作家の又吉直樹さんと漫画家・中川学さん。就職氷河期世代としてどこか似た感覚を共有する独身の二人。
又吉さんは小説『生きとるわ』(文藝春秋)、中川さんは漫画『独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記』(集英社)と新刊が話題の二人が孤独と結婚観をめぐって語り合う。(全3回の1回目)
恋愛に踏み出せない理由
――まずは中川さんの新刊『独りで死ぬのはイヤだ』について、又吉さんの感想をお聞かせください。
又吉 すごくわかるところがいっぱいありましたね。特にそう感じたのは、女性と二人で出かけた帰り、相手のことをいいなと思ってるけど、「もう今日は早く帰りたい」ってなる場面で(笑)。
僕もわりと毎回そうなってしまうんですよ。緊張感を持ってごはんとか食べて、大きなミスをせずに終われたらもうやり遂げた感があって「早く一人になりたいな」って。同じ人と2回目に会うときに異常にパワーがいるっていう話もわかるし、思い当たる節がたくさんありました。これは僕と中川さんの世代が近いからなのか、それともそういう傾向にある人が一人でいる確率が高いのか、ちょっとまだわからないですけど。
中川 すごく嬉しいです。好きな人相手でも「そろそろ帰りたいな」ってなるとか二度見知りするとか、僕が言いたかったことを又吉さんに共感していただいて。
又吉 好きでもそうなるんが、ややこしいところですよね。
中川 そうなんですよね。
又吉 好きな人に嫌われたくないですもんね。就職氷河期って言葉も出てきますよね?
中川 出てきます。
又吉 1980年生まれなんで僕もそうなんですけど、多少そういうのは影響してるんじゃないかなと思うんですよ。僕らが子どもの頃に観てたドラマとかで繰り広げられる恋愛って、それなりに良い店でごはん食べてバー行って、おしゃれな部屋で一人暮らしして、家族といえば一軒家に住んでペット飼って車があって……って感じやったじゃないですか。
そういうものを観て育ってきてるから、自分が20歳ぐらいになったとき、そこで描かれていた“大人”とは程遠く感じるんですよね。そんな状態で自分に自信を持つのは結構難しい。恋愛に関してもそこで何かひとつ壁があったんじゃないかな、っていうふうに作品を読みながら思いました。
中川 わかります。テレビを観てると豊かな情報が流れてきて、子どものうちは「だんだん自分もこうなっていくのかな」と思うんですけど、大人になるのが近づくにつれて「なれなさそうだ」って予感がしてくるんですよね。で、いざ大人になってみるとやっぱり「あ、なれないんだ」って結果が待っていて。
又吉 「親戚の子どもにどうやってお年玉あげんねん」とか、思いますよね。
就職氷河期世代の恋愛と結婚に立ちはだかった「お金の壁」
――その頃は結婚についてはどうとらえていましたか?
中川 僕はそれどころじゃなかったですね。これは世代や時代のせいだけじゃなくて僕自身が悪い部分もあるんですけど、20代の頃はずっと職を転々としていて、とにかく自分のことで精一杯で。結婚なんてところまで考えが全然いきませんでした。
又吉 あの頃よく報道番組とかで「就職氷河期世代の人たちの初任給はバブル世代に比べてこんなに下がっている」みたいに言われてたじゃないですか。「めっちゃかわいそうやな。生まれた時代が違うだけで、能力にそんな差はないやろうし」とか思いながら観てたんですけど、自分のほうが収入ないのを思い出してゾッとしたことありましたね。そんな状況やと、結婚がどうとかってなかなかピンとこないですよね。
――出会いの場に行くのも外でデートするのも、それなりにお金が要りますもんね。
中川 漫画にも描いたんですけど、婚活パーティーに行ったとき、「男性と同額は払いたくない」って女性と小競り合いになったことがあったんです。そのときに「そうだった、そういえば昔は男のほうがお金をいっぱい払わなくちゃいけなかったよな」って、大学生の頃のコンパを思い出して。
僕は意識的に他者から離れて生きてきて、人と全然関わっていなかったのですっかり忘れてました。芸人さんはコンパをよくするイメージがありますが、又吉さんもそういう機会は結構多いですか?
又吉 僕も20代の頃は一切行ったことなかったです。先輩に呼ばれて顔出したことぐらいはあるんですけど、知らない人としゃべるのが苦手やったんで。
人におごるお金がまずなかった。2000年代初頭だと、まだ男性がおごるもんだって空気感があったじゃないですか。女性どころか、吉本興業は毎月25日が給料日なんですけど、20日ぐらいから後輩からの電話にも出なかったですからね。
留守電に「又吉さん、居留守使うんやめてもらっていいですか? 金使わん遊びしましょう」って入ってて、それ聞いてから「おぉ、ごめんごめん、ちょっと仕事やってん。公園行く?」って連絡して遊んでました。
中川 後輩から気を使われて(笑)。
又吉 そんな感じだと、やっぱり気持ち的に人と会えないですよね。
中川 でも、今は又吉さんは稼がれてるじゃないですか。
又吉 年相応の暮らしができるようになったという意味では、そうですね。
中川 今は結婚に対しては、どうですか?
又吉 もちろん目標というか、できるならしたいというのはずっとあるにはあります。でも多分また別の問題、どっちかというと自分の未熟な部分の問題があるんだろうなっていうふうには思ってますね。
惹かれやすい女性のタイプ
――アラフィフの今は、どんなときに「パートナーがほしい」と思うんでしょうか。
又吉 中川さんは、コロナで体調を崩されたのがきっかけやったんですよね? あれは切実ですよね。
中川 そうですね。ただ、「それを動機に結婚を考えるなんて」と、めちゃめちゃ評判が悪くて……。1話のあの場面で読まなくなってしまう人が結構いたみたいです。自分が助けてもらう側になるとは限らないのに、「その可能性はちゃんと考えてるのか?」とか言われてしまって。
又吉 利己的は利己的やけど、弱ってるときに助けてほしいって、普通の感覚のような気がしますけどね。自分の恋人がそう思ってたとして、「こいつ利己的なやつやな」なんて思わんけどな。「そりゃそうやろ」って思いますよ。
中川 僕の描き方が悪かったのかもしれないです。EDのこととかも描いてしまったし…。又吉さんはどうですか?
又吉 漫画の前半でちょっと自虐的に処理されてましたけど、「ときめきたい」って出てきてましたよね。僕はどちらかというと社会制度としての結婚というよりも、そっちのほうが強いのかなと思います。
だから論理も何もないんで、結婚に向かっていくための組み立て方がわからないんですけど。でも「この人かっこいい」とか「面白い」とかなると、「好き」っていう感情になっていくことが多いですかね。
中川 女性に対して「かっこいい」があるんですね。
又吉 そうですね。かっこいいとか面白いとか、そういう人に惹かれやすいかもしれないです。
中川 面白い人っていいですよね。わかります。
#2「だから俺たちは結婚できない」へつづく
取材・文/斎藤岬 撮影/井上たろう
独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記
中川学
累計5000万PV突破!(2025年12月現在)
「集英社オンライン」の大人気コミックエッセイ連載が単行本化!
デビュー作『僕にはまだ友だちがいない』がNHKで実写ドラマ化。自身のくも膜下出血体験を描いた壮絶実録漫画『くも漫。』が実写映画化するなど、常に話題を呼ぶ漫画家・中川学。
コロナ禍のある経験がきっかけとなり、年収200万円、48歳の独身漫画家が婚活に目覚めた! 「友人や知人」「マッチングアプリ」「婚活パーティー」「お見合い」……いろんな形で本気の婚活に挑む実録コミックエッセイ! その結末は?
マンガのほか、各婚活で学んだコラムや誌上お見合いのレポートなど読み物も充実。
生きとるわ(文藝春秋)
又吉直樹
公認会計士として傍目には順調な生活を送っている岡田。
しかし、高校時代の仲間だった横井と再会し、500万円を貸したことから人生が狂い始めていた。
横井は他の仲間たちにも手あたり次第借金をしていて、貸した金を回収すべく横井に接触した岡田は逆にさらなる奈落へと落ちていく。
人間の「闇」と、「笑い」を両立させた作品。

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