WBCでネトフリ史上最多「1790万人」視聴、単一タイトルで国内最多…配信全盛でも地上波テレビが最後まで強みとなる“武器”とは
WBCでネトフリ史上最多「1790万人」視聴、単一タイトルで国内最多…配信全盛でも地上波テレビが最後まで強みとなる“武器”とは

ついにここまで来たか――。Netflixが公表したワールド・ベースボール・クラシック2026(WBC)日本戦の視聴データは、「スポーツ中継」の放送を独占してきたテレビ業界に大きな衝撃を与えた。

 

3月25日のNetflixの報告によると、8日の侍ジャパン対オーストラリア戦は、日本国内で1790万人が視聴。Netflixの日本における単一タイトルとして史上最多を記録したという。ドラマでも映画でもアニメでもない。国民的スポーツの一戦が、配信サービスの歴史を塗り替えたのである。

スポーツ中継の変革…それでも地上波テレビに残された強み

日本国内で1790万人が視聴ーーこの数字が衝撃的なのは、単なる“大ヒット”で片づけられないからだ。

これまでNetflixは、日本国内で個別作品の細かな通算ランキングを地上波の視聴率のようには常時公表してこなかった。だが、今回わざわざ「史上最多」と打ち出したこと自体、同社がこの記録を別格と見ている証拠だろう。

つまりWBCは、配信でも「国民的同時視聴」が成立し得ることを証明したのだ。

もちろん、Netflixはこれまでも日本発コンテンツで結果を出してきた。公式に発表された近年の作品の中では、映画『シティーハンター』が2024年上半期に1600万ビューと世界的ヒットとなり、『地面師たち』が2024年下半期に1200万ビューを記録している。

だが、これらはあくまで見逃しても“あとからいつでも見られる”作品だった。今回のWBCは違う。スポーツ中継は、その瞬間に見なければ熱が逃げる。

だからこそ、これまで地上波テレビが主軸となっていた。ところが、その牙城にNetflixが真正面から踏み込み、しかも結果まで出してしまったのである。

テレビ関係者が戦々恐々とするのも無理はない。今後、「スポーツ中継」において放送業界では何が起きるのか。在京キー局のディレクターが言う。

「まずひとつは、スポーツの放映権争奪戦はさらに過熱するでしょう。例えば、直近で控える大きなスポーツ興行として5月2日に東京ドームでボクシングの井上尚弥 vs 中谷潤人があります。これはNTTドコモが運営するLeminoで生配信されます。

配信大手は広告収入だけでなく、会員獲得や解約防止まで見込んで大型投資ができますし、地上波より資金もケタ違いなので放映権争奪戦になれば地上波は相手にならないでしょう。

さらに、地上波の役割そのものが変わる可能性があります。試合そのものの放送権を押さえられないなら、速報、舞台裏、独自解説、特番といった“周辺戦”で勝負するしかない」

そして、視聴者の習慣の変化も見過ごせない。テレビの前で放送開始を待つ時代から、アプリで通知を受け、見逃しも関連映像も一気に回遊する時代へ。

主役はもはや「チャンネル」ではなく「プラットフォーム」になりつつある。

「テレビか、ネットか」ではなく、誰が熱狂を設計するのか

もっとも、地上波にはまだ強みがある。無料で誰でも見られること、災害報道や速報での公共性、年配層を含めた到達力は依然として大きい。だが、それでもWBCの1790万人という数字は重い。視聴者が「配信はライブに弱い」という先入観を捨てた瞬間でもあるからだ。

Netflixの今回の記録は、単なるスポーツ中継の成功ではない。テレビ局が長年握ってきた「みんなで同じ瞬間を見る」という特権が、ついに配信へ移り始めたことを示す警告灯だ。WBCをきっかけに、地上波の“聖域”はどこまで崩れるのか。テレビ界は今、静かに、確実に、正念場を迎えている。

しかし、危機感はある一方で『放送の終わり』とは見ていない。前出のディレクターが分析する。

「2022年のサッカーW杯でのAbemaの全試合生中継や今回のNetflixのインパクトは確かに強いですが、それでもテレビは依然として接触時間の長いメディアではあります。

2025年調査(東京都15~69歳対象)でも1日あたりの接触時間は122.1分とまだ大きい。さらに民放はすでにTVerなどを通じて配信側にも回っており、同じ2025年調査の利用率は59.7%、テレビ画面での見逃し視聴も50.0%に達しています」

さらに、テレビ広告もデジタル化が進み、放送と配信を一体で売る体制づくりが進んでいる。つまりNetflixのWBC成功は脅威ではあるが、テレビ局にとっては「放送の終わり」ではなく、「自分たちも配信を含めて稼ぐ構造へ移る転機」と映っているのだ。

配信がライブ視聴の主役になりつつある今、問われているのは「テレビか、ネットか」という古い二項対立ではない。視聴者がその瞬間をどこで受け取り、誰が熱狂を設計するのか――勝負の軸そのものが移り始めているのだ。

WBCで示された1790万人という現実は、テレビに終わりを告げる数字ではなく、次の時代のルール変更を告げる号砲なのかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部

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