警視庁久松署は3月5日、コロナ禍で失業を防ぐための国の「雇用調整助成金」をだまし取ったとして、東京都中央区の中国人向け旅行会社「JCIT株式会社」社長の坂川馨(56)と役員で夫の孟偉(53、中国籍)の両容疑者を詐欺容疑で逮捕したと発表した。2023年1月ごろまでにだまし取った総額は6億5000円になる可能性もあり全容解明を進めている。
豪華旅行にブランド三昧…助成金詐欺で逮捕の容疑者のセレブ生活
雇用調整助成金は、経済的な理由で事業を縮小した事業主が従業員の雇用を維持するため休業などをした場合、本来は企業が払う休業手当の一部などを助成する仕組みだ。
コロナ禍が始まった直後の2020年4月1日から緊急措置として受給要件が大幅に緩和されたが、これを狙った詐欺事件が多発した。
「今回の直接の逮捕容疑は22年1~6月、従業員に休業手当を支払ったとのウソの申請をし、約1億1000万円をだまし取った疑いです。その前後も含めてだましとった金の総額は6億5000万円に上る可能性があります。
JCITの社員は10人もいませんが、通訳として60~70人を雇用したと偽って申請していたと久松署は見ています。受け取った金はマンションや山梨県での土地の購入に充てたとみられています。
坂川容疑者は『当時は不正と思わなかった』、孟容疑者は『詐欺と認めざるを得ない』と供述しています」(社会部記者)
坂川容疑者はどのような人物なのか。
本人のSNSにはベトナムやニュージーランド、マレーシアを旅行した時のものや、派手なネイルや貴金属を自慢する写真や動画が並ぶ。着物やチャイナドレスなど着ている服も多彩で、高級ブランドのグッズを自慢。高級ホテルで「豪華パーティー」を開いたとも誇っている。
容疑が事実ならこうした贅沢な生活はだまし取った税金がつくりだしたものではなかったのか。坂川容疑者夫婦の素顔を会社関係者のA氏が証言する。
「馨さんは中国内モンゴル自治区の出身です。
夫の孟さんは強引な性格ですね。中国人コミュニティの中では『兄弟の契り』を重んじる文化があるらしく、彼は自分が『長男(トップ)』になる形で何人もの“弟”をつくっていました。
でも、裏切られたりすると大声でブチギレたり、いつからか周りがどんどん離れていってしまって……。最近は山中湖の旅館事業が忙しく、かかりきりで、ずっと現地に張り付いていました」(A氏)
「実は助成金(請求)手続きの実務は私が担当していました」関係者の証言
坂川容疑者夫婦は事業を拡げていたようで、旅行会社の事務所入り口には不動産業と飲食業の会社の看板のほか、二つの一般社団法人や三つのNPO法人など団体の表示も掲げられている。SNSには銀座にある高級日本料理屋の写真も現れる。
「馨さんは本当にやり手の経営者だったと思います。中国人コミュニティがとにかく広い。インスタに出ている高級料理店は2019年1月に開業して月々の賃料が100万円もします。山中湖の旅館もあり…。とにかく手広く商売を広げていました」
坂川容疑者の“手腕”をA氏はそう評する。だが、
「助成金をもらうようになってからは傍目にも経営の運営が随分と楽そうになっているように見えましたね」
と気になる言葉も口にした。
事業拡大の元手もだましとった助成金だったのではないのか。A氏は事件の核心に迫る証言と弁解もした。
「実は助成金(請求)手続きの実務は私が担当していました。馨さんらの指示です。当時は中国人ツアー向けのガイドさんを50~60人抱えていたんです。
コロナで旅行がパタリと止まって、彼らの仕事が完全になくなったのは事実です。雇用保険にもちゃんと加入させていたから、うちで抱えている社員を守るための『正当な受給』だと信じて疑わなかった。
まさか裏で人数を水増ししていたなんて思いもしませんでした。時期は曖昧で覚えていません」(A氏)
だまし取った助成金があったから事業は回っていたのだろうか。
最後の不正受給があったと疑われる時期の直後に当たる2023年2月、旅行会社は板橋区役所に近い商店街から今の中央区日本橋に移転している。その板橋時代の坂川容疑者の事業を商店街関係者Bが証言した。
「彼女とご主人は10年よりもっとずっと前に商店街に来て、もともとうなぎ屋があった店舗に入って居酒屋風の焼き鳥屋を始めたんです。
私も何回か行きましたが、常連になった友人は彼女から『私はモンゴルの方から出てきて、私はテレビ局の社長の娘だからお金はあるの』って聞いたと言ってました。たしかにその時から装飾品はジャラジャラって感じでした。
焼鳥屋は何年かでやめ、その後いろんな会社や団体の名前がポストに書かれた事務所になりました。
コロナのころかな、大勢の中国人を集めて、旅行業のノウハウか何かを教える講習会のようなものを開いたみたいで、案内の看板が立っていたことがあります。社員数?ご主人以外に3、4人くらいしかいなかったと思うよ」(Bさん)
「経理担当が消えた」社内で起きていた異変
板橋時代に得た助成金で金回りがよくなった日本橋の会社事務所に久松署の捜査員が踏み込んだのは2月10日午前のことだ。
「刑事さんが6人くらいやってきて『作業をやめてくれ』と言うんです。社長(坂川容疑者)も刑事さんと一緒に来ました。その日以来彼女の携帯は電源が切れたままで連絡が取れませんでした」(A氏)
A氏によると、会社では板橋から事務所が移転して半年ほどした時期に坂川容疑者が「すべてを任せていた」という経理担当者が姿を見せなくなった。A氏は「彼がすべてを企んだんじゃないかと怪しく思っている」という。
いっぽう毎日新聞は今回の事件は「取り分をもらえなかったJCIT関係者が23年5月に警視庁に相談して発覚した」と報じている。
厚生労働省によると、昨年末までに新型コロナ禍に絡む雇用調整助成金では不正受給の確認などによる支給決定取り消しが4557件行なわれ、支給取消総額は1139億円に上る。だが回収できたのは885億円だけだ。
社員でもない人物への支給申請がなぜ通ったのかについて東京労働局は、
「コロナ禍で多数の申請があり、支給を急ぐ必要もあって通常とは違う状況でした。マンパワーに限りがあり確認に漏れがあった可能性は否定できないです」
と説明している。
パンデミックの非常時に救済対象を広げたことに目をつけたタチの悪い詐欺が事実なら、刑事罰の他に2割の違約金や延滞金を含めた不正受給額全額の返還が迫って来る。血税から出たこのカネをきちんと取り戻せるのだろうか。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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