「プロがうなる内容ではなかった」粗品の辛口審査はなぜ拡散するのか? 「78点」と「1分45秒」が示す“解像度”の正体
「プロがうなる内容ではなかった」粗品の辛口審査はなぜ拡散するのか? 「78点」と「1分45秒」が示す“解像度”の正体

テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。

今回は、テレビウォッチャーの飲用てれびが、お笑い賞レース『ytv漫才新人賞決定戦』の粗品の審査について語る。

粗品がまたお笑い賞レースの審査員に

今や賞レースでは、ネタだけでなく「審査」もコンテンツだ。とりわけ粗品(霜降り明星)のコメントは、点数以上にSNSで拡散され、議論の火種になる。場合によってはネタよりも話題を集める。

昨年の『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)の終了後、ネット上で目立ったのは、チャンピオンになったニッチェ以上に、粗品の名前と「スカしたらアカンよ」というフレーズだった。

そんな粗品が再び審査員席に座った。関西のお笑い賞レース『ytv漫才新人賞』(読売テレビ)。関西を拠点に活動する芸歴10年目までの新人漫才師を対象にした大会だ。その第15回大会が1日に放送され、粗品は昨年に引き続いて審査員を務めた。

粗品の審査はなぜ話題になるのか。理由のひとつは、やはりコメントの「辛辣さ」にある。時には「おもしろくない」といった言葉が、漫才師に容赦なく叩きつけられる。お笑い賞レースの審査が「優しく」なったと言われて久しいなか、粗品の「辛辣」なスタンスは異彩を放つ。

今回でいえば、生姜猫への評価が象徴的だ。結成3年目のトリオ漫才に対し、この日自身の最低点である78点をつけた粗品は、次のようにコメントした。

「プロがうなるような内容ではなかったかなって正直思いました」

ある意味で、審査員は出場者に立ちはだかる「壁」だ。審査員がどんなに言葉を和らげ、点数を甘くしても、その構造は変わらない。しかし、低い「壁」は挑戦の意味も薄めてしまう。粗品の「辛辣さ」には、乗り越えるべき「壁」としての責任を引き受ける覚悟がにじむ。

一方で、粗品の審査は「詳細さ」でも注目される。改めて生姜猫への講評を振り返ると、粗品はまず、ボケの数が3つと少なすぎる点を挙げている。さらに、1つ目のボケまで1分45秒ほどかかっている点にも言及。加えて、漫才中のワンフレーズを取り上げ、後に続く言葉との関係から日本語としての不自然さを指摘した。

粗品の「詳細」なアドバイスにうなる視聴者たち

「3つ」「1分45秒」といった数字を挙げ、視聴者が聞き流しがちな具体的なフレーズを拾う。細部に踏み込む「詳細」なコメントは、曖昧な印象論に流れがちな他の審査員と比べ、精度の高さが際立つ。

もちろん、「詳細」であることと「的確」であることは必ずしも一致しない。

私たちは具体性を正確さと錯覚しやすい。粗品の「詳細」なコメントはどこまで「的確」なものなのか。その点はお笑いの「プロ」の判断に委ねるしかないが、いずれにせよ、粗品の「詳細」なコメントは、一般の視聴者に「的確」と感じさせる効果をもっている。

粗品の視線と言葉の解像度の高さ。粗品は講評のなかでネタの改善案を示す場合があるが、このような解像度の高さに支えられ、改善案も詳細かつ具体的に示される。

ただの「辛辣」な評価に終わらず、評価対象の漫才師の持ち味を浮き彫りにし、より良くするための提案を添えるバランスも、粗品の審査の特徴だ。ある意味で、メンター的な役割も担っている。

一方で、変化も感じた。今回、粗品の審査コメントは比較的短い。もっとも長かったのが生姜猫に対するコメントで約1分50秒、短かったぎょうぶで約40秒。1分程度のコメントが多かった。言葉もややマイルドになった。

賞レースの主役はあくまでも出場者。『THE W』のような「粗品劇場」になることを避ける意識が働いたのかもしれない。

加えて、個人的に今回印象に残ったのは、賞レースの「環境」への言及だ。たとえば、タチマチに対して、自分は気にならないとは言いつつ、「大喜利千本ノック形式でやると、たとえば漫才としての構成どうやねんみたいに言うてくる方もいる」と指摘。

ボケを大喜利のように羅列する形だと、その点を突いて漫才としての評価を下げる審査員も出てくる、という指摘だ。

粗品自身も“戦い方”を模索中?

つまり粗品は、「君たちのネタは、今の賞レースの環境ではこういった理由で評価を下げられかねない。その点を対策したほうがいい」とアドバイスしているのだ。生姜猫やぎょうぶ、マーメイドやシカノシンプへの講評にもそのような内容が含まれていた。

賞レースの環境を分析し、想定される定型的な批判には対策を講じ、その批判を凌駕する個性を見せつけろ――。そのような粗品流の戦い方の指南がなされていると言ってもいい。

そして、粗品の審査の仕方自体、そのような戦い方の具体化であるように見える。他の審査員はどのようなコメントをしているのか。

そことどう差別化するのか。自分の言葉がSNSでどのように広がるのか。その広がりを自身のYouTubeチャンネルでどうフィードバックするのか。

自身の従来からの思いや主張をより効果的に伝えるために、現在のお笑い賞レースやメディアの環境を読み込んだ上で採用した打ち手が、今の彼の審査スタイルであるように思える。

粗品はその審査スタイルで、自身のコメントが示唆する粗品流の戦い方を実践している。

文/飲用てれび

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