音だけで『ストリートファイター6』をプレイする全盲のeスポーツプレイヤー、声優とエンジニアの三役をこなす北村直也の夢「甲子園球場でマイクを持ちたい」
音だけで『ストリートファイター6』をプレイする全盲のeスポーツプレイヤー、声優とエンジニアの三役をこなす北村直也の夢「甲子園球場でマイクを持ちたい」

全盲でありながらもナレーター・声優として着実にキャリアを積み上げてきた北村直也さんには、もうひとつの顔がある。格闘ゲーム『ストリートファイター6』のeスポーツプレイヤー、「NAOYA」だ。

彼は視覚情報を一切使わず、「音だけ」で対戦するという驚異のプレイスタイルを持つ。どうやって音だけで戦況を把握し、プレイするのか。そして声優・ナレーターとしてのこれからの夢を聞いた。(前後編の後編)

音だけで対戦! 全盲のeスポーツプレイヤー

2026年2月11日、茨城県つくば市で開催されたeスポーツイベント「IBARAKI GAMING DAY 2026」。

全盲のeスポーツプレイヤー北村直也さんは、ゲームに自信があるという五十嵐立青市長と対戦し、圧倒的な実力で勝利を収めた。本気で悔しがる市長を横に、北村さんは手応えを感じていたようだ。

「市長さんがなかなかのリアクションで、面白かったですね(笑)。障がいの有無を問わず、同じフィールドで戦えるeスポーツの魅力を発信したくて活動しているので、こういう対戦で関心を持ってもらえるのは嬉しいです」(以下、「」内は北村直也さん)

北村さんがeスポーツの道に進んだきっかけは、意外にも野球ゲームだった。幼少期からPlayStationのゲームソフト『パラッパラッパー』などの音ゲーやキャラクターゲームに親しみ、コントローラーは「友達」と呼べる存在だったという。

プロ野球中継が好きな北村さんは、球場で実際に野球をしている雰囲気を味わうために『パワフルプロ野球』をプレイし始めた。そこで編み出したのが、投球音を聞いてタイミングを合わせる独自のスタイルだ。

「投球音が聞こえたら1、2のタイミングで振ると意外と当たるんです(笑)。ただチェンジアップを投げられると遅すぎてタイミングがつかめない。

投げる側なら球種を選んで投げるだけなので、現実の野球好きの知識を活かして『このピッチャーはまっすぐが強いから』とか考えながらプレイしていました」

このエピソードが、バリアフリーeスポーツを支援する「ePARA」代表・加藤大貴氏の目に留まり、北村さんは2020年から同団体に所属。本格的にeスポーツ選手としての活動を開始した。

「サウンドアクセシビリティ」が切り拓いた格ゲーの世界

北村さんが格闘ゲームの世界にのめり込む転機となったのは、筋ジストロフィー(※)を患うeスポーツ選手・畠山駿也氏との出会いだった。彼からカプコンの人気格闘ゲーム『ストリートファイター』を教わる中で、ゲーム側の進化も北村さんを後押しする。(※全身の筋力が徐々に低下する遺伝性の難病)

eスポーツの種目として国際的にも盛り上がりを見せている『ストリートファイター6』には、「サウンドアクセシビリティ」という画期的な機能が搭載されている。相手との距離、攻撃のヒット(上・中・下段)、体力状況などがすべて異なる音で表現されるというものだ。

「相手の距離は専用の音の高さで分かります。音が早く高く鳴っていれば距離が近い、ゆっくり低くなっていれば距離が遠いという感じです。それに加えて、キャラクターの位置は音のステレオ効果でわかります。なぜなら、キャラクターが左端にいれば左端から声がして、右端にいれば右端から声がするからです。

それ以外にも、技をガードしたのか、当たったのか、あるいは空振りなのか。倒れた時に受け身を取ったかどうかも含めて、すべて音で聞き分けています。

『ずっとガードされている音がしているから、ここは投げ技を使おう』といった判断も、音を頼りにしています。

始めてみたら、音だけで戦況がかなり把握できて、自分でも驚きました」

北村さんは「見ることがないからこそ、聴くことに徹することができる」と語る。しかし、その集中力を要するプレイは凄まじく体力を消耗させるようで、苦笑しながらこう話した。

「音で取れる情報が多いゲームをプレイするのは楽しいのですが、最初はめちゃくちゃ疲労感を感じます。最近やたら疲れやすいと思って振り返ったら、新しいゲームを初めたから無意識のうちに相当な負荷をかけてたんだなと」

憧れの地・甲子園球場でマイクを持ちたい

北村さんの挑戦は、eスポーツの枠に留まらない。本業であるナレーター・声優としての活動にも意欲的だ。最近あった嬉しかったことを尋ねると…

「今年の1月に、『ニッポン放送・報道記者レポート2026』というラジオ番組に出演させていただきました。子どものころから大好きだったラジオ局でのお仕事はやっぱり格別でしたね!」

楽しげに話す彼は「声」「音」「音楽」の世界をこよなく愛している。今後の目標について話を聞くと嬉々としてこう話した。

ボカロ楽曲でも知られるクリエイターユニット『HoneyWorks』が学生時代からずっと大好きで、10年以上追いかけているので、何かしら僕から提案できるようアンテナを張っています。自分自身の認知もブランディングも全部拡大して、推しとコラボできる自分を作っていきたいですね」

そして、もう一つ。熱狂的な阪神ファンである彼には、大きな夢がある。

「いつか憧れの地でもある甲子園球場で、マイクを持ちたいです。

場内アナウンスはもちろんですが……。始球式も、できるくらいになりたいです(笑)」

挑戦し続ける彼の歩みは、これからも多くの人々に勇気と驚きを与え続けるだろう。目で見える情報だけが全てではない、彼の声をぜひ一度聴いてみてほしい。

(前編はこちら)

取材・文/木原みぎわ
(写真/佐藤靖彦)

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