世界の富裕層の移住先に、静かな変化が起きている。これまで人気だったドバイから、ある都を選ぶ動きが広がり始めているというのだ。
市場は、常に建前よりも現実で動く
世界の市場はいつも噂と現実の間で揺れている。しかし、いまほどその境界が曖昧になっている局面も珍しい。イランを巡る憶測と原油価格の動きに振り回され、株も為替もエネルギーも神経質な乱高下を繰り返している。
市場は日々のニュースに反応しているが、実際には誰も全体像を掴めていない。まさに「噂」と「現実」が入り交じっている状態である。
その中で興味深いのはトランプ大統領の発言だ。原油価格について「問題が解決すればむしろ下がる」と語り、さらにロシアのプーチン大統領と電話会談を行い、ロシア産原油の輸入を模索しているとも報じられている。
もしこれが事実であれば、エネルギー市場は単なる中東問題では終わらない。米国とロシアを含めた新たな供給構造の再編という、より大きな地政学の枠組みに入りつつある可能性がある。
しかも皮肉なことに、ロシアから原油を輸入する国には追加関税を課す可能性まで示唆していた張本人が、今度はエネルギー価格の高騰を抑えるためにロシア産原油の輸入を模索しているとも言われている。
つまり制裁や理念の話よりも、現実のインフレとエネルギー価格の問題のほうが優先され始めているということだ。
エネルギー市場の混乱は、いつも弱い国から順番に直撃する
しかし足元の市場はすでに緊張を織り込み始めている。短期取引での天然ガス価格は一気に2倍に跳ね上がった。これは単なる投機ではない。
もしこの状況が長引けば、長期契約でも20%以上の値上がりが現実的なシナリオとして浮上してくる。先進国は高い価格でも買うことができるだろう。
しかし途上国はそうはいかない。資金も信用も足りない。結果として物理的にエネルギーが調達できなくなる。エネルギー市場の混乱は、いつも弱い国から順番に直撃する。
ただし、すべての国が同じ状況に置かれているわけではない。中東情勢の裏側では、すでにエネルギーの流れそのものが静かに再編され始めているという指摘もある。
1ドル160円は心理的な節目に過ぎない
イラン周辺の関係者の話では、現在ペルシャ湾周辺では中国向けの貨物船やタンカーの航行が優先的に認められているという情報も流れている。つまり中国向けのエネルギー輸送は確保されている可能性があるということだ。
もしこれが事実であれば、中国は中東情勢が不安定化する局面でもエネルギー供給の面で一定の安全弁を確保していることになる。世界がエネルギー不足を懸念する局面で、中国だけが比較的安定した供給を確保しているとすれば、それ自体が大きな地政学的優位になる。
その影響を日本は為替という形で受けている。円はすでに158円台後半から159円をうかがう水準にまで下落している。ここまで来れば160円は心理的な節目に過ぎない。
もし中東情勢が長引けば、突破しても驚くことではないだろう。いまや円はアジアで最も通貨価値を棄損している通貨の一つだと言われることもある。
その円がさらに安くなるということは、値上がりした天然ガスをドル建てで買わされるという意味である。つまり日本はエネルギー価格の上昇と通貨安という二重の圧力を同時に受けることになる。
一方で現地の情報はまた違う現実を示している。イランの友人によれば、米国との話し合いでイラン側が望んでいる条件は三つだけだという。
第一に二度とイランを攻撃しないこと。
衝突は短期間で終わる構造ではない可能性が高い
表面的にはシンプルな要求に見えるが、実際にはどれも簡単ではない。特に基地の問題と補償の問題は軍事と政治の双方を巻き込む。これから交渉が始まるとしても、どこを妥協点にするのか、そのせめぎ合いは相当に激しいものになるだろう。私はそう簡単に決着するとは思っていない。
そもそも今回の衝突は短期間で終わる構造ではない可能性が高い。イランは正面戦争で米国と戦う軍事構造ではなく、ドローン、ミサイル、そして地域の代理勢力を含めた非対称戦略を長年構築してきた。迎撃ミサイルは一発約5百万ドル以上とも言われる。
一方で攻撃側のドローンは約2万ドル規模とも言われる。防御側が圧倒的にコストを負担する構造だ。軍事力の絶対差とは別に、消耗戦という別の構図が存在している。
為替が弱くなるほど、日本の実質負担は増えていく
原油価格はアメリカではすぐにガソリン価格へ波及し、消費者物価の心理に直結する。インフレが再燃すれば金融政策の見通しにも影響する。つまり中東の軍事リスクは、そのまま世界の金融政策リスクへとつながる。
日本の場合はさらに複雑になる。日本はエネルギー輸入国であり、原油価格の上昇はそのまま交易条件の悪化になる。そこに円安が重なると影響は倍増する。
原油が上がる、円が弱い。この二つが同時に起きれば日本の輸入コストは大きく膨らむ。企業の利益の一部は円安で押し上げられるかもしれないが、国全体で見れば購買力は削られていく。
さらに日本は巨額の対米投資や防衛装備の購入を約束している。これらの多くはドル建てで行われる。かつて80兆円と言われた対米投資も、為替の影響で数字は簡単に膨らむ。
富裕層に異変! ドバイの次に選んだ移住先は?
それでも日本では長い間、円安は株価にとって追い風だという説明が繰り返されてきた。高市総理は「円安でホクホク」とまで発言した。
しかし通貨とは本来、国民の購買力そのものである。円が弱くなるということは、日本人の生活の価値が世界の中で目減りするという意味でもある。
そして今回の一件で、もう一つ別の流れが静かに動き始めている。富裕層や金融関係者、さらにはAI開発の拠点の動きが変わり始めているという話だ。
先日ロンドン在住の富裕層の知人が香港への移住を決めた。もともとはドバイを考えていた人物だ。それが香港を選んだという。彼もまた、多くの富裕層がドバイから香港へ移住し始めていることを知り、そう決断したようだ。
さらに中国のAI企業も、北京、上海、浙江省などに置いていた拠点の本社機能を香港へ移す動きが続いているという話も聞こえてくる。
これは偶然ではない。むしろ中国の戦略が機能していると見るべきだろう。中国は香港を単なる都市として扱っているわけではない。本土とは異なる金融・法制度を維持し、資本移動や通貨制度も分離することで、本土とは別の資本市場として機能させている。
人民元と香港ドルという二つの通貨、そして二つの金融制度を併存させることで、中国は自国の資本規制を維持したまま国際資本を取り込むことができる。
香港が再びアジアの金融ハブとして復活する可能性
この仕組みこそが、香港という都市の本質である。つまり政治体制は中国でありながら、資本と資産の安全性については国際金融都市としての制度を維持することで、世界の富裕層や金融機関にとって安心して資産を置ける場所として機能させているのである。
中国本土は不動産バブル崩壊という大きな問題を抱えている。今後は不良債権処理に長く苦しむ可能性が高い。しかしそれにもかかわらず、富裕層、ファンド、投資銀行、ヘッジファンド、さらにはAI開発企業までがシンガポールではなく香港を選んでいる。
この一点だけを見ても、香港という市場の安全性と機能がまだ生きていることの証明なのかもしれない。
もし最も成長すると言われるAI開発が香港で進み、その資金を富裕層や投資銀行、ヘッジファンドが供給する構造が出来上がれば、香港が再びアジアの金融ハブとして復活する可能性は十分にあるだろう。
そして忘れてはいけないのは、こうした動きはいつも静かに始まるということだ。勝ち組と呼ばれる層は非常に早耳である。ニュースになってから動くのではない。
我々が気付く遥か前に、すでに行動している。市場とは、いつの時代もそういう人たちが先に動き、その後ろを大勢が追いかける構造でできているのである。
文/木戸次郎 写真/shutterstock

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