〈侍ジャパン〉山本由伸の強さは“変わらないこと”…同級生・牧秀悟が語ったメジャーで成功する本当の凄み「どんなに環境が変わっても、山本由伸は山本由伸」
〈侍ジャパン〉山本由伸の強さは“変わらないこと”…同級生・牧秀悟が語ったメジャーで成功する本当の凄み「どんなに環境が変わっても、山本由伸は山本由伸」

史上最高額級の契約でドジャース入りし、ワールドシリーズ世界一にも貢献した山本由伸。その活躍を同級生として見つめてきたDeNAの牧秀悟は、「想像以上だった」と舌を巻く。

メジャーの壁に直面しても即座に修正し、自分を貫き続ける――。侍ジャパンの盟友が明かす“世界のエース”の本質とは。

新刊『証言 山本由伸』より一部抜粋・再構成してお届けする。

テレビ越しに追い続けた同級生の活躍

2023年12月、スポーツ界の歴史が塗り替えられた。オリックス・バファローズからポスティングシステムでメジャー移籍を目指していた山本由伸が、ロサンゼルス・ドジャースと結んだ契約は、12年総額3億2500万ドル(当時のレートで約465億円)。投手としてはメジャー史上最高額となる、破格の条件だった。

その衝撃的なニュースを、横浜DeNAベイスターズの牧秀悟は特別な思いを抱いて見つめていた。

「もうすごいという一言でしたね。金額はもちろんですけど、ドジャースという球団がそれだけの評価をしたことに驚きました」

牧と山本は、ともに1998年に生まれ。牧が長野県の松本第一高から中央大学を経て、2020年ドラフト2位でDeNAに入団したのに対し、山本は宮崎県の都城高から2016年ドラフト4位でオリックスへと、一足先にプロの世界へ。

同級生ではあるが、なかなか接点がなかった。二人が初めて言葉を交わしたのは21年のNPBアワード。山本がパ・リーグの投手部門4冠、牧が新人特別賞を受賞したときのことだ。



「高校時代は由伸の存在すら知らなかった。大学生の頃、侍ジャパンで投げているのを見て同級生にすごいヤツがいるなとファン目線で見ていました。プロに入って対戦したいピッチャーを聞かれたとき、真っ先に思い浮かんだのも由伸。同級生で侍ジャパンを背負っている投手がどんな球を投げるのか、純粋に興味がありました」

その後、二人は23年のWBCでチームメイトとなり、世界一を奪還。そして24年、山本はNPB史上初の投手4冠の実績を引っ提げて海を渡る。牧にとって、山本は同世代の先頭を突っ走る存在となった。

「メジャーリーグ中継はよく見ますよ。由伸が投げていると、どんなピッチングをするんだろうと、自然と力が入ってしまいますね。一ファンとしてリラックスして見ているようで、やっぱりどこかで意識してしまっているんでしょう」 

山本由伸がメジャーで見せた“修正力”

牧がテレビ画面越しに追い続けてきた山本のドジャースでの歩みは、決して平坦なものではなかった。24年3月、韓国・ソウルで行われたパドレスとの開幕シリーズ第2戦。

山本はメジャー初登板の初回に5失点を喫し、わずか1イニングでマウンドを降りた。「山本といえど、メジャーの壁は高いのか?」、日本中にそんな空気が流れたが、牧の受け止め方は違っていた。

「メジャーに行ったばかりの頃の由伸は、日本ではあんまりなかったような打たれ方をしていましたよね。

でも次の試合では、しっかり修正して投げていた。打たれたことをただの失敗にせず、いろいろ試しながら、すぐにアジャストさせていく。そのスピード感が、普通のピッチャーとは次元が違うなと思いました」

牧の見たてどおり、メジャー1年目の山本は登板を重ねるごとに精度を上げ、前半戦が終わる頃にはドジャースの先発ローテーションに欠かせない柱となった。2年目も東京での開幕戦で勝利を挙げると、以後、シーズンを通して好調をキープし12勝。ポストシーズンでは5勝を挙げる活躍ぶりで、ドジャースの2年連続世界一に貢献した。この2シーズンの山本の活躍を牧はどう見ているのか。

「自分が評価するなんておこがましいですけど、正直言って、想像以上の活躍でした。日本を代表する投手から、『世界のエース』へ駆け上がっていく姿を見せつけられた気がします」

とくに25年のトロント・ブルージェイズとのワールドシリーズでの山本の力投は、牧に強烈な印象を植えつけたという。

「日本人投手がああいう大舞台で先発して勝って、さらにスクランブルで投げてフル回転をする。そんな姿、見たことがないですから。世界一を懸けた場面で投げさせてもらえるということ自体、チームメイトや首脳陣からの信頼がとてつもなく厚い証拠だと思います」

“変わらないこと”が由伸の強み

山本という投手を語る際、評論家が口をそろえるのは、やり投げの動きを取り入れた練習やブリッジといった、従来の野球界の常識を覆すトレーニング理論だ。しかし、23年のWBC合宿で行動をともにした牧が驚かされたのは、その特異な手法そのものではなく、それを遂行する意志の強さだった。

「技術的なことは僕には詳しくはわかりませんけど、それ以前の問題として、とにかく事前の準備が徹底しているんです。

侍ジャパンのとき、他の選手たちがウエイトトレーニングや、各自のメニューをしているなかで、由伸だけは朝早くから、決まったルーティンを毎日こなしていました。それだけは絶対に崩さなかったですね」

山本のルーティンは、単なるウォーミングアップの域を超えている。自分の体を精密機械のように調整し、常にベストの状態に持っていくための〝儀式〟に近い。周囲の雑音を遮断し、自分だけの世界に没入する集中力こそが、マウンドでの圧倒的なパフォーマンスを支えているのだと牧はいう。

「どんなに環境が変わっても、山本由伸は山本由伸という感じですかね。日本でも、メジャーでも、同じことを毎日続けている。“変わらないこと”が、由伸の強みなんだと思います」

今では気心の知れた仲だが、牧にとって山本は、プロ入り前から追いかけるべき大きな背中でもあった。入団会見で対戦したい投手として名を挙げた山本との対戦は、1年目のオープン戦でさっそく訪れる。

21年3月5日、横浜スタジアムでのDeNA対オリックス、ルーキーながら3番に座った牧は、1回裏2死で打席に入る。初球、山本の投げ込んだ151キロの変化球を振り抜くと中前への安打となった。3回の2打席目は外角低めに決められたカットボールに手が出ず、念願の対戦は2打数1安打だった。

「オープン戦だったので、まっすぐが中心になるのかなと思ったんですけど……。

ボールのキレはもちろんですが、何より驚いたのは球の重さ。ただ速いだけじゃなくて、鉛のような重くて強いボールを投げていた。フォークボールも、打者の手元で急激に重力が増したかのように落ちるし、強烈でした」

取材・文/石川哲也

『証言 山本由伸』(宝島社)

牧秀悟、工藤公康、 井口資仁、 五十嵐亮太、金子千尋、西村徳文、高山郁夫、入来祐作、星野伸之、能見篤史、増井浩俊、矢田修ほか
〈侍ジャパン〉山本由伸の強さは“変わらないこと”…同級生・牧秀悟が語ったメジャーで成功する本当の凄み「どんなに環境が変わっても、山本由伸は山本由伸」
『証言 山本由伸』(宝島社)
2026年3月16日1,650円(税込)224ページISBN: 978-4299075895ロサンゼルス・ドジャース世界一の立役者、日本人プレーヤーで史上2人目、投手としては初のワールドシリーズMVPを受賞し、世界の頂点に立った山本由伸選手。その偉業達成までの歩み、才能の真実を、かつてのチームメートやMLB経験者、専属トレーナーなど、さまざまな関係者のインタビュー取材で浮かび上がらせる証言集です。関係者の証言であらわになる山本由伸の「異次元の凄さ」とは。
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