〈大津市・賃下げ条例〉「幼稚園の先生の給料を下げながら市長は上がるんです」2年連続待機児童ワースト1位、背景に採用抑制による保育士不足
〈大津市・賃下げ条例〉「幼稚園の先生の給料を下げながら市長は上がるんです」2年連続待機児童ワースト1位、背景に採用抑制による保育士不足

大津市が市立幼稚園教諭の給与をより低い市立保育園の保育士に合わせて引き下げる条例案を市議会に提出した。物価高騰の時代の“賃下げ”が批判を浴びる中、佐藤健司市長は自分の給与の引き上げを求めており、市財政が人件費削減を迫られる状況にないことは明らかだ。

なぜ幼稚園の先生が狙い撃ちされることになったのか。

市人事課は「減った分は補填する」と説明するが…

「幼稚園の先生は『やっぱり私たち大事にされてないのか』って本当に悲しい気持ちになっています。最初は納得できない感情も大きく、市と交渉を重ねて何とか折り合えるところを探そうとしたんですけど全然聞いてもらえない。大津市への期待はもう…。子どもや保護者にはそんな姿は見せられないから一生懸命やってますけど」

そう話すのは大津市教職員組合の松﨑有純書記長だ。

市は賃下げ方針を幼稚園関係の管理職には昨年秋口には伝え、それを聞いた教諭らは再考を求めてきた。だが市は2月19日、原案を変更せず新給与額を示した条例改正案を議会に提出した。

「滋賀県教組の試算では条例が可決されれば幼稚園教員の初任給は4月から現行より⽉額で約1万4000円減り、12年目の人では2万7000円、年額で40万円以上の減収になります」(松﨑氏)

市人事課は「減った分は補填する」と説明するがこれにはカラクリがある。

「25万円から23万円に減らされた人には差額の2万円を補填するという話です。でもその人は新たな給与体系で給与が25万円に達するまで昇給は止まり、それまで3年程度かかります。この期間に失われた昇給分は補填されず、削られる手当もあります」(松﨑氏)

給与改定案は議案提出前、市議会にも2月に入ってからの議案説明まで示されなかった。そこで出された給与表では幼稚園教諭の生涯の受取額がどれくらい減るのかわかりにくいと考えた中川哲也市議が市人事課に問い合わせると、園長や主任に昇格しないまま定年退職を迎える職員の場合、ボーナスや退職金の減額分を除いても「約780万円」減る計算になるとの回答を得たという。

人生設計を左右するほどの賃下げが先生らに降りかかる脇で、佐藤市長は自分の月給を103万2000円から5万円増やすなど、特別職の給与を増額する条例案を提出している。

保育園は大きく定員割れを起こしているが、待機児童は全国最多

今回の議会では同時に「市役所新庁舎整備の財源確保への決意を示す」として市長や三役らの月給を5%カットする条例案も提出されている。しかし、「市長は給与をまず上げ、その中から月給だけ一部カットするためトータルで年間の受取額は増える」(中川市議)仕組みだ。結局、人件費負担を軽減する必要はない中で幼稚園教諭の賃金カットを行なう背景には何があるのか。

大津市では待機児童数が昨年4月時点で132人と2年連続で全国最多となった。市は「この状況を改善するため幼稚園・保育園間の人材交流を促進する」として新年度の新規採用から保育士と幼稚園教員を統合した「教育保育職」を設けた。そして現役の保育士と幼稚園教諭も4月から全員この新職種に移し、低い方の保育士の給与体系を適用するというのが条例案の内容だ。

ではなぜ大津市の待機児童数はこれほど多いのか。

「特に市北部が大阪、京都のベッドタウンとして宅地開発が進み人口が増えています。共働き世代が多いので0歳児から預けられる保育園の人気が高くなる傾向があります」

そう中川市議が解説する通り、大津市立の幼稚園の入園者は年々減り、昨年4月時点で全部で28ある幼稚園の定員が計3321人あるのに対し、在籍している園児は1518人だ。その充足率は45.7%にとどまる。

ところが人気が高い市立保育園も1460人の定員に対し園児は947人しかいない。充足率は65%で、中川市議は全国的にも異様に低いと指摘する。待機児童が多くいるのに保育園が大きく定員割れを起こしている原因は「保育士不足」だ。

「保育士には配置基準があり1人の保育士がみられる子どもは0歳児が3人、1-2歳児で5人(運営費加算適用時。通常は6人)、3歳児で15人と決まっています。小さな子どもを受け入れられるだけの保育士の数が足りないのです」(幼保支援課)

実は大津市は2020年までの越直美前市長時代に待機児童がゼロになったことがあり、近年の急増は佐藤市長の“失策”だと批判する声もSNSで出ている。だがことはそう単純ではない。

「待機児童が多いのは保育士の採用を極端に絞った越市政に原因があると僕は思ってます。保育園の『民営化』を打ち出した越市政は保育士を若干名しか募集しない年までありました。これで保育士が減って足りなくなり、0歳と1歳児を公立保育園が受け入れられないんです。

市立保育園で待遇を改善して配置していれば今の待機児童は全部吸収できたのに、民間保育園を呼んできて補助金で手当てした結果です。子どもは減っていくし、公立保育園の保育士を増やせばずっと雇わなければいけませんが、民間なら撤退してもらうだけ、と考えたのではないでしょうか」(中川市議)

「足りない保育士に幼稚園教諭を充てるが…」

越前市長の後継候補を破って当選した佐藤現市長は批判があった越市政の民間依存は踏襲しなかったが、「保育士の待遇改善をせず、足りない保育士に幼稚園教諭を充てるのが今回の職種統合」と中川市議はみる。

では給与水準を、高い方の幼稚園教諭に合わせる道はないのか。市人事課は、

「大津市と規模が似た他の中核市などで同様に職種を統合した先行例を参考にしました。高い方の給与を適用した自治体もごく少数ありましたが、(低い方に合わせた今回の措置は)一般的で、特別なことではないと思います」と主張する。

松﨑書記長によれば確かに7、8年前には多くの自治体で幼稚園教諭と保育士の職種統合が行なわれ、“賃下げ”も起きていたという。しかし、と松﨑氏は続ける。

「民間の給与も上がらなかった当時、公務員が給与水準で主張することは難しく、代わりに労働条件の改善を求めたのだと思います。でも今回、市は職種一本化を言い出した後、当事者への賃下げの説明は1回だけ。しかも全容はわかりません。

私たちは1月にもPTA組織と一緒に集めた6千筆超の署名を提出し、処遇改善も含めた4月以降の働き方についての話し合いを持ってほしいと求めてきました。でも市は応じないまま条例案を出したのです。こうなった今は大津市は議会で根拠をしっかり示し、議員の人たちにも真摯な議論をしてもらいたいと思います」(松﨑氏)

財政の助けにもならない給料カットを日々子どもたちに向き合う先生に押し付けて、何かいいことがあるのだろうか。                         

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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