「替天行道(たいてんぎょうどう)の旗が揚がった」俳優・木村達成が語る、腐敗した国家に立ち向かう『水滸伝』好漢たちの生き様
「替天行道(たいてんぎょうどう)の旗が揚がった」俳優・木村達成が語る、腐敗した国家に立ち向かう『水滸伝』好漢たちの生き様

「替天行道(たいてんぎょうどう)」とは、北方謙三の古典小説『水滸伝』で梁山泊の好漢たちが掲げたスローガンだ。腐敗した政府や悪徳官僚たちを庶民たちが倒す、つまり「天に代わって正義を行う」という意味が込められている。

巨大な国家への反逆劇を描く北方版『水滸伝』を読むのは、現在ドラマに出演中の俳優・木村達成さん。

現代のどこかの国と同じように腐敗した政府、それらと戦う好漢の生き様をどう読んだのか?二巻の感想を中心にお届けする。

「替天行道(たいてんぎょうどう)」の旗が揚がった

ーー二巻はどうでしたか。

やっとというか、水面下で動いていたものがようやく表に出てきて、いよいよ戦いが始まったという感じですね。

先日、ドラマの撮影で初めて「替天行道」の旗を見たんです(インタビュー時はドラマ撮影中)。巨大な宋という国に立ち向かおうとしている男たちが「替天行道」という言葉を胸に、旗の下に集まって決起する。胸熱でしたね。見ていてゾワゾワしました。

二巻もまさに「替天行道」にまつわる話が多く、最後まで一気に読んでしまいました。

ーー二巻の冒頭は武松(ぶしょう)の物語ですね。

そうですね。虎を素手で倒した男、武松。面白かったのは、手がとんでもなくでかいというところです。

「夜ごと、何千回も大木を殴り続けるので、武松の拳はいつの間にか人間のそれとは思えないようになっていた。色は黒く、皮は厚く、石を叩き割っても血が出ることがなかった。」
(北方謙三『水滸伝』第二巻「替天の章」集英社文庫 p.21)

実際に撮影でも武松(演:伊藤健太郎)の手がすごく大きいんですよ。グローヴをはめているんですけど、超リアルで本物みたいなんです。

ーー二巻では、武松がどういう人間か、かなりのページ数を割いて描いていますね。

武松と潘金蓮(はんきんれん)のくだりが印象に残りました。武松は潘金蓮 のことが初めて会った子供の頃から好きで好きで好きで仕方がなかったのに、お兄ちゃんと結婚してしまった。その思いが悪い形で爆発してしまうという悲劇なんですけど、とにかく抱きたかったという思いとその表現がストレートなんです。

「俺を、愛してくれ、潘金蓮。愛すると言ってくれ。俺は、その言葉だけを欲しくて、生きていたような気がする」
(北方謙三『水滸伝』第二巻「替天の章」集英社文庫 p.40)

武松はかなりすてきな役どころだなと思いました。

謎の公孫勝が率いる致死軍(ちしぐん)の魅力

ーーほかに好きなキャラクターはいましたか。

公孫勝(こうそんしょう)が好きですね。

ーー二年間、地下の牢獄につながれていて肌が白く、感情が顔に出ないクールな公孫勝ですね。

何考えてるのかわからなくて、かっこいいんですよね。顔が真っ白で、外の光がまぶしいから目が開かない。ドラマだとサンバイザーみたいな兜をかぶってるんですよね。まぶしいからって。

ーー公孫勝が率いる致死軍という部隊がまたかっこいいですね。厳しい訓練を受けた精鋭部隊。

致死軍も好きですね。闇に紛れて行動して、相手を奇襲して、攪乱する。サイレントキリング的なね。SWAT(スワット)ですよね。特殊部隊。

ーー無表情で何を考えているか分からない公孫勝が、そういう致死軍を率いている。

不気味なまでに強い。

文章だけで読んでいると、公孫勝はいつかどこかで梁山泊(りょうざんぱく)を裏切って反乱を起こすんじゃないかと思ってしまいますよね。何を考えているか分からないから。

ーー謎ですよね、この人。死に場所を探しているというか、自分の命を軽んじている。

何かあったような気がしますね。二年間、地下の牢獄にいたからかもしれない。二年も陽(ひ)の光を浴びてなかったら、人間、壊れますよ。でも、牢獄での公孫勝の過ごし方がちょっと面白いんですよね。牢の中で、裸で転げ回って肌を丈夫にしたり、頭で逆立ちしたり。

ーー木村さん、一巻で鮑旭(ほうきょく)に嫉妬するって言っていましたけど、二巻ではジェラシーはどうでしたか。

史進の出番は少なかったですが、少ない登場シーンだけでも胸アツな感じになっているから、今回はあんまり嫉妬はしなかったですね。

でも致死軍にはちょっと嫉妬かな。クールな精鋭という感じがして。史進は猪突猛進過ぎるから。

ーー隠れていられない。

そうそう。うわーって行っちゃうから。史進のような目立つ猛者(もさ)がいるからこその、影に隠れた致死軍なんでしょうけど。

史進は体格も良いし、タトゥーも目立ち過ぎるから、影の軍にはなれませんね。

そう。だから、致死軍にはやっぱりちょっとジェラシーかな。かっこよすぎますよ。

梁山湖の山寨(さんさい)で晁蓋と王倫(おうりん)が対決

ーーほかに印象に残ったシーンは?

晁蓋と、やがて梁山泊になる、梁山湖の山寨を仕切っていた王倫との最後の駆け引きも面白かったですよね。

世の中を正そうとしていた王倫が堕落してただの盗賊集団の頭目になったところに晁蓋たち七人が乗り込んでいって、入れるか入れないかという駆け引きになるんですよね。

ーー王倫が側近たちとどうするか話し合う

側近は杜遷(とせん)と宋万(そうまん)。でも実は王倫を見限っていて、しかもそこに林冲(りんちゅう)が潜入していて、いいタイミングで動くんですよね。

いきなり王倫を殺すと、ただの反乱として兵たちからまた敵として見られてしまう。だから、王倫がどうするかをみんなが見ているところで実行するというのが、すばらしいなと思ったんです。映像だと、どうなってるんだろうなって気になりますね。

ーー二巻の史進はどうですか? 公孫勝救出作戦に参加して晁蓋(ちょうがい)の前でいいところを見せました。

晁蓋とともに公孫勝が囚われている牢城を解放するんですけど、史進はナイスな立ち回りをしているんですよ。史進はめちゃくちゃ強い。初めて史進の戦いぶりを見た晁蓋が「得をしたな、私は。

宋江(そうこう)より先に、九紋竜(くもんりゅう)を見ることができた」(p176)って言うんですよ。九紋竜っていうのは史進が背中に入れている刺青で、史進のあだ名でもあるんです。

このセリフ、ドラマでも晁蓋に言わせたかったですね。ドラマにはないんですよ、残念なことに。

ーーその後の史進と晁蓋とのやりとりもいいですね。

晁蓋に戦に加わらないでくれと言うんですよね。自分たちが死んでもいいが、晁蓋は違うと。でも晁蓋は「私が死んでも、宋江がいる。宋江が死んでも、必ず別の者が出てくる」と言う。その言葉に史進が驚くんですよ。「もっと上から命令されるのだろう、と思っていました」って(p178)。その次の晁蓋のセリフがいいんですよね。

「そういう命令の中で、いろいろなものが曲がっていったのが、いまのこの国の姿ではないか、史進。私は、そう思っている。よいか。男は、自ら闘うことの意味さえわかっていればいいのだ。死んで悔むのは、その意味がわかっていない時だけだ」
(北方謙三『水滸伝』第二巻「替天の章」集英社文庫 p.179)

ドラマでは存在しないシーンなので、読んでいて悔しかったですね。「え、待って。史進、原作ではめっちゃ活躍してるやん」って。

「ふり返り、一騎だけが斜面を駈け降りてきているのを、晁蓋は眼で捉えた。その一騎が、三百五十騎を威圧していた。九紋竜史進の鉄の棒が、五騎十騎と薙ぎ倒していく」
(北方謙三『水滸伝』第二巻「替天の章」集英社文庫 p.182)

「何でや、俺も出してや」と思って。でも、この場面を読んであらためて僕は史進が好きだなと思いましたね。

一巻のときはまだ王進(おうしん)先生に育てられていた史進が、ようやく成長して、戦で活躍する場面は爽快でした。そして周りからすごく頼られるようになった。あいつはまだ未熟だけど、ブレーキ役の朱武(しゅぶ)と一緒なら大丈夫だ、みたいな感じで、晁蓋たちに受け入れられているんですよね。

ーー腕自慢と策士とが組んで成功していくという。話は変わりますけど、そもそも木村さんは『水滸伝』にどんなイメージを持っていましたか。

正直に言うと、僕が中国の時代もので知っているのは『三国志』くらい。小学生の頃に学校の図書館にあった漫画を読んで、同じ時期に『真・三國無双』という『三国志演義』のゲームが出たことをよく覚えていますけど。

──北方さんも『水滸伝』の前に『三国志』を書いていますね。
木村 そうなんですね。『三国志』は魏(ぎ)・呉(ご)・蜀(しょく)という三つの国同士の戦いじゃないですか。『水滸伝』は各地の腕自慢が立ち上がって政府の悪を正すみたいな話だから、人が集まって政府を敵に回すまでにどうしても時間がかかりますよね。誰と誰がどうつながって、どう動いていくのかが複雑で。でも、二巻になって少しずつ形が見えてきて、この先どんどん面白くなってくるなと思いました。

聞き手・構成/タカザワケンジ

北方謙三「大水滸伝」シリーズ公式サイト
https://lp.shueisha.co.jp/dai-suiko/

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