女児にエアガンを向ける同級生を注意したことで、中学校入学と同時にいじめの標的にされたという佐藤和威さん。大金を巻き上げられ、エアガンで撃たれ「クリスマスまでには殺す」と殺害予告を受けていた。
重度のPTSDと診断され、不登校を余儀なくされた
「学校側はいじめがあったことを認めはしたものの、和威にも加害者にもきちんと聞き取りを行なうことはありませんでした。発覚の2日目から連日、加害者とその保護者を連れて名ばかりの“謝罪”に訪れては、校長先生が生徒に『早く謝れ』と言うだけ。加害者の親御さんの中には、『お前の子どもが悪い』と激昂する人もいて、これのどこが謝罪なのかという気持ちにもなりました」(和威さんの母親)
和威さんも当時の心境をこう語る。
「加害者たちからは『いじめがバレたら母親や妹に危害を加える』と言われていたので、パニックに陥ってしまって。謝罪に来る加害生徒と顔を合わせないよう、2階の部屋に籠るしかありませんでした」
謝罪に訪れる加害生徒から母親が聞き取る中で明らかになったいじめに関わった生徒の数は、およそ13名。クラスの男子生徒が15、16名ほどだったことから、クラスメイトのほとんどが大小の差はあれど、何らかの形でいじめに関わっていたことになる。
母親からの通報と被害届を受けた警察も加害者に対して聞き取りを行なっており、その結果、主犯格5名が児童相談所へ通告されている。
学校側はこうした加害生徒に対し、部活動の参加停止や別室登校、「更生プログラム」を実施するなどの対応を実施。
一方の和威さんは、いじめ発覚後からフラッシュバックに悩まされるようになり、主治医から重度のPTSDと診断され、不登校を余儀なくされた。和威さんの症状は進級しても改善することはなく、学校に行けない状態が続いた。
「いじめ防止対策推進法」が施行されたのは、まさにその最中のことだった。和威さんの代理人弁護士の辰巳裕規氏が解説する。
「いじめ防止対策推進法は2013年9月に施行されました。この時点ですでに和威さんへのいじめは終わっていましたが、いじめの影響による和威さんの不登校は続いていました。
和威さんの受けたいじめは『重大事態』に該当し、第三者委員会を設置、調査しなくてはならない事案でしたが、鳥栖市は和威さん側の要望を認めず、代わりに調査権限のない『いじめ問題等支援委員会』を設置するに留まりました」
いじめ防止対策推進法では、生命・心身・財産に重大な被害が生じた疑い、または相当期間(目安30日)の不登校を余儀なくされた疑いがあるケースを「いじめ重大事態」とし、学校や教育機関に対し、速やかに調査組織を設け、事実関係を調査することを義務づけている。
和威さんの事案はこの要件を満たすはずだが、その後も鳥栖市は「重大事態」の対象と認定・調査をする姿勢を見せず、学校側の責任についても「気づくのは不可能だった」と否定するばかりだった。
中学の校長が裁判で「エアガンはデコピン程度の痛み」と主張
和威さんはこうした市の態度について、「きちんとした対応ではない」と感じ、卒業後の15年に元同級生8人と保護者、鳥栖市を相手取り約1億2800万円の損害賠償を求める裁判を開始した。
「裁判で驚いたのは、中学の校長が『エアガンは撃ち合いごっこ』に使われるもので、当たってもデコピン程度の痛みしか感じずケガをしないと主張してきたことです。
裁判資料として、校長が弁護士の背中にエアガンを撃つ写真も提出されましたが、そもそもエアガンを人に向けて撃つこと自体が問題です。それに僕が向けられたエアガンは改造されていて、厚手の生地のジャージを着ていても、強い痛みを感じていました」
2022年7月に確定した判決では、相手側の不法行為の大部分が認められ、元同級生8人に合計約400万円の支払いが命じられたが、鳥栖市の責任やいじめによるPTSDの発症は認められなかった。
和威さんはこの判決に、今も疑問を抱き続けている。
「いじめは学校の教室の中で、日常的に行われていました。当時、僕は加害者から給食をほとんど食べさせてもらえない状況でした。
先生が『給食を取るのはダメ、でも交換ならいい』と言うので、加害者は僕に嫌いなものだけ押しつけ、ほとんどの給食を奪っていった。
現在、僕は過食を繰り返して、中学時代から20キロ以上体重が増えてしまいました。『食べさせてもらえなかった』過去を忘れるためには、食べるしかないんです」
「僕はただ、佐藤和威を取り戻したい」報告書の受け渡しは3月26日
PTSDについては、当時の主治医が国際的に評価が高いPTSD症状評価尺度によるテストを複数回実施。いずれも高い点数が表れたため、重度のPTSDと診断した経緯が裁判の陳述書にも示されていたが、認められなかった。
しかし高校時代の教師は、後遺症に苦しむ和威さんの様子を、裁判に提出した書面にこのように書き記している。
《1年生の教室が5階にあり、窓側に寄せていた机といすに上り飛び降りようとし、教員がとめた》
《空き教室にいて「どうしたの?」と聞くと、「ひとりでいるとわからなくなる。大勢の『死ね』という声が聞こえる」と、顔面蒼白で震えているときもありました》
不満の残る結果となったものの、この裁判の判決を受け、鳥栖市教育委員会は22年末、11年越しに和威さんの事案を「重大事態」と認定し、23年に調査委員会を設置。
和威さんはこれを受け、「佐藤和威を取り戻すため、こういう被害を少しでも減らすためにも、機会があれば自分なりに声を上げていきたい」と語っていた。
それからおよそ3年、報告書の受け渡しを前に、今もその気持ちは変わっていない。
「僕はただ、佐藤和威を取り戻したい。
あの時何があったか、僕はどうしたらよかったのか。本当に、学校や市に責任はないのか。その答えが出ない限り、前には進めない」
和威さんの代理人を務める辰巳弁護士も、こう語る。
「学校がいじめをなぜ早期発見できなかったのか、あるいは発覚後に学校が行なってきた対応は適切だったのか。今後、同じような事件が起こることを防ぎ、今も苦しむ和威さんとそのご家族の救済に資するような報告書が提出されることを願っています」
報告書の受け渡しは3月26日、鳥栖市役所で行なわれる。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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