結婚したくないわけではないのに、誰かと近づくほどしんどくなる。自分のペースを崩せず、相手に合わせすぎて疲れ、余裕を失うとLINEの返事もできなくなってしまう――。
新刊が話題の又吉直樹さん【『生きとるわ』(文藝春秋)】と、中川学さん【『独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記』(集英社)】が、アラフィフになっても独身でいる理由をたどりながら、不器用な恋愛観と結婚できない理由を率直に語り合う。(全3回の2回目)
一人に慣れすぎて、誰かと暮らす想像がつかない
――あえてこう聞きますが、ご自身が結婚できていない理由はどこにあると思いますか?
又吉 一人暮らしが長すぎたことが原因かもしれないんですけど、自分が食べたいときに食べたいし寝たいときに寝たいし、出かけたいときに出かけたいんで、人と一緒にいてそれができないことにすごい苦痛を感じるんですよ。
たまに実家に帰ったとき、「うどん食べたいな」って思ってたのに母親が何か別のものを用意してくれてて、それが自然に出てくることにストレスを感じるようになってしまって(笑)。
「よかったら」って人から急にパンとか渡されたときも、「もらったから食べないと失礼やな」と思って食べるんですよ。でも「今日の夜楽しみにしてたのに、これ食べなあかんのか」っていうのも頭をよぎって、何%か削られる感じがあって。
結婚してる人にそういう話をすると「何言ってんすか。明日食いたいもん食えばいいじゃないですか」って言われるんですよね。そういうおおらかさというか寛容さが僕にはなくて、スーパー自己中やな、って。
中川 僕の場合は、まず相手に過剰に合わせようとしちゃうんです。それですぐに疲れちゃって。最初はめちゃめちゃ合わせるから、相手も「こんなに気が合う人いない!」ってなるんですけど、すぐに疲れてどんどんボロが出ちゃうんですよね。
又吉 わかりますわ。
中川 だから、お互いにだんだんすり合わせながら生活していく、みたいなことができないんです。
又吉 そういう経験を何度か繰り返して、一旦は「次は無理せずに等身大の自分でいこう。それで気に入られへんかったら、もういいわ」とか思うんですよね。でも結局「今度は相手に合わせたまま乗り切れるんじゃないか」「自分が成長したんじゃないか」って感覚になってまた合わせてしまって、やっぱりしんどくなる。
だから僕の場合、失恋したとき、もちろん苦しさはあるんですけど、気持ちよさもありますね。「やっと楽になれる」「ダメな自分に戻れる」みたいな。
中川 それと、ちょっとしたことですぐ心に余裕がなくなるんですよね……。そうなるともう人に会いたくなくなっちゃって、連絡も全然マメじゃなくなっちゃって。
「今のままの自分と劇的に合う人がいるかもしれない」
――『独りで死ぬのはイヤだ』でも、お見合いでいい感じになった女性にLINEを返せないまま1カ月経ってしまったエピソードがありましたね。
又吉 僕が今までお付き合いした人と別れてきた理由、ほぼそれです。大きなライブの前とか小説を書いているときとか、ほんまに余裕がなくなってしまうんですよ。書いていることにも引っ張られるし。
コントで誰かがやるようなすごいベタな作家像ってあるじゃないですか。
しかも相手から来た連絡に対して「向こうのパワーと等価のパワーを差し出さな失礼や」と思うから適当に返されへんのですよね。それで「今は無理や」ってなる。結果として、もっと失礼なことをやり続けてるんですけど。
中川 「もうちょっと待ってもらえたら、もっと良い返事をちゃんと送れるから」って思ってしまいますね。
又吉 来てすぐ返すときの“いいもの”と、1週間2週間置いてしまった後の“いいもの”だと、後者は“いいもの”の質をもっと上げていかなダメじゃないですか。ほんなら“ちょっといい”ぐらいではダメやと思って、さらに後回しになって負債が大きくなっていくような感じがしますよね。
しかもそういう仕事に追われてるときって、1カ月が体感1週間ぐらいで過ぎていってしまうんで、それで連絡できないままになってしまって。だから漫画で描いていたこと、すごいわかります。
ただ僕は、緩やかに成長してる気はいつもしてるんですよ。絶対そういうふうになるってわかってるんやったら、相手に迷惑かかるからもう一生恋愛しないほうがいいじゃないですか。でも「次こそは大丈夫や」って毎回思っちゃうんですよね。
中川 なるほど……すごいですね。僕は「次こそは大丈夫だ」とは思えないです。
又吉 「次もダメだろう」と。
中川 そう思いつつ、でも一応いってみる、みたいな感じです。
又吉 あぁ、「今のままの自分と劇的に合う人がいるかもしれない」ってことなんかな。だから恋愛しながら成長する必要がないというか。
「成長する恋愛」と「わかってくれる相手」
中川 そうですね。今日、又吉さんが「成長」って言葉を何回か出されたと思いますけど、「そういう考えなんだ」って自分を反省しました。僕は「現状の自分をわかってくれる人がいつか現れるんじゃないか」と思ってるからダメなんだな、って。成長しないとダメなんだ……成長かぁ……。
又吉 中川さんとか僕みたいに、最初は相手に合わせるからいい人そうに見えるけど余裕がなくなりやすいって、合う人がかなり難しいですよね? 「優しそうな人でも大丈夫やし、余裕なくて連絡とれなくなる人でも大丈夫」って人、いないですよ(笑)。
どっちかですよね。
中川 いや、でも今のお話を聞いて、僕よりもはるか先を行ってらっしゃるなと思いました。又吉さんはあと少しなんだろうな、って。
又吉 まったくそんなふうには感じないですよ。走り方が違うだけで、ほぼ横に並んでると思います。
中川 そうなんですかねぇ。
#3「結婚して幸せになると作品への影響は?」へつづく
取材・文/斎藤岬 撮影/井上たろう
独りで死ぬのはイヤだ 年収200万円、48歳独身漫画家の婚活記
中川学
累計5000万PV突破!(2025年12月現在)
「集英社オンライン」の大人気コミックエッセイ連載が単行本化!
デビュー作『僕にはまだ友だちがいない』がNHKで実写ドラマ化。自身のくも膜下出血体験を描いた壮絶実録漫画『くも漫。』が実写映画化するなど、常に話題を呼ぶ漫画家・中川学。
コロナ禍のある経験がきっかけとなり、年収200万円、48歳の独身漫画家が婚活に目覚めた! 「友人や知人」「マッチングアプリ」「婚活パーティー」「お見合い」……いろんな形で本気の婚活に挑む実録コミックエッセイ! その結末は?
マンガのほか、各婚活で学んだコラムや誌上お見合いのレポートなど読み物も充実。
生きとるわ(文藝春秋)
又吉直樹
公認会計士として傍目には順調な生活を送っている岡田。
しかし、高校時代の仲間だった横井と再会し、500万円を貸したことから人生が狂い始めていた。
横井は他の仲間たちにも手あたり次第借金をしていて、貸した金を回収すべく横井に接触した岡田は逆にさらなる奈落へと落ちていく。
人間の「闇」と、「笑い」を両立させた作品。

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