イラン攻撃により原油価格が高騰している。すでにガソリン価格が大きく上がっているが、ホルムズ海峡封鎖が長引くほど生活の様々な場所に影響が出てくる。
「ナフサ不足が本格化すれば、家を建てられなくなる」
米国のトランプ大統領によるイラン攻撃の影響が日本の不動産市場にも波及している。ホルムズ海峡の封鎖は原材料不足を招き、住宅に欠かせない建材の供給に黄信号をともしている。
一方、ドバイの富の象徴だった超高層ビルがイランによる攻撃のターゲットとなったことで、世界の不動産投資の構図も激変している。相対的に安全な日本の都心の物件がマネーの退避先候補となっており、庶民が不動産を買えない中で、さらなるマンション価格の高騰につながる可能性もある。
「ナフサ不足が本格化すれば、家を建てられなくなる」
埼玉県で工務店を経営するA氏は取材に対し、深刻な表情で語った。米トランプ政権のイラン攻撃とイランの反撃によりホルムズ海峡が事実上閉鎖され、現在、日本の産業界はナフサ不足の対応に追われている。
原油を精製する過程で得られるナフサは化学品の製造に欠かせないが、日本では原油のような国家備蓄がなく、主に中東からの輸入に頼る構図だ。
アジアの周辺国も石油製品の禁輸に踏み出すなど国際的なナフサ争奪戦が過熱する中、事態の長期化を見据え、三菱ケミカルグループや出光興産などの素材メーカーはすでに減産や生産停止の準備に入った。
新規受注を断らざるを得なくなる可能性も
ナフサを使った建築資材は樹脂サッシや断熱材、ビニル管やシーリング材など多岐にわたるが、「一つでも足りなければお客様に引き渡せない」(A氏)。
日本の建築資材は品目が多く、現場が分散しているため、A氏のような零細工務店は十分な在庫を保有しておらず卸をはじめとした流通網に頼っている。
「現在手掛けている家の分は大丈夫だと聞いているが、このまま戦争が長引くようであれば、新規受注を断らざるを得なくなる可能性がある」とA氏は懸念する。
東日本大震災後、電子部品やゴムなどの部品が足りないことで直接被害を受けなかったはずの中部や九州でも完成車の工場が止まったが、同じことが今回、住宅市場で起きる可能性があるというのだ。
中東情勢混乱の長期化は、さらなる価格上昇圧力に
これは戸建て住宅に限った話ではなく、マンションにも影響が出る可能性が高い。
現在、首都圏の不動産市場は建築コストの高騰や人手不足により圧倒的な供給不足の状態で、特に新築マンションは需要に対して足りていない状況が深刻化している。建材の不足が顕在化すれば、こうした傾向がさらに加速する可能性がある。
新築市場だけではなく、建材不足は中古住宅市場にも影響を及ぼしそうだ。使用感のある中古住宅を流通させるためにも、見た目を綺麗にするリフォームは欠かせない。
仮に建材不足でリフォームが止まれば、中古物件の流通が停滞するようになる。こうなれば、ただでさえ足りない物件の供給が滞り、需給バランスがさらに引き締まることとなる。
東京カンテイによると、1月時点での東京23区の中古マンションの価格は前月比1.4%増の1億2123万円となっている。中東情勢混乱の長期化は、さらなる価格上昇圧力となる。
ナフサに限らず、原油価格の高騰は不動産の購入者側の懐も直撃しそうだ。春闘のシーズンを受け、連日のようにベアや初任給の上昇といった景気の良い賃上げのニュースが流れるが、あくまでこれは大企業の話。大企業に勤務する人の割合は日本の就業人口の3割程度に過ぎず、残り7割は中小企業だ。
住宅価格が上昇するのに購入者の実質所得は減少する
中小企業の従業員を中心とした労働組合の中央組織「全労連」によると、今年の春闘の賃上げの平均値は8106円で、2.74%増にとどまる。25年の物価上昇率は3.1%(生鮮食品を除く)であり、物価上昇に届いていない。
日本政策金融公庫の中小企業景況調査によると、25年10~12月期の時点で、景況感を示す「業況判断DI」は2期連続で低下。中小企業にとって、賃上げをしたくても、原資がないという状況だ。
日本政府は電気やガスへの補助金やガソリン減税といったバラマキ策によってインフレを無理やり抑えている状況のため、今回のイラン情勢に伴う原油相場の上昇は消費者を直撃する。
すでに外国為替市場で1ドル160円近い水準まで円は売られており、物価上昇が加速することは確実な情勢だ。ホルムズ海峡の封鎖が続けば、住宅価格が上昇するのに購入者の実質所得は減少するということで、中間層の住宅不足が深刻化する可能性がある。
ドバイの富裕層は続々と国外へと避難
一方、中間層とは違う思惑で動いているのが、都心にある、富裕層向けの住宅だ。
麻布十番駅近くで三井不動産レジデンシャルが開発する大規模物件「パークコート 麻布十番東京 ザ タワー」はファミリータイプの3LDKで3億3000万円からという強気の価格設定にも関わらず、富裕層が殺到し、モデルルーム見学の予約が取りにくい状況が続いている。
都内に複数のタワマンを保有する不動産投資家のB氏は「世界基準で考えると東京都心の物件はまだ安い」と断言、絶対に買うつもりだという。
こうした状況に拍車をかけそうなのが、中東情勢の混乱だ。中東メディアのアルジャジーラは13日、ドバイの国際金融センターで爆発が起きたと報道した。負傷者はいなかったものの、ドローン攻撃を迎撃した際、破片が落下し外壁が損傷したという。
ここのところ、ドバイではイランによるドローン攻撃が連日発生しており、世界中から集まっていた富裕層は続々と国外へと避難している。
イランからの攻撃を迎撃できなかったことにより、国際金融センターとしてのドバイの威信は地に落ちつつある。
世界の富裕層は我先にとドバイの不動産から資金を退避
近年、ドバイの住居用不動産市場は好調な状況が続いていた。イギリスの不動産コンサルティング会社、Savillsが1月に発表したデータによると、25年のドバイの居住用取引件数は前年比18%増の20万件を突破し、そのうち未完成物件の販売が7割以上を占めるという状況だった。
ドバイの発展に懸ける形で世界中のマネーを呼び込み、1000万ディルハム(約4億3000万円)の物件が年間7000件近く販売されるなど活況を呈していたというが、これが逆回転することになったのだ。現在、世界の富裕層は我先にとドバイの不動産から資金を退避させている。
今後、仮にイランの攻撃が一時的にやんだとしても、ドバイの不動産をとりまく環境は厳しいだろう。近隣に攻撃能力を持った国が存在し、実際に戦火にさらされるというリスクが白日の下になったのだ。
イランの体制が転覆しない限り、いつ攻撃が再開されるかは分からない。B氏も知り合いに誘われてドバイ不動産への投資を考えていたが、「当面はリスクが大きい」と判断したという。
今後はアジアの国々がしのぎをけずる
ドバイから退避する不動産マネーの受け皿として、今後はアジアの国々がしのぎをけずることとなる。最も有力なのは国際金融センターとしての地位を確立しているシンガポールだが、すでにシンガポールの不動産は高値となっており、一部はソウルや東京など極東にも振り向けられる可能性がある。
港区で海外の富裕層向けに不動産を仲介するC氏は「アジアや中東の富裕層から日本の不動産に対する問い合わせがあり、関心の高さを肌で感じる」と明かす。
前述したパークコート 麻布十番東京 ザ タワーのように3億円、4億円するような物件であっても、海外の富裕層からするとお手頃価格となる。
文/築地コンフィデンシャル

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