関東在住のナナミさん(仮名・19歳)は小学5年生のときに同級生複数人からいじめに遭い、後にPTSDと強迫性障害と診断され今も苦しんでいる。ナナミさんはいじめを受けた経験や心境を小学校の卒業文集につづったが、校長から書き直しを求められたり、修正案を提示されたりした。
〈命〉と題した卒業文集の作文を…
最近では福島県郡山市立中学校3年生の女子生徒が卒業文集の作文にいじめ被害について記し、校長から書き直しを求められたことが報道され、大きな社会問題となっている。これを受けて3月10日、松本洋平文部科学相は断定的な評価を控えるとしながらも『いじめの対応では被害者に寄り添った対応を行うことが基本だ』と語った。
この問題については保護者が抗議したことで作文はそのまま掲載されている。
ナナミさんも同様に小学校の卒業文集での作文を提出する際、書き直しを求められたり、修正案を出されたりしていた
卒業文集に掲載された、ナナミさんが書いた〈命〉と題した作文を抜粋する。
〈以前、いじめが理由で亡くなった子のニュースを見た。私は「なぜ命を絶つのだろう。なぜ親や先生に相談しないのだろう。命がもったいない。」と思った。その時の私は、亡くなった子の本当の苦しみが理解できていなかったのだ。(中略)今はいじめが理由で命を絶つ子の本当の苦しみが理解できる。私も毎日のように考えたからだ。〉
作文にはナナミさんの強い思いが表れていた。
「ナナミからすると、いじめが始まってからの5年生からの2年間が大きすぎて、小学校での思い出というとその2年間がすべてだったのだと思います。だから卒業文集を書くならこの内容でしか書けないということを学校側にも担任にも事前に伝えていました」
『いじめ』という言葉を『ツラいこと』という風に変えてほしい
そうして6年生の12月に入ってから2月までの間、週に一、二度放課後に学校に行き、ナナミさんは作文を書き上げたという。
放課後は担任も同席し、ナナミさんが書く内容については把握していた。しかし、出来上がった作文を清書し、両親とともに学校に持っていくとなぜか校長室に通され、校長、教頭、学年主任、担任に出迎えられたという。
そこでナナミさんが書いた作文を書き直してほしいという趣旨のことを伝えられた。母親が続ける。
「校長先生がナナミに対し、『書くのはツラかったね。ナナミさんに十分に寄り添うことができなかったということについては胸が痛くなってきます』と言った上で、修正案という形で書き直しの提案をしてきました。
学校側が修正したかったのは、『いじめ』という言葉を『ツラいこと』という風に変えてほしいということと、いじめていた加害児童の人数を出さないでほしいという点でした」
学校側がナナミさんの作文の修正を提案する理由は何だったのだろうか。
この日、校長は「作文にはナナミさんの顔写真や名前が載るものだから、この内容だと一人歩きしてナナミさんのためにならない」「後に大変な思いをしたり、危険に繋がる可能性がある」などと理由について説明したという。
さらに「中学校という新しいステージのスタートに思いを向けるべきだ」ということも校長は強調してきたという。
当然のことだがナナミさんも両親も納得がいかなかった。修正には応じず、結論が出ないまま話し合いは終わった。
校長から届いた手紙
すると後日校長から改めて修正を促す手紙が自宅のポストに投函されていた。手紙の内容は上記の写真の通りだが、一部抜粋する。
〈この文を書いたナナミさんの気持ちを考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいです〉
〈しかし、この作文をこのまま卒業文集に載せたという思いをずっと引きずっていくことは避けなければならないと思います〉などと書かれている。
最終的に学校側の修正案にうなずくことはなく、ナナミさんの作文は書いたままの形で掲載された。ナナミさんからすれば幾度も学校に期待し、学校に裏切られた思いだっただろう。
いじめをはじめナナミさんに対する学校側の対応は正しいものだったのだろうか。
ナナミさんが通った学校に取材を申し込んだが「個別の案件はお答えできない」として取材は断られてしまった。
当時の心境をナナミさんはこう語った。
「楽しそうに私をいじめる加害児童たち、いじめを受けている私と目が合っていながらも、ただ見ているだけの先生、その時のすべての人たちの目が忘れられません。同級生から『ズル休みをしている』『行事だけ出てきてズルい』など、心無い言葉を言われたこともありました。
このまま卒業したら『いじめがなかったことにされてしまう』とも思いました。私が2年間どのような気持ちで過ごしてきたのかを知って欲しかった。学校は加害児童やいじめの対応はいい加減なのに、卒業文集で都合の悪いことを出させないためにはこんなに必死になるんだと思いました。
この2年間、一生懸命に生きてきた私の思いまで否定するのかとも思いました。卒業文集には『寄り添ってくれた先生もいた』『助けてくれる人は必ずいる』と書きましたが、その後に、実際は加害児童やその両親にもいい顔をしていたこと等が分かり、深く絶望して誰も信じられなくなりました。全て分かった今となっては、当時の学校には助けてくれる人がひとりもいなかったのだと思いました」
ナナミさんの受けたいじめが「重大事態」にあたるとされ、市教育委員会が第三者委員会を設置したのは2021年のことだ。学校内のいじめ問題に精通し、その第三者委員会の調査にも関わったレイ法律事務所の高橋知典弁護士が見解を語った。
「卒業文集の内容にいじめを記載することを嫌がり、訂正を求める教員は多数います。校長側の言い分を考えれば、卒業文集という晴れ舞台で、いじめのことを書いた子自身が、将来いじめを引きずることを考えたのかもしれません。
しかし、校長側の本音は、卒業文集でいじめが多くの人の目に触れることを避けたいのだと思います。いじめの問題を正面から対応する気がない学校にとって、不登校になったいじめの被害者は、存在感のない、都合のいい被害者です。
卒業文集の際にもいじめを語らせなければ、いじめという子供の残酷さや、それに対応できなかった学校の問題も、周囲からは見えないまま、卒業とともに学校から押し流されていくことを期待してしまったのでしょう。
いじめを卒業文集に書きたいと願った子にとって、卒業文集に書かなかった程度で記憶から消えてくれることはありません。文集の内容が法に触れるようなものではない限り、その子自身の気持ちを受け止めるためにも、記載を変更するべきではないでしょう」
第三者委員会の調査が終わったのは2024年3月、調査報告書が市のホームページに掲載されたのは2025年7月だった。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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