「今の受信料制度こそが、やっぱり最上だと思う」。2026年1月、18年ぶりの内部昇格としてNHK会長に就任した井上樹彦氏(68)のスクランブル化に関するその発言がいま、ネット上で猛烈な逆風にさらされている。
新会長の言葉、なぜここまで世論と乖離
発端となったのは、3月20日に公開された読売新聞オンラインのインタビューだ。
井上会長は、かねてより視聴者の間で待望論が根強い「スクランブル化(見たい人だけが契約し、受信料を支払う方式)」について、「有料配信やスクランブル方式などとは相いれない」と一蹴。現在の徴収制度を「最上」と自画自賛した。
この発言が報じられるやいなや、SNS上では「時代錯誤も甚だしい」「電波の押し売りを正当化するのか」といった批判が殺到。文字通りの“炎上”状態となっている。
公共放送の使命を説くはずの新会長の言葉が、なぜここまで世論と乖離してしまったのか。
井上会長がインタビューで繰り返したのは、公共放送としての「高潔な使命感」だ。
「スクランブルを導入すれば、視聴率がとれる番組の制作に偏り、内容が画一化していく」「災害や選挙報道など、多額のコストがかかる公共サービスを全員で公平に分担すべきだ」
これらは一見すると筋が通っているように聞こえるが、この論理には決定的な欠落がある。
巨大な組織維持のための「最上の制度」でしかない
現代はNetflixやYouTubeといった多種多様な選択肢が溢れる時代だ。自分が見たいコンテンツに、納得した対価を払うのが「当たり前」の感覚となっている。
3月18日の定例記者会見で井上会長は、昨今のスポーツ中継のあり方について、「WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)がNetflixで独占配信されるなど、放送権料の高騰で国民の視聴機会が限られるのは、あまり望ましくない」と発言し、他社の有料配信サービスが「国民の視聴機会を奪っている」との懸念を示している。
だが、WBCこそ、見たい人がそのコンテンツに対して支払う「スクランブル化」が望ましいのではないか、と、その主張に矛盾を感じるのは、筆者だけではないはずだ。
このような会長の発言は、視聴者からすると「公共性」を隠れ蓑にした、NHKという巨大な組織維持のための独善にしか映らない。
国民の理解を得られないまま強化される法的措置
NHKは2025年10月、本部に「受信料特別対策センター」を設置し、未収世帯への支払督促という民事手続きを強化した。2026年度の計画では、2000件超という、前々年度比20倍規模の法的措置を断行する構えを見せている。
背景にあるのは受信料の未収世帯の増加だ。19年度には72万件だった未収世帯が、24年度には174万件と約2.4倍にまで膨れ上がっている。
この未収世帯の増加こそが、NHKに対する国民からの偽りのない評価である。会長の言う「最上の制度」が、国民の納得を得られていないという何よりの証拠ではないだろうか。
NHKが牙を剥いたのは一般家庭だけではない。3月12日、NHKは実に7年ぶりに、受信料を滞納しているホテル運営会社2社(北海道・福岡県)に対し、計約2200万円の支払いを求める民事訴訟を提起した。
井上会長はインタビューでも「今後は事業所向けも強化する」と明言。受信料の滞納事業所はこの5年間で倍増し、24年度末で約2万件に達している。
ホテル客室のテレビも、公用車のカーナビも、設置の第一目的が「NHKの視聴」でないことは明白だ。それにもかかわらず、NHKは「受信できる設備がある以上、一律に徴収する」という一見正当性のある放送法の解釈を都合よく持ち出して、一歩も引かない。
納得できない点は、その徴収プロセスの不透明さ
納得できない点は、その徴収プロセスの不透明さにある。未契約が発覚した警察や自治体に対しては「丁寧な周知」という対応に留めながら、民間企業や一般国民には「7年ぶりの提訴」や「前々年度比20倍の督促」といった強硬策をとっている。
この明らかな二重基準こそが、井上会長の語る「公平な負担」という言葉の信憑性を根底から覆している。NHKは「自主的な支払い再開が増えた」と成果を強調するが、それは制度への理解が深まったからではない。裁判という権力行使を恐れた、いわば「訴えられるかもしれない」という心理的圧力による結果ではないか。
井上会長はインタビューで、スクランブル化を否定する文脈において、「契約をいただいている方のほとんどは、実際にはNHKをご覧いただいている」とも発言している。
NHK自身の調査データとも乖離する新会長発言
この発言はNHK自身の調査データとも乖離している。NHK放送文化研究所のデータ等を分析すると、1週間に一度もNHKを視聴しない層は若年層を中心に年々増加し、月間で一度もチャンネルを合わせない世帯は、全体の実質約3割から4割に達するという推計もある。明らかに井上会長の発言と事実に乖離があるのだ。
そもそも、「契約者のほとんどが視聴している」のが事実なら、今すぐスクランブル化を導入すれば済む話である。
それを「公共放送の役割と矛盾する」として頑なに拒むのは、「スクランブルをかければ、NHKを見ていない層の解約が相次ぎ、組織が維持できなくなる」という恐怖をNHK自ら感じているからではないか。
NHK会長はここ18年間、外部である民間企業から招へいされてきた。その背景には、NHKの不祥事が相次ぎ、NHKの組織改革が叫ばれ続けてきたためである。その状況下で今回、18年ぶりに内部からの会長が誕生している。
内部出身の会長が誕生した事実こそ、NHKの本質
本来、組織の膿を出し切り、抜本的な改革が必要な時こそ、しがらみのない外部の目を入れるのが定石だ。しかし現在のNHKが最優先したのは、「改革」ではなく、未収世帯急増という存亡の危機に対する組織防衛である。
井上会長による「督促強化」や「スクランブル絶対否定」は、公共放送の理想を語りつつも、その実態は、組織の仕組みを熟知した内部出身者だからこそ迷いなく実行できる、自己防衛策と言える。
国民の納得感よりも、現行の徴収モデルをいかに1円でも多く、1日でも長く維持するか。その「内向きにしか見えない論理」こそが、国民との溝を深淵にまで広げている正体ではないか。
これに対して、世界の公共放送は全く異なる道を歩んでいる。
かつてNHKがモデルとしたイギリスのBBCは、受信料制度(テレビライセンス料)の廃止を含めた抜本的な見直しが議論の俎上に載っている。フランスでは2022年に受信料を廃止し、一般税収などで賄う方式へと転換した。ドイツでも支払いに伴う不公平感から、制度のあり方が常に国民的な議論の的となっている。
世界的な潮流は「直接徴収」から「公費(税金)化」や「配信モデル」への移行だ。デバイスが多様化した現代、テレビの有無だけで一律に徴収する仕組みが限界を迎えているのは、万国共通の認識である。
公共放送の真の基盤は「受信機」ではない
さらに矛盾を露呈させているのが、NHKが強力に推進するネット配信サービス「NHK ONE」だ。放送法改正により、ネット業務は「必須業務」へと格上げされた。
「ネットは個別制御するが、放送は公共性があるからスクランブルは不可」と言う理屈が、情報リテラシーの高い現代の視聴者に通用するはずがない。ネット業務を拡大し、実質的な「公共メディア」へと肥大化しながら、都合の良い時だけ「放送法の解釈」を持ち出す。その不整合さが不信感を増大させ、さらなる「NHK離れ」を加速させている。
NHKの収入の大半は、今も国民が支払う受信料だ。広告に頼らない仕組みは、確かに独立性を守る盾となってきた。しかし既に、NHK自身が支払督促という民事手続きを強化しなければならなくなるほど、民意はNHKから離れている。
この事実を捉えず、受信料制度を「最上」と評価する会長の発言は、国民から大きく信頼を失墜するものだった。
一度失われた信頼は、裁判で勝訴しても取り戻すどころか、ますます国民の心はNHKから離れていくだろう。災害時に情報を発信しても、反発が先に立つようでは公共放送の役割は果たせない。
本来、公共放送の真の基盤は「受信機」ではなく「国民の信頼」だ。時代遅れの放送法に守られた受信料制度を「最上の制度」などと言うより前に、NHKが真の公共性を取り戻すために最も必要なことは何か、井上会長には今一度考えていただきたいと切に願う。
文/村上ゆかり 写真/shutterstock

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