかどうか」を重視します。身体が小さくても、強烈なスイングとパンチ力があり、ホームランを打てる選手なら必ず興味を示します。ボストン・レッドソックスの吉田正尚選手がまさにその典型です。
彼は決して大柄ではありませんが、コンパクトな身体からは想像できないほどの強い打球を生み出せます。あの“特別な力”があったからこそ、彼はメジャー球団に評価されたのです。
結局のところ、メジャーがバッターに求めているのは「体格」ではなく「飛ばせる能力」「長打力という特別な武器」です。どんなに小柄でも、その一点を備えていれば、メジャーは必ず興味を示してきます。
日本でどれだけヒットを積み重ねても、長打力がなければメジャーの評価にはあまりつながりません。逆に言えば、長打力という明確な武器さえあれば、体格や細かな弱点はあとから修正できます。
文/大屋博行
『メジャーで通用する選手の条件 スカウトは予言者であれ』(竹書房)
大屋博行
国際スカウト歴
日本人最長28年の眼力!
日本人が世界最高峰の舞台で
活躍するためには何が必要なのか?
現在過去にアメリカで結果を残している選手のほか、
日本で活躍中のプロ野球選手や高校球児たちの
具体的なポイントも示しながら、
メジャーを知り尽くした男が徹底解説!
著者は、以下のように述べています。
本書では、28年に及ぶ私のスカウト経験に基づいて、日米の野球文化や育成環境の違い、メジャーではどんなバッターやピッチャーが求められているのか、どんな選手が活躍できるのか等について、お話をしていきたいと思います。さらには過去から現在まで、「あの日本人選手はなぜメジャーで活躍できたのか?」という私見を、現役では大谷翔平選手やダルビッシュ有投手、今永昇太投手、菊池雄星投手、引退した選手では野茂英雄投手やイチロー選手、松井秀喜選手、松坂大輔投手などを例に挙げながら紐解いていきます。また、スカウトとしてピッチャーやバッターを見るポイントや、アメリカで伸びる選手と伸びない選手の違い、いまだから言えるメジャー移籍に関する裏話といった話題まで、長い経験から積み重ねた私なりの考えや分析を述べさせていただくつもりです――本文より

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