「普通の会社を目指すのであれば消えてなくなればいい」元幹部が語った、ホンダが直面する危機
「普通の会社を目指すのであれば消えてなくなればいい」元幹部が語った、ホンダが直面する危機

かつてF1プロジェクトを立て直し、ホンダに30年ぶりとなるタイトルをもたらした元ホンダ技術者の浅木泰昭氏。尖った才能を持った変わり者を組織の中でどう活かしていくのか?

浅木氏の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』から一部を抜粋、編集してお届けする。

優秀な人間と変わり者はセット

私は、優秀な人間と変わり者はセットだと考えています。変わり者を全部潰してしまうと効率がよくなるように思えるかもしれませんが、私の実感では、そんな風にはなりません。

変わり者を根絶やしにすると、会社にとって欠かすことができない優秀な人間も潰してしまいます。

かつてのホンダには変わり者がいっぱいいました。こだわりが強くて、周囲を気にせず、ひとつのことだけをとことん突き詰めていくような尖った人間が本当に多かった。

それがだんだん排除されて活躍できなくなっていき、ホンダがホンダらしくなくなってきたように感じます。まだぎりぎり残っていた人間がF1やN-BOXの開発でも助けてくれました。彼らがいなかったらプロジェクトを成功に導けませんでした。

私がF1パワーユニットの開発総責任者を務めていたときに設計担当でシミュレーション作業の能力がとても高い人間がいました。

なぜ壊れるのかわからないところや、どう直していいのかわからないところをシミュレーションで発見して、すぐに直してしまうのです。ホンダのパワーユニットは高い信頼性を誇っていますが、彼がいなかったら直せなかったところがたくさんあります。

その彼は、能力は高いのですが、コミュニケーションが下手で上司に嫌われ、隅っこに飛ばされていました。彼が上にいろいろと提案するのですが、「お前はこれをやっていろ」と重要じゃない仕事を回され、出番が極端に少なかった。



私にいわせれば、その上司のほうがレベルが低い。特に成果を自分のものにしたがる上司にとって、彼はうとましい存在だったと思いますが、私は何度も助けてもらって本当に感謝しています。

軽自動車のN-BOXで一緒に仕事をしたある人はもっと変わっていました。彼は開発チームではコンセプトづくりなどを中核になってやってくれたのですが、それまではどこのチームでも浮いてしまってうまくいっていませんでした。

この人間は忖度せずに思ったことをなんでも口にしますし、誰に対しても「なんでこんなことがわからないんだ」という態度で接していました。

本人は相手をバカにしているわけではなく、どっちが上とか下とか主張しているわけではないのです。一生懸命に自分の提案するアイデアのほうがいいと主張しているだけなのですが、そんな態度なので同僚や部下には相手にされない。

上司をおだてたり持ち上げたりすることもできないので、言われた上司が「なんだコイツは、お前は自分のほうが上だと思っているのか」と感じて、遠ざけていたのです。

「尖った変わり者が出世できる制度」を

そういう人間は高い能力があっても周囲とうまくコミュニケーションを取れないので出世もできない。今でもホンダを含めた多くの日本の大企業では管理職になることが出世です。

つまり技術やセンスだけはあるけれど、人の管理や組織のマネージメントができない人間が大きな舞台で活躍できるストーリーは、日本の会社にはほとんどないのが現実です。

最近では、尖った才能を排除することが損失になると企業も気がつき始めて、マネージメントしている人間よりも高い給料をもらう技術者が一部では出てきていますが、まだ日本では多いとはいえません。

「尖った変わり者が出世できる制度」を早くつくって導入していかないと、これからの日本の会社は本当に苦しくなると思います。



尖った才能を持った変わり者を組織の中でどう活かしていくのか、というテーマはこれからの日本の企業にとって重要だと思いますが、それを実現させるのは本当に難しいと思います。

世の中を変えるような商品を生み出そうとすれば、協調性がある人間だけではダメなのはわかっていますが、周りと全然付き合えない変わり者ばかりでは組織として成り立ちません。そこをどう調整してマネージメントするのか、というのは普遍的なテーマとしてあります。

でも、そういう変わり者を引っ張っていったり、活かしたりするリーダーが必要ですし、かつては存在していたんじゃないかと思います。本田宗一郎さんはまさにそうだったと思います。

ホンダは変わり者のリーダーが変わり者の技術者たちを引っ張っていって、ベンチャーから大企業になった数少ない会社です。今のホンダの人たちは、そういうことを忘れているのではないかと感じることがあります。

ホンダが直面する危機

ホンダは危機に直面していると思います。定年前からホンダがホンダじゃなくなるんじゃないかと心配していました。

変な自信がある変わり者が世の中を変える商品を出すからこそ、初めてホンダという会社の存在意義があります。そうじゃなく「普通の会社」を目指すのであれば消えてなくなればいいと思っています。

儲けることで企業の価値を上げ、株価を上げ、アナリストやエコノミストも評価するというのが普通の会社です。そういう会社を目指すのであれば、経費は削減したほうがいいに決まっています。



だから営業系の人間や経済アナリストたちは、F1はやめてしまえ、ホンダジェットはやめてしまえ、ASIMO(アシモ)はやめてしまえと口々に言います。全部やめて普通の会社になれと言うのです。

F1、ホンダジェット、そしてアシモのようなロボット部門はホンダの中では儲からない部門のトップ3です。事業から見ればレースやアシモは損益ですし、ホンダジェットは将来的には利益を生むと思いますが、今のところあまり儲かっていません。

経費として重くのしかかっている事業に対して、収支を計算している人たちは反対します。それは当たり前ですが、普通の会社になって、果たしてホンダが今後、生き延びていけるのかということを考えないわけです。無駄な経費を減らして、計算上儲かる車だけをつくっていれば普通になるじゃないかと彼らは主張します。

言葉は悪いですが、私からすればバカじゃないかと思います。まったく同意できません。コストや経費を削って売れる車だけをつくって利益を上げることは、ホンダが一番下手なところじゃないかと思っています。それにホンダからF1やジェット、アシモがなくなったら、どういう存在価値があるのか。

世界一や世界初を目指さず、儲かることを第一に考える普通の会社になることを経営陣が選ぶならば、ホンダに変わり者は必要ありません。


それは仕方がないですが、じゃあホンダはどこで存在価値を見出していけるのですか? 普通の会社は世の中に山のようにあるのに、その中に埋もれてなんの取り柄もない会社になってしまうのではないですか? というのが私の主張です。

普通の会社を目指す風潮が強くなってきたことで、尖った才能を持った変わり者がだんだん排除されて活躍できなくなっていき、社内の雰囲気が変わってきているように感じます。

私が入社した頃は「変な人間、わけのわからない人間を採用しろ」と言われていた時代なので、実際に社内にはこだわりの強い変な人間がいっぱいいました。ところがリクルート的にだんだん人気が出てきて、学歴の高い、普通に優秀な学生がたくさん入ってくるようになってきました。

それに伴い、採用側の方針も変わってきたような気がします。どうせなら変わり者よりも、優秀で、頭がよくて、常識のある学生を採用するようになってきました。それが10年も続けば、そういう社風になってきます。おそらく今、私が現役の学生だったら、ホンダに入社できないと思います。

ホンダは、変な人間たちが常識にとらわれず無謀な挑戦を繰り返して、世界一になったり、世の中にないものをつくり出したりして成長してきた会社です。

それがホンダの存在意義だと私は信じています。ホンダの原点を忘れてほしくない、これからも変わってほしくないと思っています。

構成/川原田 剛

危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦

浅木 泰昭
「普通の会社を目指すのであれば消えてなくなればいい」元幹部が語った、ホンダが直面する危機
危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦
2024年3月26日発売1,760円(税込)四六判/256ページISBN: 978-4-7976-7445-3

F1最強パワーユニットと軽自動車「N-BOX」を
生んだ、稀代のエンジニアによる
唯一無二のリーダー論!

ホンダに30年ぶりのF1タイトルをもたらしたパワーユニット開発の陣頭指揮を執り、9年連続で軽自動車販売トップを独走するN-BOXの生みの親でもある元ホンダ技術者が、プロジェクト成功の真の舞台裏を明かす。



第2期F1時代の奮闘エピソード、ホンダ創業者・本田宗一郎さんとの思い出、初代オデッセイ、N-BOXの開発秘話、どん底からのF1プロジェクト立て直し、F1復帰に向けた「蜘蛛の糸作戦」の全貌、アストンマーティン・ホンダの勝算など。

芸能界随一のF1ファン、堂本光一氏との
スペシャル対談も収録!!

〇目次
第1章 ホンダ入社と第2期F1 世界トップの現場で得た教訓と自信
第2章 V6エンジン開発と初代オデッセイ 閉ざされた出世の道と技術者人生最大の危機
第3章 N-BOXがヒットし続ける理由 コストではなくコストパフォーマンスの勝負
第4章 定年半年前に再びF1へ ホンダの未来のために若手に何を残せるか
第5章 F1復帰への「蜘蛛の糸作戦」 リーダーに不可欠な成功のためのストーリーづくり
第6章 F1の未来とホンダの新たな挑戦 アストンマーティン・ホンダは勝てるのか
第7章 ホンダの存在価値と日本の危機 尖った才能を持った変わり者を組織の中でどう活かすか
スペシャル対談 堂本光一×浅木泰昭 なぜホンダはF1で再び世界一を獲れたのか?

編集部おすすめ