誰もができれば「やさしい上司」でありたいもの。一方でそんな上司像を演じつつ、裏では部下を「使えない」と酷評する二面性のある人もいる。
心理学者の榎本博明氏の書籍『裏表がありすぎる人』より一部を抜粋・再構成し、陰で部下の愚痴をこぼす上司の心理を解き明かす。
部下のミスが多くて困っても理解を示し、陰で愚痴る
やさしい上司だと思っていたのに、陰で自分のことをバカにするようなことを言っているのがわかりショックを受けたという人がいる。
「私は早とちりでミスが多くて、自分でも嫌になることがあるんですけど、上司は『ミスはだれにでもあるから、気にしなくていいよ』などと、いつもやさしい言葉をかけてくれるので、いい上司に当たってよかったって思ってたんです。
でも、つい先日、先輩が『とても見ていられないから、ほんとうのことを言うね。冷静に受け止めてね』って言って、その上司が私のことを『ほんとうに使えないヤツだ。ちょっと甘い顔をすると、反省も改善もせずにのうのうと仕事をしている』っていうふうに酷評してるから、見捨てられないように頑張らないと、って教えてくれたんです。青天の霹靂でした。
言いにくいことを言ってくれた先輩には、心から感謝しています。裏表の使い分けの酷い上司だとわかってよかったです。あんな人をいい上司だと思ってた自分がバカみたいです」
ミスの多い部下に困るのは当然だが、そんなときでさえ「気にしなくていいよ。たいしたことないから」などと理解を示し、行動修正のためのアドバイスをすることなく、いい顔をする。
そして本人のいないところで、「ほんとうに使えないヤツだ」「あそこまでミスの多いヤツは初めてだ」「同じミスばかり、いったいどういうつもりだ」「学習しない、とんでもないバカだ」などと愚痴ったりこき下ろしたりする。
そんな様子を見ている同じ部署の取り巻き連中は、同調しながらも心の中では上司の冷たさを感じている。だが、ミスの多い部下自身は、自分がこき下ろされているとはつゆ知らず、ミスをしても怒らないやさしい上司でよかったと思ったりしている。このような構図が多くの職場でみられる。
向上心が乏しく、自分の行動を振り返らない人物だから、見抜けないのかもしれないが、「気にしなくていいよ」などといった甘い言葉を真に受けて、成長もせず、同じようなミスを繰り返すのでは、明るい将来展望は見えてこない。
部下をそのような状態で放置してしまう上司がいい人のはずがないのだが、自分に甘い人物はその二面性を見抜くことができずに、いい人と思ってしまう。
人当たりがいい反面、突然キレることがある
いい人と思われたい思いが強い人は、いい人を装うためにホンネを無理やり抑えすぎるところがある。その結果、忍耐が限界に達し、突如感情を爆発させてしまうことがある。
そのような同僚の姿を見て、ギョッとしたという人もいる。
「職場の同僚に、いつも穏やかな笑顔で、だれに対しても好意的な言葉を発する人がいるんです。後輩のミスで迷惑を被っても、『だれでもミスはするものだし、私も最初の頃しょっちゅうミスして迷惑かけてたから、気にしないでね』などとやさしい言葉をかける。
新人が当たり前のことをしても『すごいじゃない。
「ところが、あるとき、お手洗いに入ろうとしたとき、その人が『もう、いい加減にしてよ! いつまでもミスばかりして』と怒鳴ってるのが聞こえてきて、慌ててそっとドアを閉めて立ち去りました。
ほんとはできの悪い後輩や新人に相当頭に来てるんだとわかり、それ以来、やさしい言葉をかけているのを見ると、不気味に感じてしまいます」
いい人と思われるために、腹が立っても、文句を言いたくても、それは抑えて、「気にしないで」と笑顔でやさしい言葉をかける。思っていることをはっきり言わずに、いい人を装う。そのように自分の思いを抑えすぎることによって、かなりのストレスを溜め込んでいる。
思いを吐き出すことができれば気分もスッキリするが、吐き出せないため、ストレスを解消できず、ときに感情コントロールに失敗し、怒りを爆発させて周囲を驚かすこともある。
そんな姿をときどきさらす先輩が恐いという人もいる。
「その先輩は、人当たりがよくて、いつも満面の笑みで接客するので、お客さんから『いつも穏やかでいい人』とみられ人気があるんですけど、従業員の間では気性が激しく突然キレる人として恐れられているんです。
笑顔で接客して戻ってくるなり、洗い場の水溜めの中に食器を乱暴に投げ込んだり、『ふざけるな! 調子に乗りやがって』『何様のつもりだ。偉そうにしやがって』などと吐き捨てるようにつぶやいたりするんです。その姿を初めて見たときは、ほんとにびっくりしました」
ふだん自分の本性を無理やり隠し、抑えつけているため、ストレスが相当溜まっているのだろう。このように、いつも穏やかな人が突然口汚くののしったりするのを見て驚いたという人が少なからずいるが、まさにそのことが無理をしていい人を演じている証拠と言える。
雑談の中で見えた本性
職場では本性を現すことがなくても、何気ない会話を通して、家に帰ってから発散していることがわかるケースもある。
「いつも穏やかで、何があっても文句を言ったり怒ったりすることはなく、仕事のできない人にも励ますようなことばかり言って、けっして厳しいことは言わない同僚がいるんですけど、『昨日はあのできの悪い新人があまりにバカなことばかりするから、ほんとに腹が立って、家に帰ってから娘にずっと愚痴ってた』って言うのを聞いて、ほんとは気性の激しい人なんだなって気づいたんです。うっかりだまされるところでした」
このように、職場ではいい人と思われるために猫をかぶっていても、ちょっとした雑談の中に本性が顔を出すことがある。
『裏表がありすぎる人』(幻冬舎新書)
榎本博明
なかでも厄介なのが、裏表の激しい人の存在である。
そうした人物は相手によって態度を使い分け、本性を見せる人と見せない人を選ぶため、被害の実態が周囲に伝わりにくい。
しかも皮肉なことに、そういう人ほど上には気に入られ、出世する。
そんな人物が身近にいると、ストレスが溜まる一方で、心がすり減ってしまう。
そこで本書では「裏表がありすぎる人」の心理メカニズムと行動原理を読み解き、彼らへの対処法を提示する。
人を見る目が一段と深まり、神経の消耗が激減する一冊。

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