夫婦というものは、長く一緒にいるからこそ、小さなすれ違いが積み重なり、気づけば大きな溝になっていることもある。夫にとっても妻にとっても義実家というのはそんなに居心地がいいものではないだろう。
『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』より一部抜粋、再構成してお届けする。なお、プライバシーへの配慮から本文中の名前は全て仮名。
妻の実家を毛嫌いする夫 親と仲が良過ぎる妻
相談に来たのは繁さん(44歳)と貴子さん(43歳)。まず口を開いたのは貴子さんでした。
「夫が私の実家を毛嫌いするのに困っているんです」
夫の繁さんが、貴子さんの実家に寄り付かないんだそうです。
「結婚して15年になりますが、夫が私の両親に会ったのは3回だけです」
確かに、少ないように思えます。
「車で1時間くらいと近いのに、お正月も行きませんし、両親が息子に会いたがっていると言っても一緒に行かないので、私が一人で息子を連れて行っています」
「どうして、貴子さんの実家に行かないんですか?」
私は繁さんにストレートに聞きました。
「行く必要がないからです。妻が言ったように、息子は妻が連れて行けばいいし、正月も妻と息子で行っているので、僕が行く必要はないでしょう」
繁さんはきっぱり言います。
「必要はないかもしれないですけど、毎回聞かれるんです。父から『なんで繁君は来ないんだ?』って。仕事が忙しいって言ってますけど、お正月もずっと行ってないので、そろそろこの言い訳も限界だと思って。
貴子さんはため息をつきます。
「せめてお正月だけでも。日帰りで行ける距離なので、数時間顔を出して一緒におせち食べてくれればいい、って何年もお願いしているんですけど」
繁さんは黙ったままです。ここから先の話は別々に聞いた方がいいだろうと思い、初回でしたが、貴子さんに少し席を外してもらうようお願いしました。繁さんと2人になり、私は改めて尋ねました。
お金や育児の不満が義理の両親に筒抜け
「貴子さんの実家に行きたくない理由、教えて頂いてもいいでしょうか?」
「妻の父親が苦手なんです」
と言い、「これは妻にも言っています」と付け加えました。
繁さんが貴子さんの父親が苦手な理由は、一番はその生き方なんだそう。
「妻の父は働いていないんですよ。遺産の不動産収入があるのと、株である程度稼いでいるので。そういう生き方もあるんでしょうけど、妻が子どもの頃はそれだけでは生活していけなくて、お義母さんが頑張って働いていたそうなんです」
繁さんは「それもありなんでしょうけど」と言った後、
「でも義父は僕に対して『もっと頑張って稼がないとだめじゃないか』と言うんです。働いてない人がですよ? 失礼だと思いませんか?」
と、顔をしかめました。そして続けます。
「妻も『お父さんのあの発言はおかしいと思う』と言ってくれていますが、妻は妻で、お金の事でお義母さんに愚痴を言ってるみたいなんです」
繁さんは一度ため息をつき、さらに続けます。
「お義母さんから『貴子にお金の苦労させないでね』って言われた事があるんです。確かにうちは裕福ではないですけど、妻も働いていますし、苦労なんかさせてません」
「なぜ貴子さんはお母さんにそんな話をするんでしょうか」
私が尋ねると、繁さんは吐き捨てるように言いました。
「確かに、転職する前は貴子よりも僕の方が給料は安かったですけど。でも、貴子は僕の悪口を言いたいんだと思います」
「悪口?」
私の質問に、繁さんは苦笑しながら答えます。
「妻は、僕と夫婦喧嘩になると実家に帰るんです。毎回じゃないですけど。帰らなくてもお義母さんに必ず電話します。内容は聞こえないけど、僕の悪口でしょうね」
それは、嫌だろうと思いました。自分の聞こえない所で妻が実家の両親に自分の悪口を言っている。繁さんが貴子さんの実家に行きたがらない理由の一端が見えました。
「どんな事で喧嘩になるんですか?」
「一番は僕の帰宅時間ですね。転職したばかりで、今、頑張りどころなんですよ。
でも、おかしくないですか? 妻の両親から、もっと働け、もっと稼げって言われているから頑張ってるのに。あと、朝起きない事も文句を言われますね。でも、夜中の2時3時に帰るので、朝6時半に起きろって言われても厳しいですよね」
確かにそれはきついかもしれません。それでは、と私が話を終えようとすると繁さんが口を開きました。
「一番嫌なのは、妻の両親から、結婚して妻の性格が変わった、と言われる事です」
「性格?」
私が尋ねると、繁さんは頷き、
「『うちの娘は結婚前はもっと明るい子だった』とか。『いつも悩んでるみたいで心配だ』とか。『実家に来る時も電話でもいつも泣いている』とか。僕のせいみたいに言われるんです。だから妻の実家に行けばまた色々責められるだろうと思うので、行きたくないんです」
それはきっとそうだろう、と思える理由でした。
「今は育児を手伝えない状態ですか?」
貴子さんのワンオペになってしまっているとしたら、彼女の負担はかなり大きくなっているはずなので、私は確認しました。
「平日は難しいですけど、休みの日は出来る限り子どもと過ごしています。貴子が一人で出かける時間も作っているし。朝も、頑張って起きて子どもの準備を手伝うようにはしています」
ほぼワンオペ育児に対する疑問と不満
次に貴子さんから話を聞きました。
「ご主人が実家に行きたがらない事の他に、困っている事はありますか?」
貴子さんは「あります」と即答し、
「もっと育児を手伝って欲しいです。とにかく毎晩帰りが遅いし、朝も起きてくれないし。私もフルタイムで働いているので、協力してくれないと」
と言いました。繁さんの話の内容と一致します。
「ただ、今転職したばかりで頑張りどころだそうですが」
私が言うと、貴子さんは「分かってます」と言い、続けました。
「でも、夜遅くなるなら朝起きて手伝うとか。仕事も、そんなに遅くなる必要があるのか、私には分からないです。どうしてもって頼んだ時くらい、早く帰って来て欲しいのに、LINEも既読にならない事が多いですし、なっても返事もないですし」
その点は、うまく話し合えていないのかもしれません。
「お休みの日は出来る限り手伝っている、と繁さんは言っていましたが」
「でも、休みの日もなかなか起きなくて、子どもの習い事に遅刻してしまうんです。
手伝ってはくれるけれど、貴子さんが満足できるレベルではない。夫婦間で起こりがちなすれ違いと言えます。
「夫婦喧嘩の後、貴子さんが実家に帰ったり、お母さんに電話するのを、繁さんは気にしているようでしたが」
私が言うと、貴子さんは「それは」と口を開きます。
「夫の顔を見たくなくなったりしますし。それに、誰かに愚痴を聞いて欲しいじゃないですか。だから母に話を聞いてもらうんです。母には昔からなんでも話していましたし」
なるほど。貴子さんとお母さんは心理的距離が近いようです。
「お父さんの繁さんへの発言は、どう思われますか?」
私が尋ねると、貴子さんは言います。
「あれは……父が悪かったと私も思います。ただ、父は少し変わっているというか。サラリーマン経験がないせいか、非常識な所があって。
貴子さんも繁さんの気持ちは考えているようです。頻繁でなくてもいいから、年に1度。貴子さんの気持ちも分からなくはありません。照らし合わせのカウンセリングで、妥協点が見つかるでしょうか。
文/山脇由貴子
『夫婦はなぜ壊れるのか カウンセリングの現場で見た絶望と変化』 (幻冬舎新書)
山脇由貴子
夫への 妻への不平・不満は実はやり直しの鍵
「幸せな家庭」をあきらめない!
病気の妻にから揚げが食べたいと言う夫。なんでも嘘をつく夫。
家事をやらない妻。実家に尽くし過ぎる妻。
夫も妻も、なぜ、みすみす関係を悪化させるような言動をとってしまうのか。
実はそこには夫婦それぞれが育ってきた家庭環境が影響している。
関心を示されなかった、監視が厳しかった、自分だけ愛されなかった……幼少期の満たされなさを、今のパートナーで補おうとするのだ。
こうした背景を理解し合い、歩み寄ろうと思えれば、夫婦は再スタートできる。
長年多くの夫婦に寄り添ってきたカウンセラーによる救済の書

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