世界に衝撃を与えたイラン攻撃。米国トランプ大統領は作戦の成功を誇らしげに語るが、国内ではトランプの熱狂的支持層から「裏切り的行為だ」と批判が飛び交っている。
イスラエルの戦略に引きずり込まれた米国
2月28日、米国とイスラエルの両軍は共同で作戦名「オペレーション・エピック・フューリー(Operation Epic Fury)」を発動し、イランへの大規模な軍事攻撃に踏み切った。
トランプ大統領はこの作戦について、最高指導者ハメネイ師の排除を含む「歴史的な成功」を強調し、自らの指導力を誇示。しかし、その足元ではかつてない激震が走っている。
政権幹部から漏れ伝わった、米国が攻撃を決断した背景に「イスラエルによる独自の軍事行動計画」があったという事実は、米国国内、特にトランプ氏を熱狂的に支える「MAGA(Make America Great Again)」陣営に衝撃を与えた。
これは、米国が自国の利益ではなく、イスラエルの戦略に引きずり込まれたのではないかという疑念を決定づけるものとなった。
イスラエル「米国がやらなければ自分たちがやる」
軍事的な直接の恩恵を享受したのは、間違いなくイスラエルである。
米国を動員することで、自国の兵士を過度に危険にさらすことなく、宿敵イランの核施設やミサイル拠点を壊滅させることに成功した。
マルコ・ルビオ国務長官は、3月2日の記者会見において、米国が攻撃を決断した背景には、イスラエルがイランに対して米国への報復につながる軍事行動を計画していたことがあったと説明した。
ルビオ氏は「我々はイスラエルの意図を把握しており、それが我々にとって何を意味するかを理解していた。その結果として行動する準備が必要だった」と述べている。
この発言は、イスラエルが「米国がやらなければ自分たちがやる」という構図を作り、トランプ政権に決断を迫ったことを事実上認めたものだ。
ニューヨーク・タイムズ(3月2日)も、「イラン攻撃という米国の決定は、数ヶ月にわたりその必要性をトランプ氏に説いてきたネタニヤフ氏の勝利であった」と報じている。
米国は短期的な戦果を収めたものの、既に米中央軍(CENTCOM)は米兵3名の死亡を認めており、兵士の損失と今後数十年にわたる報復リスクを単独で背負い込む形となった。
イスラエルは中東における圧倒的な軍事的優位を再確立
地政学的には、イスラエルが長年掲げてきた「抵抗の枢軸」の無力化が、米国の圧倒的な軍事力によって達成された。
2025年12月にフロリダ州のマール・ア・ラーゴで行われた米イスラエル首脳会談において、ネタニヤフ首相は既にこのシナリオをトランプ氏にませていたと呑ませていたという。当時の報道によれば、ネタニヤフ氏は数カ月以内にイスラエルがイランのミサイル基地に攻撃するのを承認するよう求めていたとされる。
この戦略的成功により、イスラエルは中東における圧倒的な軍事的優位を再確立した。一方、米国は「アメリカ・ファースト」を掲げながらも、実態として他国の安全保障のために膨大な資源を投下するという矛盾を露呈させた。
アクシオス(3月3日)では、ルビオ氏の発言について「外交政策における地殻変動だ」と指摘し、米国の利益よりもイスラエルの安全保障が優先されたとの見方が強まっていることを裏付けている。
最も深刻な影響が出ているのは、米国の国内政治である。トランプ氏の熱烈な支持層であるMAGAインフルエンサーたちが、今回の攻撃を「イスラエルによる米国利用」として激しく批判し始めている。
「最悪の釈明」「最悪の裏切り」
著名なMAGA系インフルエンサーのマイク・サーノビッチ氏による「ルビオ氏の発言はレコードの針が飛んだ瞬間だ。多くの人が推測していた事実を口にした」という言葉(3月3日)は、支持層の失望を象徴している。
保守系論客のマット・ウォルシュ氏も「イスラエルに手を引かれて戦争に入ったと公言するのは、最悪の釈明だ」と批判を強めている。
また、ガーディアン紙(3月1日)の記事では、トランプ氏の元支持者であるマージョリー・テイラー・グリーン元下院議員の「我々は『もう外国の戦争はいらない』と言ってきたはずだ。これは最悪の裏切りだ」という糾弾を報じた。
さらに、ローリング・ストーン誌(3月1日)は、タッカー・カールソン氏やアレックス・ジョーンズ氏といった保守層に強い影響力を持つ人物たちが、今回の攻撃を「核による世界大戦への軌道を加速させるものだ」と非難している様子を詳報した。
ピュー・リサーチ・センターが2025年10月3日に発表したデータによれば、米国人の約6割がイスラエル政府に対して否定的な見方をしており、トランプ氏の行動は自身の支持基盤を根底から揺さぶっている。
米国は軍事作戦の直接経費に加え経済的不確実性という「負債」を抱え込む
経済的な側面では、イスラエルは脅威の低減により長期的な安全保障コストを削減できるという大きなメリットを得た。イスラエルが米国の軍事支援を維持しつつ、自国の防衛コストを肩代わりさせた構図は明白である。
米国は軍事作戦に付随する莫大な直接経費に加え、経済的不確実性という「負債」を抱え込むこととなった。
ワシントン・ポスト(3月2日)は、今回の攻撃を受けて市場で原油価格が急騰し、一時1バレルあたり100ドルをうかがう展開になったと報じている。
ジェトロ(JETRO)の分析(3月3日)でも、ホルムズ海峡の緊張による物流の混乱が、米国内のインフレ抑制やインフラ投資に回すべきリソースを食いつぶし、ガソリン価格に直撃するリスクが指摘されている。トランプ政権が掲げていた「米国経済の再建」という公約は、他国の安全保障コストを負担することになってしまった。
トランプ大統領は、今回のイラン攻撃を「自らの決断による強いアメリカの復活」と位置づけようとしている。しかし、ルビオ氏の発言と、それに対するMAGA層の猛反発は、別の真実を浮かび上がらせた。
残ったのは、引き裂かれたアメリカの世論
つまり、今回の事態の本質は「イスラエルが戦略的な必要性から米国を動かし、自国の安全保障上の宿願を果たした」ということである。
真の勝者は、自国の手を汚さず、米国の軍事力と政治的資本を最大限に利用して宿敵を叩いたイスラエルのネタニヤフ政権だ。
対する米国は、中東での新たな紛争の種を抱え込み、国内では「アメリカ・ファースト」の理念を巡る支持層の内紛という、極めて高い代償を支払うこととなった。
トランプ氏は「強者」を演じているが、その舞台装置を作ったのはイスラエルであり、幕が下りた後に残ったのは、引き裂かれたアメリカの世論であった。
文/小倉健一

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