テレビはまだまだトガっている。心に“刺さった”番組を語るリレー連載「今週のトガりテレビ」。
配信限定になった「WBC」地上波の苦境
4年に一度開催される、野球の世界一を決める大会――。今回のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、日本における「放送」と「配信」の主導権争いという側面も浮き彫りにした。
3月5日、WBC2026が開幕した。前回大会王者の日本代表(侍ジャパン)は東京ドームで行われた1次ラウンド・プールCを4戦全勝で突破。しかし、アメリカ・マイアミで行われた準々決勝ではベネズエラに敗れ、連覇はならなかった。
それでも大会の盛り上がりは凄まじく、XのトレンドはWBC関連のワードで埋め尽くされた。
しかし今大会で大きく変わったのが、日本における中継体制だ。
これまでWBCの日本戦は、TBSとテレビ朝日が分担して地上波中継してきた。ところが今大会では、アメリカの動画配信大手Netflixが日本国内の放映権を獲得。地上波テレビでの中継は行われず、試合はすべて配信で視聴する形となった。
NetflixはWBC開催に合わせ、新規登録者などを対象に初月料金を割り引く期間限定キャンペーンを展開。最安の広告つきスタンダードプランは月額498円から利用できるようにするなど、会員獲得に向けた攻勢をかけた。
俳優の渡辺謙をアンバサダー、嵐の二宮和也をスペシャルサポーターに起用。大会応援ソングにはB’zの稲葉浩志によるカバー曲『タッチ』を起用するなど、大規模なプロモーションを展開した。
さらに、前回大会までAmazon Prime VideoとJ SPORTSが中継していた日本戦以外の試合も、今大会ではNetflixがすべて配信。韓国とオーストラリアの激戦や、アメリカをあわや予選敗退まで追い込んだイタリアの猛攻など、海外勢の試合もSNSで話題となった。
一方で、この大会ではもうひとつ興味深い構図が生まれている。
中継を作るのはテレビ局だが、放映権を握るのは配信プラットフォームという構図である。
Netflixは、東京プールの国際映像制作を含む15試合の制作を日本テレビおよび制作会社の日テレアックスオンに委託。侍ジャパンのドキュメンタリー制作も日テレ側が担当している。
画面上のスコア表示やカウント、ストライクゾーン、球種、選手名などのテロップデザインも、日テレの野球中継とほぼ同じだ。実況も日テレの現役アナウンサーが担当しており、野球ファンにとっては見慣れた中継スタイルとなっている。
地上波はネトフリの下請け?
日テレは1953年の開局2日目から巨人戦ナイターを放送してきた。センターカメラやホームランカメラ、球速表示など、多くの中継技術を野球中継に導入してきた局でもある。
さらに今回は、自由視点映像を実現するボリュメトリックビデオをWBC初導入。
70年以上にわたって培われてきた日テレの野球中継技術が、Netflixの配信で活用されている形だ。
この構図に対しては「地上波はネトフリの下請け」と揶揄する声もある。
しかし、配信サービスがスポーツ中継でテレビ局と連携するのは珍しいことではない。ABEMAも2022年のFIFAワールドカップでテレビ朝日と共同制作し、全試合を生配信している。
ただし今回のWBCでは、地上波テレビ局にとって厳しい状況も生まれた。
Netflixは委託先の日テレにすら日本戦中継のサブライセンスを与えなかったため、地上波は試合映像を自由に使うことができない。
7日放送の『情報7daysニュースキャスター』(TBS系)では、安住紳一郎アナウンサーが映像使用ルールを説明。試合終了から約30分後にNetflixから映像が配信され、それを編集し、3分以内なら使用できるという。
日テレも例外ではない。WBCハイライト番組を放送しているものの、ニュース・情報番組では映像制限のため静止画との併用を余儀なくされている。
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)では、宮根誠司らがNetflixの中継を見ながら実況する様子を放送。
今大会は地上波テレビでの中継がなくラジオのみだが、テレビもそれに近い実況スタイルになってしまっている。
一方、『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)ではNetflix共同CEOのグレッグ・ピーターズ氏への独占インタビューを放送。WBC独占配信を「新規会員獲得の最高の機会」と語った。
テレビ局はWBCを盛り上げているも恩恵は……
日本のWBC放映権は、これまで東京ラウンド主催の読売新聞社を通じて地上波テレビ局が取得してきた。しかし今回はNetflixが主催者側と直接交渉し、150億円ともいわれる放映権料で全試合の独占配信権を獲得した。
中継を制作し、ニュースの報道などで大会を盛り上げるのはテレビ局。しかし放映権を握るのは配信プラットフォーム――。
今回のWBCは、スポーツ中継の主役がテレビから配信へ移りつつある現実を象徴する大会となったのかもしれない。
ベネズエラ戦後、Xのトレンドには「ネトフリ解約」という言葉も上がった。日本敗退という結果が、独占配信の思わぬ余波を生んだ形だ。
スポーツ中継の主役がテレビから配信へ移るなか、WBCが再び地上波で中継される日は来るのだろうか。
文/ノブユキ

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