「5000万円でも売れない」郊外マンション苦戦の裏側…マンションが建つ駅、消える駅の分かれ目とは
「5000万円でも売れない」郊外マンション苦戦の裏側…マンションが建つ駅、消える駅の分かれ目とは

建築費の高騰が止まらない。インフレが進む中、マンションを建てる費用を示す「建築費指数」は1月に過去最高を更新した。

こうした状況下、不動産デベロッパーは採算が見込める都心物件に経営資源を集中。都内では2億円を軽く上回るような新築物件が次々と発表されている一方、はしごを外された形となっているのは郊外のマンションだ。業界最大手のトップは「郊外のマーケットは崩壊していく可能性がある」と述べ、次なる危機の到来を予言する。

「新築マンションの建設は急激に減少している

「最も危機感があるのは郊外だ。今の工事費では供給できなくなる」「土地を買ったものの工事費で収支が釣り合わず着工を見合わせている場所もある。郊外のマーケットは崩壊していく可能性がある」

1月に日本経済新聞電子版に掲載された記事が、不動産や建設業界で話題になっている。発言の主は不動産業界最大手、三井不動産の植田俊社長だというのだから穏やかではない。

発言を裏付けるように、新築マンションの建設は急激に減少している。不動産経済研究所によると、首都圏の2025年の新築マンションの供給戸数は2万1962戸で、統計開始以来、過去最低を更新した。ピーク時から約8割減の水準で、もはや新築マンションは危機に瀕しているといっても過言ではない。

植田社長が口にする通り、マンション供給が落ち込む最大の理由は建築コストの高騰だ。一般財団法人建設物価調査会の調査によると、26年2月の集合住宅(RC造)の工事原価は前年同月比5.9%増加。2015年を100とした指数で143.2となり、過去最高を記録した。

円安に伴う建築資材の高騰に人手不足による労務費の上昇が重なり、マンションを建てるためのコストはかつてないほど高くなっている。

中堅不動産デベロッパーの社員、A氏は「ゼネコンとデベロッパーの関係は完全に逆転している」と肩を落とす。

かつて平成のデフレの時代、マンションのプロジェクトではデベロッパーがゼネコンを選ぶ立場で、ゼネコン側が安値を提示して受注を競っていた。一方、令和のインフレの時代、力関係は完全に逆で、デベロッパーが頭を下げてゼネコンに仕事を受注してもらう立場だという。

売れ残った状態が続く郊外新築マンション

また、そのゼネコンとて盤石とは言えず、サブコンと呼ばれる設備工事業者や職人をあの手この手で手配するという状況で、「これ以上、建築コストが下がる要因がない」(A氏)と断言する。

三井不動産の植田社長が懸念するように、建築費上昇が直撃するのは主に郊外のマーケットだ。例えば、1坪(約3.3㎡)あたりの建築費はかつて100万円前後だったが、現在は200万円を上回ることもざらだ。

70㎡(約21坪)の部屋を建てようとすると、建築コストだけで4000万円以上かかる計算となる。これに土地代や各種経費、デベロッパーの利益を上乗せすると、損益分岐点は5000万円を上回り、6000万円をうかがうようになる。

平均価格が1億円を超えることが当たり前となった現代の東京では6000万円と聞くと安く感じるが、郊外のマーケットは別物だ。

例えば、東京建物が埼玉県ふじみ野市で分譲している「BrilliaCityふじみ野」。最寄り駅から徒歩13分とやや遠いものの、スーパーのヤオコーが隣接し、イオンタウンまで徒歩数分、東京までの所要時間はドアtoドアで1時間強。

条件的には悪くないように見えるが、分譲開始からしばらく経っているにもかかわらず、78㎡の部屋が5000万円以下で販売されており、売れ残った状態が続く。

郊外ではインフレに賃上げが追いついていない

郊外におけるマンション販売の苦戦はデータからも明らかだ。不動産経済研究所のデータによると、25年に販売された新築マンションのうち、初月契約率が好調の目安となる70%を上回ったのは郊外では千葉だけで、神奈川は62%、埼玉は59%と、明確に売れ行きが鈍っていることがみてとれる。

対照的に、都心6区(千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷)では71%と、依然として需要に対して供給が追いついていない状況だ。

背景にあるのが、格差の拡大だ。「プラウド」を手掛ける野村不動産が2月に実施した報道機関向けの説明会で公表した資料によると、同社の顧客のうち、世帯年収が2000万円以上の比率は26.9%と、過去3年間で2倍以上に増加。株価や不動産価格の上昇という追い風もあり、都心エリアの予算は増加が続いている。

一方、賃金上昇の恩恵を受けているのはあくまで一握り。日本の企業の9割以上は中小企業であり、これらの企業の賃上げは限定的だ。特に郊外ではインフレに賃上げが追いついていない人のほうが多い。

郊外では新しいマンションが供給されないという事態

現在のような金利上昇局面において、多額の住宅ローンを背負うことに躊躇する人もいる。建築コストという原価が上昇しているにもかかわらず、販売価格には明確な上限があるのだ。

都心部では2億円近いタワマンでも分譲前に完売することも珍しくない一方、郊外のマーケットでは大手デベロッパーが分譲する大規模新築物件ですら、5000万円以下の部屋の販売に苦戦。

そのため不動産デベロッパー各社は採算が見込みにくく売れにくい郊外ではなく、価格転嫁容易な都心エリアの高額物件に集中するようになっている。

野村不動産の説明会に参加した全国紙の記者は「すでに都心にマンションを持って多額の含み益を抱えている人の住替えが増えているなど、都心エリアの話ばかりだった」と振り返る。

こうした状況下、郊外では新しいマンションが供給されないという事態が現実化するだろう。前出のA氏は「企画する際、郊外でも値上げに耐えられるエリアとそうでないエリアで分けて考えるようになっている」と明かす。

「老いた街」が首都圏各地で誕生することに

具体的には、埼玉県では浦和や大宮、千葉県では市川や船橋といった、都心へのアクセスが良く、共働きのパワーカップルに選ばれるようなエリアに絞って開発するという戦略だ。

現に、これらのエリアでは現在も数々のプロジェクトが立ち上がっており、中にはファミリータイプで1億円を超えるようなタワマンも誕生しているが、引き合いは強いという。

しかし、郊外でも少し外れたエリアでは、新規開発は難しくなっている。「これから郊外の中でも優勝劣敗が進んでいく」とA氏は予言する。

つまり便利なエリアはより便利に、不便なエリアはより不便になっていくという予想だ。特に、急行や快速が止まらない駅などでは、真っ先に開発候補から脱落するようになるという。

マンションの新規開発が止まったエリアで発生するのは、住民の新陳代謝の停滞だ。地方都市がそうであるように、子連れ世帯の新規流入が落ち込み、高齢者の比率が増えることで、街の活気がなくなっていく。

こうしたエリアでは学校の統廃合も加速するため、さらに開発候補から外れることになる。資産価値の面からも、中古価格も下がっていくこととなり、冒頭の植田社長が予言した郊外マーケットの崩壊は現実味を帯びる。

総務省の人口動態調査によると、すでに埼玉県や千葉県、神奈川県でも人口が前年実績を割るなど首都圏は人口減少局面に入っている。これまで首都圏というだけで生き残っていた自治体や駅も、決して楽観視できる状況ではない。

今後10年、20年というスパンで見ると、高齢者ばかりの「老いた街」が首都圏各地で誕生することになりそうだ。そのカウントダウンはすでにはじまっている。

文/築地コンフィデンシャル 写真/shutterstock

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