「初任給日本一」で応募者殺到…大卒初任給28万円超の市役所の“採用”は成功か「安定を求めて入ったのに…」大胆改革の裏で職員の半数が不満を抱く副作用も
「初任給日本一」で応募者殺到…大卒初任給28万円超の市役所の“採用”は成功か「安定を求めて入ったのに…」大胆改革の裏で職員の半数が不満を抱く副作用も

大卒初任給28万円超え――。大阪府和泉市の大胆な給与改革が、全国の自治体関係者に衝撃を与えている。

自治体としては異例の人材採用を取り入れる攻めの一手は、応募者増という結果を出した。しかし、その裏で、中堅・ベテラン職員には複雑な思いも広がる。採用成功の先にある“組織の持続可能性”とは。

“初任給日本一”は自治体採用を変えるのか

「初任給日本一」を掲げた大阪府和泉市役所が、自治体採用の常識を揺さぶっている。

2024年4月の人事給与制度改革で全国トップ水準の初任給を打ち出し、2025年4月には大卒・地域手当込みで27万50円に到達。さらに2026年度の採用サイトでは、大卒初任給は25万5800円、地域手当11%反映後は28万3938円と、ついに“28万円超え”を前面に掲げている。

和泉市が狙ったのは、単なる賃上げではなく、「給料が高い自治体」として全国に認知され、優秀な人材を集めることだった。

こうした人材採用の方針について、和泉市役所の人事課担当者は2025年4月、集英社オンラインの取材に対してこう答えていた。

「この取り組みは、実は5年以上前から内部で議論が始まっていたものです。やはり、民間企業と同じく、優秀な人材をどう確保していくかというのは、自治体としても大きな課題でした。

特に公務員の世界では、“給料が高い”ということをあからさまにPRするのは難しい部分があります。そうした中で、『初任給が日本一』という分かりやすいキーワードを掲げることで、和泉市の存在を知ってもらい、興味を持ってもらうきっかけになるのではないかと考えました。

実際には、“こういう人に来てほしい”と限定するのではなく、多様な価値観を持った人たちに応募してもらうことを期待しています。

また、将来的に2056年の市政100周年を迎えることも見据えており、先を見据えた市政運営のためにも、この制度を設計しました」

この狙いは、少なくとも入口の数字では成功している。

制度改正後、最初の採用では申込者数が前年を上回り、2024年度春採用では合計59人の採用予定に対し645人が応募した。さらに2025年春採用では、集英社オンラインの取材に対して和泉市側が、全体で47人採用予定に803人が応募し、事務職Aでは11人に対して549人、倍率49.9倍に達したと説明している。

人口約18万人規模の自治体がここまで採用市場で話題になった例は珍しく、「初任給日本一」というわかりやすい言葉が強力なPR装置として機能したことは間違いない。

一方で「半数程度の職員は不満」

しかも、和泉市の改革は、初任給だけを盛った単純なキャンペーンではない。募集時期を従来より約5カ月前倒しし、テストセンター方式の導入で全国から受験しやすくした。加えて、市内居住者への住宅手当インセンティブ、副業基準の明確化、人事評価制度の見直しなど、働き方やキャリア形成も含めて「選ばれる職場」に変えようとしている。

自治体が民間企業の採用競争に近い発想を取り入れた点に、この改革の新しさがある。前出の人事課担当者に1年ぶりに取材したが、今年度の新卒1年目職員から一定の手ごたえを感じているという。

「今年度の新卒採用者から退職者は1名出ましたが、一般的な民間企業の離職率と比べると決して悪くない数字だと思います。今後の課題としては、彼らが5年後、10年後と定着することが課題です」

だが、成果が鮮やかなほど、課題もまたくっきり見える。和泉市自身が認めているように、「高い初任給」がそのまま生涯賃金の高さを意味するわけではない。市側は「その後の昇給スピードは決して高くない」と説明し、役職につかない限り他自治体より給与水準が下がるケースもあるとしている。

実際、改革の骨格は、年功的に上がる給与カーブを見直し、役職者や評価される職員に報いる仕組みへ再配分するものだ。つまり、新卒・若手の入口を引き上げる一方で、非役職の中堅・ベテランには“もう上がらない”という現実を突きつける制度でもある。

そこに最も強い痛みを感じるのが、30代、40代、さらに50代の既存職員だろう。和泉市は労組と協議を重ね、現行給与を保障する制度も導入したが、それでも「モチベーションが下がる」という声は残った。

「実際、役所内でアンケートを行なったところ、職員の半数程度が現行給与体系に不満との回答だったという結果がでました。『安定を求めて公務員になって市役所に入ったのに…』『旧制度のほうがよかった』といった声もありました。

しかし、そうした中堅職員の原資が自分たちの給与になっていることを新卒1年目の子たちも十分理解しています。やはり、彼らがしっかり定着することが大切になってくると思います」

人事課担当者も「非役職職員の中には『もう給与が上がらないのか』という不安や不満の声があった」と認めている。

大阪・和泉市に立ちはだかる今後の課題

SNS上でも、氷河期世代や中堅層がしわ寄せを受けているのではないかとの反発が出た。新卒採用の競争力を上げる改革が、組織内部では世代間・役職間の分断として受け止められかねない構図だ。

和泉市の試みは、自治体採用の危機感を可視化した点で大きな意義がある。少子化と民間との人材獲得競争が激化する中、「安定」だけでは人が集まらない現実を、同市は真正面から認めた。

その意味で和泉市は、自治体の採用広報と給与制度改革の先頭を走っている。だが、採用の成功がそのまま組織の成功になるとは限らない。

若手を引き寄せるための大胆な一手が、中堅・ベテランの納得感を損なえば、組織全体の士気や持続性は揺らぐ。問われるのは、「初任給日本一」のインパクトの先に、全世代が報われる人事制度をどう設計できるかだ。

和泉市の挑戦は、自治体改革の希望であると同時に、その難しさを映す試金石でもある。

取材・文/集英社オンライン編集部

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