「卒業式に着物ママはアリ?」SNSで炎上…“主役より目立つ”批判に専門家の答えは
「卒業式に着物ママはアリ?」SNSで炎上…“主役より目立つ”批判に専門家の答えは

卒業シーズンを迎え、各地で子どもたちの門出を祝う卒業式が行なわれた。そうした中、ある保護者が「着物で子どもの卒業式に出席した」とXに投稿したところ、「主役である卒業生より目立つのではないか?」といった声があがり、賛否両論が巻き起こっている。

保護者や着物専門店への取材から、卒業式における着物マナーを探る。

「主役は卒業生」「子どもの時も母は着物で卒業式に出てた」SNSには賛否両論

卒業式に保護者が着物を着るのはアリなのか、ナシなのか。この問題をめぐりSNSでは、

「卒業証書授与式の主役は卒業生」
「卒業式に着てくるなら色や柄は考えないのかしら」
「私の子どもの時も母は着物で卒業式出てました」
「卒業式に着物着ただけで承認欲求が!とか言われたらたまらない」

といった賛否両論が巻き起こっている。

3月下旬に小学生の子どもの卒業式に参列したという、ある母親も着物で出席した一人だ。

「私は美容師で着付けを担当する仕事をしており、母方の家系が着物に携わる職業が多いため、冠婚葬祭ではいつも着物で参列しています。

卒業生は100名ほどで、保護者の中で着物の方は4、5名でした。私は入学式も含めていろいろな場面で着物を着ているので、子ども自身は慣れていると思います。

ただ、他の保護者からは『きれい』『スゴイ』などとお声がけをいただいたので、着物に対して『見慣れない』『自分は着ない』という認識があるのかもしれません」

また、小学生の子を持つ、ある父親も自身の体験を次のように話す。

「うちの子は公立小学校ですが、入学式で着物を着ている保護者がいると『あのお母さん、ちょっと…』といった声が聞こえてきましたね」

この保護者らの話にもあるように、近年は着物を着る機会そのものが減っており、その結果として着物姿が目立ちやすくなっている側面がある。

経済産業省が公表している資料「和装振興に向けて」では、和装業界の現状について「戦後の洋装化により、きもの需要が減少していく中で販売額は減少傾向」と説明。

ネット通販の割合が増加してきているものの、着物市場は厳しい状況に置かれている現状がある。

そもそも、子どもの卒業式で保護者が着物を着ることはマナーとしてはどうなのか?

きものや宝石等の販売事業を行なう「さが美」の担当者は次のように話す。

「近年、お祝いの席で着物をお召しになる方が減っている背景もあり、着物姿が周囲の目を引きやすくなっているというお声は理解できます。

同じ訪問着でも、色や柄の選び方によって全体の印象は大きく変わるのも事実です。

しかしながらマナーの観点から申し上げますと、卒業式という式典にふさわしい格の着物をお召しになること自体は、決してマナー違反にはなりません。むしろ式典の厳粛さを重んじるにふさわしい衣装であると考えております」

そのうえで重要なのは「主役を引き立てる」という視点だと同担当者は言う。

「お祝いの気持ちを込めつつ、『主役のお子様を引き立てる装い』を意識していただくことが何より大切です。柔らかい色合いでまとめたり、着物の種類を工夫したりすることで、派手な印象は十分に抑えられます」

「明確な線引きは難しく、感じ方には個人差がある」

では、着物を選ぶにあたって、どのような点に注意すべきなのか。

同担当者によれば、卒業式に保護者が着物を着る場合、一般的には「略礼装(準礼装)」に位置づけられる「訪問着」や「付け下げ」に礼装用の袋帯を合わせるのが主流であり、祝いの席に最適な装いだという。

また、幅広いシーンで着用できる利便性から「色無地」(柄のない黒以外の着物)を選ぶ人も多いと話す。

「着物選びのポイントとしては、ご自身に似合うお色味でありつつ、『主役であるお子様が引き立つコーディネート』を基準にお考えいただくのがよろしいかと思います」

いっぽう、「華美すぎる」とされる装いについては「明確な線引きは難しく、感じ方には個人差がある」と話す。

「着物は洋装のスーツ等に比べてどうしても華やかな印象を与えやすいため、色使いや柄選びで全体のバランスを取ることが重要です。

具体的には、柄の面積が広いものや多色使いのもの、金糸の刺繍や金彩が多く施されたものは、豪華で華美な印象になりやすい傾向があります。

控えめな印象にしたい場合は、比較的小さい柄のものや、同系色でまとまったデザインを選ぶと良いでしょう。

柄行きの感じ方がご不安な場合は、『色無地』をお選びいただくことで、確実に華やかさを抑えることができます。

帯についても同様に、柔らかいお色味のものや、白・オフホワイト系(銀糸を含む)の帯が控えめでおすすめです。

帯に織り込まれた柄も、強い色調のものではなく、全体的に柔らかいトーンの柄付けを選ぶと上品にまとまります」

着物文化の衰退に業者は危機感「政治が動かないと無理」

着物の宅配レンタルを行なう「京都のかしきもの」の担当者も、着物選びのポイントについてこう話す。

「訪問着などの中には原色に近いものもあり、色味が濃すぎるような色柄は保護者という立場の場合はあまり好ましくないかもしれません。

帯についても、金帯は卒業式等のおめでたい場には相応しいですが、柄が大きかったり、金糸がふんだんに使用されたものはどちらかというと結婚式向けで、卒業式では悪目立ちしてしまうかもしれません」

着物とモーニングのレンタル専門ネットショップ「マイセレクト」の担当者も、「華やかさに関しては『抑えたほうが無難です』とアドバイスさせていただいております」としたうえで、「着物の着方は時代によって変化するもの」だと指摘する。

「昭和30年から50年あたりは、訪問着ではなくて色無地や小紋の上に黒の絵羽織を合わせるスタイルが一般的で、ほとんどのお母さま方は着物で(卒業式などの行事に)出席されていました。

ただ、今はどちらかというと着物のほうがマイノリティになってしまっています。着物を着て批判されることが、着物文化の否定に聞こえてしまいますが、これ以上着る人が減ったら、日本の文化がなくなってしまうのではないでしょうか」

同担当者は「政治が動かないと無理」と強い危機感を示したうえで次のように訴えた。

「学校の道徳や家庭科の時間などで着物に触れる機会を作ったりしない限り、着物文化はおそらく戻ってこないと思います。

戦後、GHQが着物から洋装化への転換を進めた影響もあり、着物離れが進んできた経緯がありますが、少しでも着物に親しむ人が増えてほしいと思います」

ファストファッションが主流の現代では、着物に対して「ハードルが高い」と感じる人も多いだろう。記者自身もその一人だが、一度袖を通すと自然と背筋が伸び、気持ちが引き締まる。

祝いの場だからこそ心も整えて臨む――これが着物の本質なのかもしれない。

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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