ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)準々決勝進出を決めた侍ジャパンの快進撃に、各地のファンが画面越しに熱い声援を送っている。しかし、今回のWBCを巡っては、これまでの大会とは異なる「視聴環境」の変化が、スポーツバーや居酒屋などの飲食店に波紋を広げている。
「HUB」がWBCを店内で放送できる理由
今大会、日本戦の中継は地上波テレビ放送ではなく、米動画配信大手Netflix(ネットフリックス)による独占配信となった。これを受け、これまでWBCの放映で賑わいを見せていた飲食店の多くが、著作権や利用規約の関係から放映の断念を余儀なくされている。
そんな中、英国風パブ「HUB」では、平日の夜にもかかわらず、多くの客が店内を埋め尽くしていた。店員は侍ジャパンの赤と紺のユニフォームを着用し、店内には出場選手のタオルが飾られるなど、まさに「WBC仕様」の熱気に包まれている。同店では、Netflixとの異例の協力体制によって放映を実現させたという。
「今回のWBCの配信についてですが、私どもHUBでは、Netflixさんと正式に契約を結んだ上で放映させていただいております」
株式会社HUBの広報担当者は、その経緯を次のように説明する。
「ご存知の通り、Netflixさんには本来『法人契約』という枠組みがございません。そのため、著作権侵害にならないよう、先方としっかり対話を重ねて今の形を整えました。
具体的なスキームとしては、当社が主体となって流しているというよりは、『NetflixさんがHUBという店舗をハブ(中継拠点)として活用し、放映を行なっている』という独自の認識で進めております」
この取り組みは、Netflix側の「プロモーション」の一環という側面が強いという。
「私どもは常にスポーツを応援する立場にありますので、放映権などの権利関係はすべてクリアにした上で提供したいという思いがあり、当社側からNetflixさんへアプローチをさせていただきました。
巷では、一部のスポーツバーなどが許可なく放映しているケースも見受けられますが、HUBとしては公式に認められた『正しい視聴環境』をファンの皆様に提供することを大切にしています。特定の狙いがあるわけではなく、公式に放映できる場があるからこそ、私たちがその場所を提供している。ただそれだけのことなんです」
「闇放送」状態の店も…会員制バーや野球居酒屋の本音
一方で、公式な契約を結ぶことが困難な個人経営のバーや郊外の店舗では、権利関係が不明確なまま店内放映を続ける「闇放送」とも呼べる実態が浮き彫りになっている。Instagramなどで「WBC観戦できます!」と大々的に宣伝する飲食店も少なくない。
都内のある会員制バーの店主は、次のように語る。
「うちは会員制だし、Netflix側にバレるということはそこまでないかなぁと。正直、これまでNetflixのドラマやAmazonプライムのスポーツ中継などを流してきたこともあるから、今回のWBCも著作権に触れるとは思わなかった。だって、昔からスポーツの大きな試合を流すことなんて、バーの歴史としてあったじゃん」
この店主によれば、放映による集客効果は絶大だという。
「やっぱり店内で流すことによって、お客さんの数は多くなります。平日の夜にもかかわらず、普段の1.5倍に増えたりもしますし。お客さんも喜んでくれるし、日本一丸となって応援したいからこれぐらいは見逃してほしいよね。
別にWBCにあやかって儲けようとしてるわけではない。あくまでお客さんに楽しんでもらえるようにしたいだけ。そもそもどうやって正式な手続きをするのか、やり方がわからない」
いっぽうで、地方の野球居酒屋はどうなのか。
「そもそも大画面にみんな集まって応援するのがスポーツ観戦の醍醐味でもあります。
商用利用が認められないことは知っている。
テレビ放送とストリーミング配信で異なる著作権の扱い
こうした状況に対し、著作権法に詳しい高木啓成弁護士は、法的観点からのリスクを指摘する。
「まず、Netflixの規約違反として、アカウントが停止される可能性があります。これに加えて、損害賠償を請求される可能性も否定はできません。著作権侵害により得た利益額は損害額と推定されます(著作権法114条2項)。また、最低限『ライセンス相当額』の損害が生じたものと推定されます(同条3項)」
高木弁護士によれば、従来の「テレビ放送」と今回の「ストリーミング配信」では、著作権法上の扱いが大きく異なるという。
「テレビで放送されている番組については、著作権法に特別の規定があり、『家庭用受信装置』を用いて放送を受信して公衆に伝達する場合には、営利・非営利問わず、適法とされています(著作権法38条3項)。これまで日本では地上波テレビが主流で、著作権法もテレビ放送の伝達についてはおおらかな規定になっているためか、『スポーツ中継は無料』という感覚が広くあったように思います」
当然、法律は守るためにある。正式な手続きをふまずに「闇放映」をする個人店は問題と言わざるをえない。デジタル時代の新たなルールの中で、ファンが「画面を囲んで応援する」というスポーツの文化は、今まさに大きな転換期を迎えている。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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